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〈8〉王都の王子たち 3

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平野の国イルシュカンの王子と山の国ギルフンの王子とメアリが、3人で会談をしていただと!?」

 奇しくもそれは、魔の森を境に国を分け合う2つの国。

 王子として最低限の面識があるリアムは、そこに押された印を見詰めて、それぞれの王子を思い浮かべる。

「ありえん! メガネのクズレイノルド熱血馬鹿ラザロスも、メアリとの面識などないだろう!」

 最低限の国交はあるものの、交流は限定的だ。

 停戦中とは言え、隣国との仲は決して良くない。

 特にイルシュカンとギルフンは、互いに戦争中であり、そこの王子たちとメアリが肩を並べるなど有り得ないはすだ。

 もしメアリの手引きで2人の会談を実現させたのであれば、大々的に喧伝して誇るべき事案だろう。

 少なくとも、パーティーへの出席を隠れ蓑に使うような、陳腐な物ではない。

 そしてなによりも有り得ないのが、書類に記載された開催地。

「王都を離れ、工芸の町ヨルランで話をしただと!? ありえん! こんなものはーー」

「それがあり得るんだよ、兄さん。メアリ嬢は、学園どころか、王都にすらいなかった」

 印はたしかに、隣国の王子たちの物。

 それぞれの母国語で書かれた文章も、同じような内容を示している。

「…………」

 それは相手国の正式書類であり、どうやって取り繕おうにも、被害者であるマリリンの証言よりも信用が置ける。

 マリリンの素晴らしさを学ぼうともしない法務のクズどもは、口を揃えてそう言うのだろう。

 少なくとも、メアリの王都不在は、認めるほかない。

「メアリ嬢は、パーティーへ行く途中で賊に襲われた。逃げる先で隣国の王子たちに助けられ、追っ手をまいたのがヨルランだった」

「…………」

「互いに立場がある3人だからね。メアリ嬢にあらぬ噂が立たないように、会談、と言う形で収めた。そう言う話だよ」

 有り得な、くはない。

 一応の筋は通っている。

 だが、

「ふざけるな!! もしそれが事実だとすれば、マリリンが見たメアリは、なんだったと言うんだ!」

 マリリンが見ているのだから、メアリがヨルランにいるはずがない。

 このような書類が何だと言うんだ!

「まだわからないのかい、兄さん。男爵令嬢が見上げた階段の先。そこには始めから、誰もいなかったんだよ」

「なんだと! 貴様!!」

 マリリンを侮辱する気か!

 そう怒鳴るリアムの前に、ラテス王子の手から新たな紙が落とされる。

「……これは?」

 医師が書き記したカルテのように見えるが?

「宮廷医師に調べさせたよ。マリリン嬢には、怪我も傷もない。教会医師の診断書に、疑問を覚える。そう言っていたよ」

「なんだと!?」

 公欠届け、隣国の正式書類、医師の診断書。

「そんな馬鹿な話が……」

 すべてが、メアリの無罪を主張する物であり、マリリンの立場を悪くさせるもの。

 それぞれの紙を前にして、


「…………く、くくく、くはは!」


 リアムは、楽しげに笑って見せた。

「権力にすがるクズどもが! よほど光の天使であるマリリンが怖いと見える!!」

 このようなクズどもの証言など、信じるに値せん!

 そんな言葉と共に紙を宙に放り投げて、腰の剣を走らせる。

「マリリンが、嘘などつくものか!」

 落ちた紙を両手で引きちぎり、嘆願書の束も破り捨てた。

「なっ!? あなたはどこまで!!」

「1つ教えてやるよ。余と天使の仲を引き裂こうとするヤツには、天罰が下る運命にある」

 ククク、と笑ったリアムが、槍を向ける兵士たちに背を向けて、席へと戻る。

 引き出しの中を探った手が、1枚の紙を掴み、ラテス王子の前へと滑らせた。
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