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国作り
決戦4
しおりを挟む急ぎ王都への帰還を果たそうと隊列を組み直すギルの瞳が、森に沿って一列に並ぶ男たちの姿を捕えた。
「…………」
想定外の事態に脳を働かせれば、最悪の予想をはじき出す。
「やられましたね」
そう小さくつぶやけば、周囲から騒がしい声があがりはじめた。
「なっ!? 勇者国!?」
「何がどうなってんだ!?」
「やつら逃げたんじゃないのか!? 馬が居るなんて聞いてねぇぞ」
全員が馬に跨り、全速力でギル達の前へと回り込む。
そして、少しばかり距離をとったかと思えば、突然転回し、ギル達の方へと突撃してきた。
突然現れた敵に対し、王国の兵達は作りかけの柵へとその身を隠す。
これがあれば、馬は突撃してこれない。
そう思っての行動だったが、そのせいで隊列が崩れ、兵の混乱に拍車をかける。
そんな混乱に加え、兵の隊列も王国兵を苦しめた。もともとは王国への進行速度を優先して組んだ隊列であり、敵との戦闘を想定したものではない。
盾兵は盾を背に担ぎ、弓と矢は弓兵の背中に縛られていた。
敵が現れたからと言って、即座に反撃出来るような状況ではないのだ。
「……拠点を使え!! 敵の攻撃は我々の足止めに過ぎん!! 攻撃を防いだ後に反撃だ!!」
ここに残された物は、すべて敵が残していった物。
そんな不安がギルの頭をよぎったが、自らの目で罠の類が無いことは確かめていた。それにこのまま思い思いに行動されるよりは、わかり易い命令を下した方が良い。
そのような判断のもと、王国兵は勇者国が作っていた町へとその身を隠す。
冷静に見れば、敵の数はそれほど多くなく、馬の機動力を生かしての奇襲攻撃でしかない。
恐らくは、自分達の足を止めさせ、王都への到着を遅らせるための攻撃なのだろう。
それならば、地の利を生かして敵の攻撃を防ぎ、隊列を整えてから反撃すれば良い。
そう判断したギルは、勇者国が残していった防衛拠点に立てこもり、敵の突撃を待った。
だが、そんなギルの判断をあざ笑うかのように、勇者国の騎兵は突然その動きを止め、馬から降り始める。
戦場の真ん中で、騎兵が馬から降りたのである。
勇者国は何がしたいのだろう?
誰しもがそのような疑問を覚え、茫然としたのもつかの間。
謎の行動をとる騎馬隊の逆方向、勇者国の兵がバラバラに逃げて行った森から、おおおぉおぉおぉぉーーー!! といった鬨の声が聞こえ、勇者国の兵と思わしき者達が大量に森の中から飛び出してきた。
ヤバイ、囲まれる!!
そんな危険を察知したものの、時すでに遅し。6軒しかない小さな町は、一瞬にして敵に包囲されてしまった。
東西南北。見える範囲すべてに勇者国の兵が列を成し、王国兵の行く手を阻む。
そしてなぜか勇者国兵の前で、火の手があがった。
「なにが起きている……」
予想外の事態ではあるが、その炎には見覚えがあった。
スバル王子の突撃を防ごうとした魔法と同じ物だ。
詰まる所、所詮は生活魔法。その効力は長く続くものではない。
魔力の少ない平民が生み出した魔法など、1分もあれば掻き消える。
「騎兵は俺の周囲に集まれ。敵の包囲に穴をあけるぞ!!」
炎が消えたタイミングで突撃を図ろう。
ギルがそう思ったのもつかの間、フワっと周囲の照度が上がったかと思えば、一瞬にして炎が天高く舞い上がった。
ギルの予想に反して、消えるどころか勢いが強まったのである。
「なんだと!?」
再三に渡り起こる予想外の事態。
状況を確認しようと、危険を承知で馬上にのぼり、目を凝らして見れば、炎の向こう側で、必死に水瓶を火に向けて投げつける勇者国兵の姿が見えた。
水瓶が割れるたびに燃え盛る炎。
どうやら可燃性の液体を水瓶に詰め、それを燃やしているようだ。
「みずがめ……っ!!!」
敵の動きを確認し、先ほど見た家の中の状況がギルの頭をよぎる。
大量の麦の横にあった水瓶。その中身は本当に水だったのか?
「動ける奴はついて来い!! 炎を突破するぞ!!」
もし大量に積まれた水瓶の中身が敵の投げつけている物と同じなら、取り返しのつかない事態になる。そうなる前に炎の壁を突破するべきだ。
そんな考えのもと、ギルは愛馬に鞭をうつ。
「くっ!!」
だが、駆けだそうとした瞬間、その出鼻を挫くように周囲に乾いた発砲音が響いた。
火の手と爆音。
元来臆病である馬が、そのような状況で主の言うことを聞くはずが無い。
敵が馬から降りたのはこのためか。
暴れまわる愛馬を宥めながらそんな答えに達したギルは、不穏な音を聞き、空を見上げた。
そこにあったのは、先端が赤く、力強く燃えてい数本の矢。
それを皮切りに雨のように、火矢がギルの頭を越えて行く。
何本もの矢がギルの背後にある家へと刺さり着火。木造の家は、瞬く間に火の手が回る。
「消せぇーー!!!」
ギルがそう叫んでみても、炎を消す手段など無い。
茅葺の屋根が燃え、柱が燃え、麦が燃え、水瓶の中身が燃えだした。
火の手は一瞬にして勢いを増し、王国兵に襲い掛かる。
周囲は火の壁、背後は火の海。
必死に走り、前進に火傷を背負いながら壁の向こうに脱出しようとも、そこには槍や弓、剣を持った炎よりも残酷な者が待ち構えて居た。
勇者が作った防衛拠点に入り込んだ彼らに、逃げ道などは無かった。
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