辿り着けない世界

和之

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辿り着けない世界1

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 今年入学した坂部の大学生活最初の夏休みが終わろうとしていた。高村と坂部は来た時と同じように、大場さんの運転するシーマで福井駅まで行った。今度は美紗和さんも同乗して駅まで見送りに来てくれた。
 典子さんと利貞ちゃんが亡くなり、高村家の直系は美津枝さんを残して、ようやくその幕を閉じた。おじいちゃんの遺訓はこれで途絶え父の利忠を中心にして、高村家は古い因習から抜け出し新しく生まれ変わった。だが大場さんは相変わらず父と兄の克之を送迎して、裕介はまた大学に戻る。生活は今までと変わらないが気の持ち方、気分は一新した。 
 駅に向かうシーマにはどう言うわけか裕介が助手席で、美紗和さんと坂部が後部座席で話し込んでいる。これで美紗和さんと坂部には、次の冬休みまでには大きな進展が見られそうだ。
 大場さんと美紗和さんに見送られて列車は福井駅のホームを離れた。此の夏休みは思いの他に厄介な難題と新しい恋に目覚めた。差し引き坂部にとってはプラスだが高村も典子さんとの間に決着をみた。
「高村、お前本当に心中するつもりで夜叉ヶ池に行ったのか」
「三人揃って池に身を投げたのは事実だと謂うのに、なんで急にそんなことを聞くんだ」
「溺れた割には医者の見立てでは、お前あんまり水を飲んでなかったそうだなあ」
 本当に三人揃って身投げしたのか、まだ納得感が湧かなかった。が、葬儀が終わり落ち着くまでは禁句だ。
「聞いた処に依ると、あの池に飛び込んで俺達の所まで泳いできたのは坂部、お前だそうだなあ。その時に見ただろう三人揃っていたのを……」
 今更何を言わすんだと謂う顔をした。
「三人とも浮いていたって言う事は、そんなに水を飲んでなかったそうだ。普通は沈むからなあ」
 飲んだ水が少ないのは俺だけじゃないと居直られた。
「真っ先に子供を引き揚げて岸辺にいる美紗和さんに預けると、とって返して二人を両手に抱えて水中に足蹴りしながら泳いだが、お前の方が軽かったから沈まないだろうと思って途中から典子さんを抱えて岸まで泳いだ。美紗和さんも腰まで浸かって典子さんを抱えると直ぐにとって返してお前を最後に引き上げたんだ」
 これには高村は沈黙した。それで話題を変えた。




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