44 / 65
〈44〉 上空の戦い
しおりを挟む崖の中腹にあった洞窟を出てから、30分足らず。
白い竜の姿になったドレイクの背に乗ったリリが、楽しそうに進行方向を指さしていた。
「メアリ様、王都が見えてきました! 本当に早いですね!」
「そうね。近道だったでしょ?」
「はい! 鳥になれたみたいで、気持ちいいです!」
大きなキノコたちが持ち込んでくれた白い椅子から立ち上がったリリが、両手を大きく広げる。
頬を撫でるひんやりとした風の感触が、なぜかとても心地よかった。
ふと、視線をおろすと、空になったカップとお皿が見える。
「メアリ様、紅茶のおかわりはいかがですか?」
一瞬にして、メイドの表情を取り戻したリリの側に、様々な種類のお菓子を携えた大きなキノコが寄ってきた。
優雅に微笑んで、その中の1つを手に取る。
「この気温と風景でしたら、こちらの焼き菓子が最適だと思います」
「そうね、お願いするわ。リリもどんどん食べて良いわよ」
「はい! ありがとうございます!」
お菓子の誘惑に、ちょっとだけメイドらしさが剥がれていった。
新しいカップに紅茶を注いでテーブルに置いて、もう1つ用意する。
真っ白い椅子に座り直したリリが、太陽と雲、雄大な山々をモチーフにした焼き菓子を口いっぱいに頬張った。
「美味しいです!」
「そう、それは良かったわ。それにしても、白竜の上で飲むお茶は、何だか優雅ね」
「そっ、そうですね」
うふふふ、なんて乾いた笑いが、リリの口から漏れていた。
チラリと横を見ると、真っ白い翼が優雅に羽ばたいていて、後方には竜の尻尾が揺れている。
大空を雲よりも早く飛び回っているのに、揺れなどは何も感じない。
新雪を思わせる大きな背中は、お茶会が出来るほどの広さと安心感が溢れていた。
雲と同じ高さで、森の木々を下に見る。
王国の権威を示すために作られた巨大な城も、煌びやかな教会も、今はちっぽけな物に見えていた。
「王子どころか、国王ですら見ることの出来ない光景ね」
「その通りだよ。君たちの基準で言うと、神々の見る景色、と言ったところかな」
それにしても、良い香りの紅茶だね。一緒に楽しみたかったよ。
なんて、振り向いた白い竜の口が、そう言葉を紡いでいた。
「忘れているのかも知れないけど、普通は僕に会うことすら出来ないのからね」
そう言って、白い竜がふわりと笑った。
ドレイクは、教会に神として崇められる古竜の1人。
そして、お父さんが竜の王だから、彼は本物の王子だった。
本人からも、メアリ様からも、そく聞いたけど、いまだに意味がわからない。
それに……、
「神の背中でお茶会とか、もう、なんなんだろう?」
罰当たりとか、そんなレベルじゃないのは確かだ。
それでも、メアリ様は普段と変わらない様子で、空の旅と紅茶を楽しんでいる。
「あら、良いじゃない。友達になったのなら、立場なんて気にしない方が楽しいわよ。相手の為にもね」
「……そうですね」
うん、まぁ、メアリ様が言っていることも、たぶん間違ってない。
ドレイクさんは、メアリ様と一緒で気さくな感じだから、彼も垣根のない距離を望んでいると思う。
でも、友だちの背中でお茶会って、おかしいよね!?
まぁ、メアリ様だから、気にしないけど。
「あのドレイクさん。今更ですけど、私たちが乗ってて、重たくないですか?」
お菓子を1つ頬張って、紅茶を飲んでから、顔の方に問いかけてみる。
小さく振り向いてくれた竜の口元が、楽しげに笑っているように見えた。
「平気だよ。メアリくんには、引き籠もりだって思われているみたいだけど、筋肉はそれなりにあるからね。リリくんは心配性なのかな?」
「いっ、いえ。そんなことはないんですが、最近はちょっと……」
食べ物が美味しすぎて……。なゆて、リリがモゴモゴ言い訳をする。
それでも、重たくないと口にした言葉に、嘘偽りないようだ。
ちなみにだが、ドレイクさんのお腹は、それなりに割れているらしい。
「見習わなきゃ……」
なんて言葉にしながら、リリがテーブルの上のお菓子に視線を向ける。
お茶会を始めてから、20分くらい。
王都の上空を飛ぶドレイクは、ゆっくりと旋回しながら、高度を下げていた。
着陸までどれほどの時間があるのかもわからないけど、残りは5分とかからないだろう。
「メアリくん。どこに着陸する予定なのかな?」
「そうね。城の庭か、教会の前なら広い場所があるわね。リリの家なら、教会の方が近いかしら?」
「教会だね。了解したよ」
そんな言葉を聞きながら、リリがゴクリと喉を鳴らす。
残すと勿体ないよね、と誰かにいいわけをして、最後のお菓子をパクリと頬張った。
48
あなたにおすすめの小説
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~
白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」
枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。
土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。
「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」
あなた誰!?
やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!
虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
0歳児に戻った私。今度は少し口を出したいと思います。
アズやっこ
恋愛
❈ 追記 長編に変更します。
16歳の時、私は第一王子と婚姻した。
いとこの第一王子の事は好き。でもこの好きはお兄様を思う好きと同じ。だから第二王子の事も好き。
私の好きは家族愛として。
第一王子と婚約し婚姻し家族愛とはいえ愛はある。だから何とかなる、そう思った。
でも人の心は何とかならなかった。
この国はもう終わる…
兄弟の対立、公爵の裏切り、まるでボタンの掛け違い。
だから歪み取り返しのつかない事になった。
そして私は暗殺され…
次に目が覚めた時0歳児に戻っていた。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。こういう設定だとご了承頂けると幸いです。
大好きだった旦那様に離縁され家を追い出されましたが、騎士団長様に拾われ溺愛されました
Karamimi
恋愛
2年前に両親を亡くしたスカーレットは、1年前幼馴染で3つ年上のデビッドと結婚した。両親が亡くなった時もずっと寄り添ってくれていたデビッドの為に、毎日家事や仕事をこなすスカーレット。
そんな中迎えた結婚1年記念の日。この日はデビッドの為に、沢山のご馳走を作って待っていた。そしていつもの様に帰ってくるデビッド。でもデビッドの隣には、美しい女性の姿が。
「俺は彼女の事を心から愛している。悪いがスカーレット、どうか俺と離縁して欲しい。そして今すぐ、この家から出て行ってくれるか?」
そうスカーレットに言い放ったのだ。何とか考え直して欲しいと訴えたが、全く聞く耳を持たないデビッド。それどころか、スカーレットに数々の暴言を吐き、ついにはスカーレットの荷物と共に、彼女を追い出してしまった。
荷物を持ち、泣きながら街を歩くスカーレットに声をかけて来たのは、この街の騎士団長だ。一旦騎士団長の家に保護してもらったスカーレットは、さっき起こった出来事を騎士団長に話した。
「なんてひどい男だ!とにかく落ち着くまで、ここにいるといい」
行く当てもないスカーレットは結局騎士団長の家にお世話になる事に
※他サイトにも投稿しています
よろしくお願いします
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる