継母と妹に家を乗っ取られたので、魔法都市で新しい人生始めます!

桜あげは

文字の大きさ
101 / 108
連載

136:冬期休暇と編入試験について

しおりを挟む
 冬期休暇――
 
 私はカマルと一緒に、砂漠大国トパゾセリアへ戻っていた。
 砂漠は温度変化が激しいので、夏は暑く冬は寒い。
 風化した砂や岩石、冷たく乾いた風、澄んだ星空。
 カマルとここで暮らしていくのだなと思っても、まだまだ慣れないことが多い土地だ。
 
 久しぶりに会った養父のハリールさんは、快く私を出迎えてくれた。
 そして、カマルが一足先に、プロポーズの一件について彼に伝達していた事実も判明した。

「アメリーさん、カマル様とのご婚約、おめでとうございます」
「は、はい。ありがとうございます?」
「国王陛下や王妃殿下、王子殿下たちも、あなたとカマル様の婚約を歓迎しています」

 カマルに返事をしただけなのに、なぜか王宮や神殿全体での決定事項になっている……?

(仕事が速いよ……カマル)
 
 とはいえ、私に配慮してくれているのか、特に仰々しい事態にはなっていない。
 夏期休暇のときと同様、ハリールさんやカマルと同じ建物内で、料理や薬作りを楽しみながら過ごす予定だ。

「ハリールさん、あの……改めて、学園にいろいろ送っていただき、ありがとうございました」

 日用品や交流会の衣装など、たくさん助けてもらった。

「ええ、可愛い娘の生活用品ですから、当然ですよ。お手紙でのお礼もすでにいただいていますし、あまり気を遣わないでください」
「ですが……」
「一つだけ申し上げるなら、私のことは父と呼んでいただけると嬉しいです」
「お、お父……様……」

 戸惑いながら言葉に出すと、ハリールさんは心からの微笑みを浮かべてくれた。
 それだけで、私の心も温かくなる。
 
 冬期休暇の間に、トール先生も神殿に戻っており、今は放置していた仕事の片付けに追われている。
 隙を見ては脱走するトール先生を、神官総出で追いかける捕り物を何度か目撃した。
 大抵はカマルの周辺に現れ、カマルが彼を通報し、ハリールさんが捕まえる。
 
 たまに私のところにも出没するので油断ならない。
 でも、教師業も神官長の仕事も大変だと理解しているので、ほんの少しの間かくまって、休憩してもらう。
 そういうとき、トール先生はトパゾセリアについての知識を教えてくれたり、新作の毒薬本や罠魔法本をくれたりすることがあった。
 
 なぜか、一方的に弟子認定されているし……いや、事実生徒なので合っているのだけれど。「この本をありがたがってくれるのは君だけだよ~」とトール先生はいつもご機嫌なのだ。
 彼の本がハリールさんやカマルに見つかると、「危険物だ」と言われ、禁書本コーナーに封印されるらしい。
 気まぐれな人だけれど、私にとっては尊敬する先生の一人である。

「アメリーちゃん、カマルに聞いたけれど、魔法学校の先生になりたいんだって?」

 唐突に質問され、私は頷く。
 しかし、相手がトール先生の場合、カマルが彼に告げたと言うよりは、彼がカマルにつきまとって情報を聞き出した線が濃い。

「そっか、そっかー。カマルの夢は知っていたけれど、君が教師を目指すのなら心強いね」

 トール先生は、カマルがトパゾセリアに魔法学校を作りたがっていることも知っている様子。
 
「私が、カマルの力になれればいいのですが」

 すると、先生がにっこり笑って一枚の紙を差し出した。
 
「ヨーカー魔法学園本校に、教師育成プログラムがあるのは知ってる? 通常授業の他、各専門職を養成する授業があって、クラスを受講後に試験に合格すれば資格がもらえるんだ」

 ちなみに、トール先生は独自の手段で教師になっているので参考にならない。
 彼の方法は正規ルートではないのだ。
 私は渡された紙に目を落とす。
 
「エメランディアでは資格が取れないのですか? ヨーカー魔法学園にいる先生たちは、全員留学経験者ではない様子でしたけど」
「卒業後に資格学校に入ったり、学園内で渡りを付けてもらったりと方法はあるね。エメランディアは後者がほとんどかな。在学中に教師に打診して、分校長の許可が下りれば教師になれる。ただ、アメリーちゃんの場合は、その方法は難しい」
「……魔力過多だからですか? 交流会やインターンの際、エメランディアの貴族は私を取り込もうと動いていました」
「話が早くて助かるよ。残念だけれど、アメリーちゃんの場合は、おそらく妨害される。ハリールのところに、君と婚約したいという申し込みが殺到しているらしい。全部、エメランディア貴族からだ。彼らは、カマルが君にプロポーズしたことを知らないからね」
 
「そ、そんな、ハリールさんに、ご迷惑をっ!!」
「はいはい、落ち着いて。ハリールは、その程度でどうにかなる相手じゃないから。この神殿で大医務長を勤めるなんて、相当の腹黒じゃないと無理……」

 言いかけたタイミングで、トール先生の背後にヌッと影が差す。

「こんなところにいましたか、探しましたよ神官長。今度はうちの娘に、あることないこと吹き込もうとしていたのですか? 私が腹黒だなんて、とんでもない冗談です」
「なんの話かなー? アメリーちゃんの進路相談に乗っていただけだよ。ほら、俺は教師だからね! 彼女が同じ教師を目指したいのなら応援したいし。魔法大国に教師育成プログラムがあるよーって教えてあげたの」
「ああ、アキル様も受けられていましたね。たしかに、アメリーさんが教師を目指すなら、魔法大国で資格を得るのが近道でしょう。魔法大国で資格を得たとなると、箔もつきます。エメランディア国内では、なにかと妨害されそうですからね」
「そうそう。そこで、俺としては『ヨーカー魔法学園本校への編入試験』を勧めるね」

 私は「編入試験?」と首を傾げる。

「エメランディア分校では、なぜか公になっていないけれど、そういう制度があるんだよ。ヨーカー魔法学園の生徒なら誰でも、編入試験を受ければ余所の本校や分校に編入できるという制度だ」
 
 本校はちょっと特殊で、十三歳からの「魔法初等部」と十六歳からの「魔法高等部」とに別れている。貴族の生徒だと、早いうちから働かなくてはならないので、様々な配慮をしているそうだ。初等部といえど学ぶ内容は高度で、高等部は実質、専門の研究機関のようになっている。
 
 トール先生曰く、二年生から本校の初等部に編入し、魔法大国で勉強しながら資格を取るのがいいということだった。
 ハリールさんの様子を窺うと、彼もそれが最善だと思っているみたいだ。
 
「アメリーさん、急に本校編入などと言われても悩みますよね。これはあくまで提案なのですから、あなたがしたいようにすればいいのですよ。エメランディアで教師の資格を取りたいなら、私が全力でバックアップします」
「ハリール……全力で裏から手を回して、邪魔者を全部排除するって、可能だけど面倒くさいよ?」
「言いがかりは止めてください。私は可愛い娘の邪魔をしないで欲しいと『お願い』するだけです」
「お前ほど、えげつないお願いをする奴を俺は知らない」
 
 もの言いたげな表情のトール先生に構わず、ハリールさんは私に優しげな表情を向けた。

「あなたがどのような選択をしても、応援していますよ」

 自分の心配をしてくれる教師や養父の存在に、またしても私の心は温かくなる。
しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。