公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン

文字の大きさ
19 / 65

〈19〉幼なじみの王子さま 4

「それにしても、すごい場所だね。この洗練された空間は、メアリ嬢がひとりで作ったのかい?」

「不器用な私じゃ無理だってことくらい、ラテス殿下もわかっているでしょ? 私がしたことなんて、あの子たちを召還したくらいよ」

「あぁ、やはりこの大きなキノコたちは、メアリ嬢の召喚獣たちだったのか」

 召喚獣まで優秀だなんて、さすがはメアリ嬢だな。

 そんなのどかな声が、死の森とも呼ばれる最悪の処刑場に溶け込んでいく。

 青い空に、白い雲。
 黒い木々に、リトルドラゴンを狩るキノコ達。

 ハンモックに揺れるメアリの声を聞きながら、ラテス王子が楽しげに微笑んでいる。

 そんな王子たちの傍らで、たった1人の護衛が、額に大粒の汗をにじませていた。

(殿下! 殿下!)

 どこに敵いるとも知れぬ土地ゆえに、声は小さく。

 不作法とは知りながらも、指先で上着の裾を引いく。

(どうした?)

(あちらを!!)

 注意を促しながら腰の剣に手を伸ばして、いつでも動けるように姿勢を整える。

 視線の先にあるのは、青い鱗に覆われた巨体と、真っ赤な2つの瞳。

「青竜!?」

 大きく目を見開いたラテス殿下が、メアリを守るように前に出る。

 青は災いをもたらし、一晩で町を滅ぼす。
 晴天から降り注ぎ、迅速をもって人々を食い殺すと聞く。

 最悪とも言える相手が、地を這うような姿勢で、柵の向こうから近付いていた。

 青竜は、空を飛ぶ。

 地面に突き立てただけの木の柵が、役に立つはずもない。

(勝てる相手ではありません! 時間を稼ぎます! メアリ様やそこの少女と共に、お逃げください!)

 周囲のキノコたちにも手伝ってもらって、1秒でも長く足止めをする。

 それ以外に、選択肢はない。

(娘には、ずっと見守っている、そう伝えて頂ければ)

 ラテス殿下ならきっと、手厚く保護してくれるだろう。

 思い残しは沢山あるが、自分の選んだ道だ。

 老いた者には、若者を守る義務がある。

(早く!!)

「くっ……。メアリ嬢! この場は召喚獣たちだけでどうにかーー」

「あら? 今日の獲物は青色なのね。ラテス殿下のために頑張ってくれたのかしら?」






「「…………へ?」」






「青色は、脂がのってて美味しいのよね」




 よいしょ、なんて言葉と共に、メアリがハンモックから身をおろす。

 呆然と立ち尽くす男たちを後目に、軽い足取りで地面へと降り立った。

「始めるわ。みんな、集まってくれるかしら?」

「「「キュ!!」」」

 なんて声と共に、キノコたちが集結する。

 すでに事切れていた・・・・・・・・・青竜が柵を乗り越えて運ばれて、

「「きゅ!」」

 鱗と皮、爪や牙などが見る見るうちに剥ぎ取られていく。

「さぁ、焼くわよ!」

「「「きゅっ!」」」

 大きな肉の塊が大木に突き刺さり、炭火の上に吊される。

 メアリ嬢が奏でるフルートの調べに合わせて、キノコたちが青竜の肉をクルクルと回しながら、その周囲を舞い踊っていた。

「ええっと、これは……?」

「バーベキュー、に見えますな……」

 呟くように話す男たちの存在なんて、視界に入っていないらしい。

 程よい焼き目が付いて、肉汁が滴り落ちる。
 キノコたちの踊りが激しさを増して、シュワッ、と炭火に触れた旨味が、周囲に漂ってくる。

「きゅっ!!」

【上手に焼けましたー】

 どこからとなく、そんな声が聞こえた気がした。

「リリ、切り分けてくれるかしら?」

「はい! 任せてください!」

 きれいな笑みを浮かべたメイドの少女が、肉に包丁を突き立てて、程よいサイズに切り分けていく。

 表面の皮がパリパリと音を立てて、切り口から肉汁が溢れ出す。

 ハーブが混じった塩を振って、完成らしい。

「出来ました」

「ご苦労様。それじゃぁ、ご褒美ね。はい、あーん」

「わっ、ありがとうございます! 熱っ、うまっ! 美味しいです!」

「そう、それは良かった」

 決死の思いから数分。

「本日のお夜食です。ご賞味ください」

 毒味まで済ませた美味しそうなお肉が、目の前で輝いていた。
感想 176

あなたにおすすめの小説

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

異世界に逃げたシングルマザー経理は、定時退勤だけは譲れない

木風
恋愛
DV夫から一歳の娘を抱えて逃げた鈴木優子は、光に飲まれて異世界の王宮へ転移してしまう。 生きるために差し出した武器は簿記と経理経験――崩壊寸前の王宮会計を『複式簿記』で立て直すことに。 ただし譲れない条件はひとつ、「午後五時の定時退勤」。娘の迎えが最優先だからだ。 その姿勢に、なぜか若き国王ヴィクトルが毎日経理室へ通い始めて――仕事と子育ての先に、家族の形が芽吹いていく。

ウッカリ死んだズボラ大魔導士は転生したので、遺した弟子に謝りたい

藤谷 要
恋愛
十六歳の庶民の女の子ミーナ。年頃にもかかわらず家事スキルが壊滅的で浮いた話が全くなかったが、突然大魔導士だった前世の記憶が突然よみがえった。  現世でも資質があったから、同じ道を目指すことにした。前世での弟子——マルクも探したかったから。師匠として最低だったから、彼に会って謝りたかった。死んでから三十年経っていたけど、同じ魔導士ならばきっと探しやすいだろうと考えていた。  魔導士になるために魔導学校の入学試験を受け、無事に合格できた。ところが、校長室に呼び出されて試験結果について問い質され、そこで弟子と再会したけど、彼はミーナが師匠だと信じてくれなかった。 「私のところに彼女の生まれ変わりが来たのは、君で二十五人目です」  なんですってー!?  魔導士最強だけどズボラで不器用なミーナと、彼女に対して恋愛的な期待感ゼロだけど絶対逃す気がないから外堀をひたすら埋めていく弟子マルクのラブコメです。 ※全12万字くらいの作品です。 ※誤字脱字報告ありがとうございます!

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。