ツンデレからデレを引いたような女のせいで、高校生活が憂鬱なんだが

逸真芙蘭

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こっち見ないでくれるかしら

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 我が校、県立神宮高校かみのみやこうこうは、尾張に立地する、名門進学校である。
 しかし、勉学だけではなく、部活動や、学校祭などの行事も盛んらしい。
 部活動は強制されるものではないのだが、ほとんどの生徒が何かしらの部活に参加する。
 そんな中で、未だ無所属の俺は、選ばれた精鋭。時代の最先端を行っている。故に俺はいつも孤独なのだ。
 時代がいつまで経っても、俺に追いついてこないのが、最近の悩みである。

 入学してから一ヶ月、橘美幸のせいで、鬱屈した高校生活を送っていたのだが、ここ数日は、晴れやかな気分で、安穏とした日常を過ごすことができていた。
 やはり神は見ているのだろう。理不尽に苦しめられる、か弱い男子高校生の願いは聞き入れられて、橘と俺の席は遠く離れることとなった。
 
 かの暴言に悩まされることもなくなり、一日中誰とも話さないまま、家に帰る日々が続いた。

 連休明けの昼休み、定番となった中庭での昼食に及んでいたところ、背後に誰かが立った。女の甘い匂いがする。
 フェロモン振りまいて、男に近づく女は、俺の嫌いなものランキングTOP3に入る。

 舌なめずりをするようにして、ゆっくりと後ろを振り向いた。

「花丸君。今日も一人でご飯かしら。教室で食べないの? ああ、ごめんなさい。教室にあなたの居場所なんてなかったわね。不躾なことを言って悪かったわ。謝ります」

 そこにいたのは、橘美幸である。

「俺の背後に立つな」
 ここが夜の繁華街だったら、間違いなく殴っていた。そして、ボコボコにされていた。

「勘違いしないでくれるかしら。私はここを通りすがっただけよ」
「ここを通ってどこに行くと言うんだ」
「ここよ」
 そう言って橘は、俺の横に座った。見ると、手には弁当を持っている。

「何しに来た」
「見てわからないの? お昼を食べに来ただけなのだけれど。あなたみたいな、著しく知能の劣った人には、言葉で説明しないとわからないのかしらね。私は天気のいい日は、外でご飯を食べるのが好きなのよ、花丸君。本当を言うと、あなたみたいな人には、半径二万キロメートル以内に近づいてほしくないのだけれど、命には等しく生きる権利があるので、我慢してあげてるのよ。感謝なさい」
 半径二万キロ外だと、俺地球にいられないね。

「何だ、てっきり俺と話がしたいのだと思ったぜ」
「自意識過剰は健在のようね。私はあなたとなんて、話をしたくないのだけれど、花丸君がそこまで話をしたいのなら、お相手し差し上げても構わないわよ」

「何をいうか。本当は、おしゃべりなぼっち女が、話し相手がいなくて、禁断症状が出てきただけじゃないのか」
「面白いわね、花丸君。あなたみたいな、社会生活不適合者にはわからないのかもしれないけど、私、結構人気あるのよ。可愛いから」
 黙ってればな。

「だから、女の友達ができないんだろ」
 俺も、女にちやほやされている軟派な男を見ると、殺気が湧いてくる。それは女子も同じなのだろう。

「かもしれないわね。人間の感情って醜いわね。人は自分にないものを持つ存在を、排斥しようとするものなのよ。あっ、一応言っておくけれど、あなたはまた別よ。あなたが一人なのは、嫉妬されているわけでなく、普通に存在を認知されていないの。影が薄すぎるのよ」

「お前は、俺の非難をしないと会話が続かないのか?」
「非難ではなく、批評よ。あなたがまともな人間になれるように、更生させてあげようとしているの。感謝してくれても良くてよ」

「……どうせお前に言い寄ってくるような男は、顔だけしか見ない、低俗な奴らだろうが」 
 そして、不用意に近づいては、この女の言葉の暴力にガツンとやられて、返り討ちに遭うのだろう。
 この女の本性を知っている男が、こいつに近づくとは思えない。

「あらよくわかっているじゃない。その点、あなたのほうが、ホイホイ寄ってくる馬鹿な男達より、まだましね。だからといって、あなたを好きになることは、私達以外の全人類が滅んだとしてもありえないでしょうけれど」

「そりゃどうも」
「でも悲しまないで、好きの反対はなにか知っている?」
「嫌いだろ」
「違うのよ。好きの反対は無関心よ。私はあなたが大嫌い。でも、それは無関心というわけではないということよ」
「つまり、ベクトルが九十度くらいずれているわけだな。要するに、お前の気持ちに、純虚数、iをかければ、俺を好きになるのか?」
 今の秀逸じゃね? 
「は?」
「いやだから、虚数単位のiと、愛をかけてだな」
「は?」
「……すみません」

「例えがすごくわかりにくい上に、間違っているのだけれど。さすが社会に居場所がない花丸君は、存在しない数で物事を考えてしまうのね。同情するわ。それと、私のベクトルがずれたら、無関心よ、花丸君」
「だったら、どっちも変わらんだろうが」
「あら、私に好かれたら嬉しいのかしら、花丸君」
「嫌だよ。お前みたいな、ヤンデレ予備軍」
「女の人と、お付き合いしたこともないのに、よく強がれるわね」
「馬鹿言うな。俺だって、ちょっとはモテたんだぞ」
「あら、じゃあ、聞かせてよ」
「隣の席の女に、今日の天気は何? と聞かれるくらいにはモテた。その後、時間割とか名前も聞かれたし」
「……日直で、日誌に書く内容の質問を、女子との会話にカウントしてしまうあたり、あなたの会話経験の少なさが察せられるわね。しかも、隣の女の子に、名前すら覚えてもらっていないだなんて。さすがの私でも、心が痛むわ」

 ほっとけ。

「それより聞いたかしら、A組の遠足費の話」
「なんのことだ?」
「ああ、そうね。お友達のいないあなたに、噂話が回ってくるはずもなかったわね。気が回らなくてごめんなさいね。でも、私が教えてあげるから泣かなくていいのよ」
「……」
「A組の遠足費が、鍵のかかったロッカーから紛失したそうなのだけれど、教師のところに話が行く頃には、犯人とセットで見つかったというのよ。不思議な話もあるものね」
「……別に不思議なことはないだろう。犯人はすぐ下のロッカーのやつだ。天板はネジで止めてあるからな。下から外せる」
 そう。俺もロッカーを覗き込んで、これ、バレずに女子の体操服とか水着とか触れるんじゃね?! とか思った。……いや、やらないけれど。

「……もしかして、盗んだのあなた? 女の人を視姦するぐらいのことしかできない人だと思ったのに。やめて、見ないでくれるかしら」
 おっ、俺は別にお前の断崖絶壁とか見てねえし。

「俺がそんなことするやつに見えるか?」
「……そうね。気の小さいあなたは、せいぜいやっても窃視ぐらいでしょうね」 
「そっちじゃない!」
 あ、こいつ笑いやがった。畜生!

「それでね、花丸君。もうすぐ入部期限なのだけれど、どこの部活に入るのか決めたのかしら」
「俺はどこにも入らん。……そういうお前は、どうするんだ」
「決まっているといえば、決まっているのだけれど。あなたに話す義理はないわね」
 さいですか。

「もうお昼も終わるわね。戻りましょうか、花丸君。……でも、十メートルくらい後ろを歩いてね。あなたと勘違いされては、橘家始まって以来の恥になるから」
 だったら、俺の横で弁当食うなよ。





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