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100:インターンに勧誘される

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「警戒しないでくれ。我々は君と話をしてみたいだけなんだ。アメリー・メルヴィーン」

 今まで彼らにされた仕打ちを思い浮かべれば、警戒しない方が無理というものだ。
 ボードレースで見覚えのある人も混じっているし……
 
(あのときの妨害行為、まだ忘れていないからね!)
 
 これが、養父の教えてくれていた、私を傘下に加えたい、もしくは取り入りたいエメランディア貴族たちなのだろう。
 一人が話し出すと、追随するように他の生徒も話し始める。

「そうだとも。君の身柄は砂漠大国に盗られてしまったが、まだ我々にもチャンスはある。もっと早くに君の才能がわかっていれば、妹と同様に赤薔薇寮で囲っていたものを……」
「まあまあ。アメリー・メルヴィーンは、まだ十三歳だ。父親が必要なときだろうとも。ただ、婚約となれば話は別だ。今はトパゾセリアに籍があるが、エメランディア貴族と婚姻を結べばいい」

 一体、何を言いたいのだろう。はっきり教えて欲しい。
 ド平民の私には、彼らの生態が不可解に思える。
 困惑していると、カマルが私を守るように前へ進み出た。

「君たちがアメリーとの婚約を望むとしても、それが可能かは別問題だ。婚約者を決める権限は彼女の養父にあるし、アメリー自身の意志も尊重されるべきだろう。それに、自分たちが今まで彼女にしてきたことを思い出すといい」

 彼らは、私と婚約したがっていたのか……!?
 まどろっこしい会話のせいで、全然わからなかった。
 とはいえ、カマルの言うとおり、私が誰かと婚約するとしても、この人たちは選ばない。

(ハリールさんの役に立てる相手、もしくは自分の好きになった人を選びたいもの)

 目の前の生徒たちは砂漠大国が私を盗ったなんて言っているけれど、それは違う。
 私が、あの国に籍を置くことを選んだのだ。
 親切なトパゾセリアの人々は、私に手を差し伸べてくれただけ。
 
 カマルに図星をつかれた貴族の生徒は、何も言えずに押し黙っている。
 反論したいが、相手が大国の王族なので無茶もできない……というところだろう。
 今のうちにと、カマルの後ろから顔を出した私は、早口で彼らに告げた。

「ごめんなさい、まだ回りたい場所があるので失礼します。カマル、行こう」

 ここは、逃げるに限る!
 私はカマルの手を引いて、そそくさとその場をあとにした。
 その後はソファー席まで駆け足で移動し、カマルと隣り合って座る。

「はあ、びっくりした。学校の交流会で、いきなり婚約の話が出るなんて!」
「災難だったね、アメリー」
「カマル、助けてくれてありがとう。私じゃ、あの人たちの言葉を解読できなかったよ。貴族の言葉は難しいから練習しなきゃ」
「ふふ、可愛い……アメリーは、そのままでいいよ。砂漠大国は、その辺りがゆるいから」

 彼の中では、私が将来砂漠大国で過ごすことになっているのだろうか。
 喋っていると、カディンとシュクレがやってきた。彼らは騎士風の正装だ。

「アメリー・メルヴィーン、見ていたし聞いていたぞ。迷惑な話だよな」
「いかにも、中央の貴族らしいやり口ですよね。アメリーさん、もっとビシッと言ってやっていいのに」

 二人は険しい表情で、先ほどの貴族たちがいた方向を一瞥する。
 対抗試合では争った相手だけれど、こうして接するぶんには心強い。

「それにしても、二人は仲がいいな。対抗試合の時もそうだったが……」
「ミシュピ魔法学院の生徒が、向こうでカマルさんと話すタイミングを伺っていますよ? ヘドロ色の新星が一緒では、割り込めないでしょうけれど」

 言われてみると、近くに女子生徒の集団がいて、チラチラとこちらを見ていた。

「おおかた、大国の王子に言い寄りたいのだろう。身分が高いのも大変だな」
「ふふ、僕に近づいても、なんの得にもならないのにね」

 カマルは苦笑いしながら、私との距離を縮める。密着しすぎだ……
 
「いくら横に詰めても、このソファーに四人掛けするのは無理だと思うよ? もともと、二人掛け用だし」
「…………」
 
 黙り込むカマルを見て、シント魔法学校の二人は複雑な表情を浮かべた。
 そうしているうちに、ミシュピ魔法学院の生徒たちは食堂の方へ散っていく。
 結局、カディンたちは、向かい側のソファーに座り、四人で会話する形になった。

「そういえば、カディン。ヘドロで飲み込んじゃったけれど、特に体調に異変はない?」
「あ、ああ……あれか。ちょっとトラウマになりそうだな」

 彼は、遠い目になっている……
 けれど、体調は問題ないし、怪我もしていないと教えてくれた。
 続いて、話題は、「今後のイベントについて」に移行する。
 今学期には、まだまだ行事が残されているのだ。

「交流会が済んだら、次は魔法インターンですね。まあ、俺たちシント魔法学校の生徒にとっては、夢も希望もないイベントですが」
「どういうこと?」
「俺たちは、全員強制的に魔法騎士団行きなんですよ。もともと、将来辺境を守るために魔法を習っているので……他の場所で研修する意味がないんです。毎年、騎士団で魔物を倒したり、魔法学校への入学を目指す後進に魔法の基礎を教えたりします」

 シント魔法学校の二人は、楽しみもへったくれもないとぼやき始めた。
 すると、隣でカディンが「いいことを思いついた」と手を叩く。

「そうだ! アメリーとカマルも、辺境へインターンに来ればいいんだ! そうすれば、また戦える!」
「どこまで戦いが好きなの!? ヘドロはトラウマなんじゃなかったの!?」

 思わず突っ込んでしまった。しかし、カディンは目を輝かせながら語る。
 
「何度も訓練すれば、乗り越えられる気がするんだ。攻略方法を見つけてみせる!」
「いいですねえ、俺もアメリーさんと手合わせしたいです。それとは別で、無詠唱の魔法についても、ぜひ教えていただきたい」
「僕も、カマルと手合わせしたいぞ。だが、まずはシュクレの言うとおり、我々に詠唱なしの魔法を伝授して欲しいな。もちろん、一朝一夕にできるものではないと思うが、インターンの期間は半月もあるから、なんとかなるかもしれない」

 私たちに習うよりも、教師に習った方が早いのでは……と思ったが、シント魔法学校にも複雑な事情があるらしい。
 彼らが無詠唱の魔法を使えないのは知っているが、それには貴族が絡んでいるようだ。
 立場的に、彼らは準貴族に当たるので、立場が上の者に表立って声を上げられないとのこと。シュクレが悔しそうに教えてくれる。

「無詠唱の魔法を習いたいのはやまやまですが、辺境に教育が浸透するのには時間がかかってしまいそうです。あなた方の担任を呼び出すわけにもいきません。現状いつ習えるのか目処が立たないので……」
「そうだな、アメリーとカマルに教えてもらう方が早い」

 二人とも、「すごく良い考えだ!」みたいな顔をしているけれど……

「私たち、まだインターン先を決めていないから」
「そう言わず、是非! 騎士団はいつでもインターン生を歓迎する!!」
「ええ。辺境総出であなた方を歓迎しますよ!! それに……アメリーさんは、辺境に来た方が安全だと思うんです。ね、カマルさん?」

 意味深な言葉を残し、カディンとシュクレは去って行く。
 当事者であるはずの私だけ、会話の意味がいまいちわかっていないのだった。
 
(またか……)
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