堂崎くんの由利さんデータ

豊 幸恵

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黒髪の堂崎

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 さらっさらの手触り良さげな黒髪に、黒目がちの大きな瞳、化粧っ気のないつるつるの肌、地味スーツ。
 そこにいたのは紛れもなく、ずっと俺が捜していた男。そして正体を知りたくなかった男……、地味男だった。

「うわあもう、由利さんがいると分かってたら着替えてから来たのに……! こんな格好見られちゃって、恥ずかしい……」
 慌てた様子で目の前で恥じ入る堂崎は、正直いつもの格好よりもはるかに俺好みだ。このかっちり着込んだスーツ、生真面目に締められたネクタイ、そのくせお堅くならないこのちんまり具合。

 そもそもいつもの堂崎の格好は、俺が適当に遊んでいた奴らの総合データから導き出されたものであって、本来の俺の好みではなかったのだ。

「由利さんにこんな姿晒してすみません、僕急いで化粧して着替えて来ますから」
「えっ? ちょ、ちょっと待て……」
 あたふたとしながら俺の脇を通り抜けようとする堂崎を呼び止める。つい「着替えるなんてもったいない」などと口走りそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。

「お、俺は腹が減ってるんだよ。その格好のままでいいから、とっとと飯作れ」
 とっさに代わりの口実を作った俺は、くるりと背を向け、全然気にしていないそぶりを見せながらリビングに戻る。
 正直、一旦座って落ち着いて考えたかった。

 だってこの状況。

 俺の決意一つでどうにでも転がる可能性があった。そして事態を転がすには、多大な精神力を要するに違いないのだ。

「そっか、じゃあ今日はごめんなさい。このままキッチン入るね」
 俺の言葉を素直に聞いた堂崎は、ソファに座った俺に申し訳なさそうに断って、スーツの上着を脱いだ。そしてシャツの袖を肘までまくり、エプロンを着ける。
 俺はそのままキッチンに入った彼の後ろ姿を盗み見た。

 カッターシャツとネクタイにエプロンというのは、俺的には大変ポイントが高い。
 だが、こいつは堂崎。安易に萌えている場合ではないのだ。
 何のしがらみもない相手なら後ろから近付いて、そのきっちりした着衣を乱してみたいと思うけれど、こいつが対象となるとそのハードルは一気に上がる。
 そしてそのハードルを設置したのは他でもない自分だった。

 以前は罪悪感から堂崎のようなタイプは手を出さないと決めていたはずなのに、あの夢以来そんな考えはすっかり薄れ。
 嫌われているかもしれないと危惧していた地味男は、俺のことを大好きな男だったと判明して。
 本当ならすぐにだって欲望のままにこいつを組み敷いて好き勝手できるのに、俺のくだらないプライドとあまのじゃくな性格が、今更堂崎を抱けるわけがあるかと反発する。
 何の苦行だ、これは。

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