ツンデレからデレを引いたような女のせいで、高校生活が憂鬱なんだが

逸真芙蘭

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人生は大抵うまくいかないものだ

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 人は言う。

 高校生活。それは青春の代名詞のような言葉だ。

 うら若き少女と、純粋さを残したあどけない少年たちが、希望に満ち溢れる未来に向かって、切磋琢磨する場所。
 そこに絶望の二文字はなく、毎日が笑いと、楽しさに満たされて過ぎてゆく、と。

 だが、それは幻想だ。日本の高校生たちが心に秘めているのは、輝ける未来への、高揚感などではなく、憂いに満ちた、憔悴しきった日本社会に対する、漠然とした不安で、社会に出ることに著しく恐怖を抱き、ピーターパンシンドロームに陥る男子や、現実から目をそむけ、いつまでも白馬の王子様が、自らの救いようのない、退屈な人生を変えてくれるものだと信じる、シンデレラコンプレックスに罹る女子が増えている。

 もはや高校生活というのは、少年少女の瞳を濁らせ、疲弊した日本社会に送り出す、矯正期間でしかない。
 
 それでも、いかにも楽しげに高校生活を、エンジョイしているかのように見せる奴らがいる。

 集団で、ワイワイはしゃぎ、一時の感情によって、不純異性交遊に及ぶことを、リアルが充実しているというのなら、もはやこの国に未来はないな。それらは単に、快楽主義でしかなく、希望の見いだせない、将来に対する逃げでしかない。

 結論。現実見ろよ、リア充どもが。

 そんなことを思いながら、道に広がって歩いている、男女の集団を睨むようにして眺めていた。

 リア充が群れたときに、強気になって、大声で騒ぐのは、群生化したイナゴが、凶暴になるのと同じ理屈だろう。おまけに貴重なコメを食い荒らす、有害生物としても共通している。つまりリア充という存在は、イナゴと同等のものだ。否、タンパク源にならない分、よりたちが悪い。

 イライラが募るにつれ、思想が過激になっていったが、堪忍袋の緒が切れる前に学校についたのでよかった。リア充どもは、ボッチが切れたら恐ろしいのだということをよく理解しておくべきだ。
 なぜ恐ろしいかって? 止めてくれる友達も、悪いうわさが流れて、周りの友人が離れていく恐れもないので、思う存分暴れることができるからである。……自分で言ってて悲しくなってきた。

 昇降口で上履きに履き替えて、一年の教室に向かっていった。

 階段を上っていく途中でも、よく学校の朝に見られるであろう光景を目にする。
 朝、来た友人に挨拶をし、昨日のテレビの話題を振っては、楽しそうに馬鹿笑いするのだ。

 もちろん、俺は誰かに呼び止められることもなく、最短で教室に向かった。俺の持論だが、この世で一番時間を有効活用している種族は、ボッチ族であると思う。つまり俺は、世界最強。違う。

 俺の高校生活は、お世辞にも楽しいものとは言えない。むしろ憂いに満ちている。
 だが、それは周りのリア充のせいというわけではない。
 ほとんどの原因は……

「あら、花丸君。今日も学校に来たの? てっきり私の言葉攻めに嫌気がさして、休むものだと思ったのに。あなたドМなのかしら? 近づかないで、変態は嫌いよ」

 隣の席のこの女である。
 高校に入学してから一か月。不運にも、この暴言女の横の席になってしまったばっかりに、毎日この女の相手をしている。

 橘美幸たちばなみゆき。見てくれは美少女で、おそらく、この女を一目見て、惚れない男を探す方が難しいかもしれない。俺とて、はじめこの女の隣の席になった時は、希望に満ちた明るい高校生活が送れるとまではいかないが、少し、いいことがありそうだと思ったものだ。
 一か月前の自分を怒鳴りつけてやりたい。

 女子に話しかけられて舞い上がっていた俺は(そもそも男子にすら話しかけられない)、この女の本性に気付くころには、すっかり暴言のはけ口として利用されるようになってしまっていたのだ。

 リア充になぞ憧れたことはない。平穏な高校生活を送り、そこそこの大学に進学して、平凡な人生を送られれば俺は良かったのだ。それなのに……。

 俺は小さくため息をつくようにして、口を開いた。無視すればいいのかもしれないが、女に口で負かされて、子犬のように逃げるというのは、男が廃る。いくら俺でも、捨ててはいけない誇りというものはあるのだ。

「だったら話しかけてくるな。お前どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「あら。勘違いも甚だしいわね。私のような可愛い女の子が、あなたみたいな冴えない男子に惹かれる理由がどこにあるというの? そもそも、お友達のいないあなたが、私のような可愛い女の子と話せる機会を得られていることに、感謝すべきじゃなくて?」
 この女、自分で自分のこと可愛いといったぞ! しかも二回!

「このナルシシスト女が」
「あなた馬鹿?」
「ナチュラルに人を馬鹿にするな!」
「人は誰しも自分の価値を自覚すべきというものよ。もしあなたが、自覚のないふりをする、カマトトぶった、かわいこぶりっ子に好意を抱くというのなら、あなた相当感覚がひん曲がっているわ」
 なんか、そういわれると、それも正しい気がする。

「だが、自覚するのと、それを公言するのとは違うだろうが」
「あら、あなた私の事可愛いと認めてくれるのね。あなたみたいな変わり者に言われても、あまりうれしくないのだけれど、一応礼は言っておくわ」
 この女どんだけ自分に都合のいい解釈をするんだよ。

 とりあえず、歩く暴言のような隣の女のことは放っておいて、鞄をおろし、授業の準備をする。

「ねえ、花丸君」
「なんだよ」
「アリクイって知っている?」
「馬鹿にするな。舌で蟻塚のアリを食べる哺乳類だろ」
「そうよ。アリクイってすごいのよ。アリが全滅しないように、一つの蟻塚から少しずつしか食べないのよ」
「……だからなんだよ」
「アリクイとアリの関係って私達に似てないかしら。花丸君が毎日学校に来られるぐらいに、手加減しているもの」
「お前、自覚があって暴言吐いてるなら、かなりやばいぞ。大体、アリも俺も、得することないじゃないか」
「あら。美少女にペロペロしてもらえるなんて、あなたみたいな人にとってはむしろご褒美ではないの?……気持ち悪いわ。変なこと考えないでくれる」
 お前が言ったんだろうが。



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