辿り着けない世界

和之

文字の大きさ
160 / 196

越前大野城へ3

しおりを挟む
「どうして俺を郷里に呼んだ経緯《いきさつ》が解るのに避けたんだ。大場さんの車で来た時は天守だけ上がって帰ったんだ」
「先ずは順序立てして我が家の置かれている立場をじっくりと見てからでないと、藩主の功績なんて見ても意味がないだろう」
 最初から当家の特殊な事情に坂部が何処まで関心を示すか。近辺を観光目的で案内して、次に当家にそっぽを向かれないように、姉に頼んで暫く坂部の関心を惹かせた。
「伝統産業や技術でもない、ただ江戸時代から続いた旧家の単なる我が家が抱える後継者問題に、何処まで立ち入ってくれるか。いきなり何処にでも有る旧藩の歴史解説を見せても仕方がないだろう」
 高村が説明するうちに丁度、車は南側の駐車場に着いた。此処で高村は、こちら側は急な斜面の山道だから典子には車で待つように勧めた。
「あたしもこの目で確かめておきたい」
 と一緒に車から降りた。
 三人は当時の登城口で有る、江戸時代に作られた百軒坂から入り、続く山道を登りだした。此処でスカートが多いのにこの日は、彼女が珍しいジーンズ姿なのがこれで判った。
「今日は珍しく美紗和さんと同じスタイルですね」
 典子さんはちょっとはにかみながらも、ええ此の山道ですからと観念したように歩き出した。
「典子さんは、此の城は初めてって言うことはないでしょう」
「あたしは地元ながら、いつも眺めるだけで来た事はありません」
 エッ、と驚いて高村の苦笑いで事実だと確信した。
「でも狭い町ですから、他に行く処はないでしょう」
「高校時代は真由と一緒に福井市内で映画を見たり、ウィンドショッピングして楽しんでました」
「男みたいに活発な姉貴なら別だけど、大抵の普通の女の子は福井へ行って愉しんでるよ」
「それじゃあ美紗和さんが普通じゃないみたいで、坂部さんが誤解するでしょう」
 初対面でも言いたい放題の姉貴なら、心配は入らないと高村は大笑いした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

処理中です...