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第2章.幻想

29.後輩

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 あー、やばいよ。あんなカッコつけた事言っちゃったけど…私達ただズボン脱がしただけだよ。戦いに勝ったわけでもないのに勝った気で言っちゃったよ…。私は道の端っこを歩きながら、とても後悔していた。


 〈称号『幻の風格』を贈与します〉


 は?
 なんですのん。その称号?
 突然、頭の中で声が聞こえた。私は立ち止まり、【鑑定】を発動させる。



『幻の風格』…無意識に人を魅了、威圧した者に贈与される称号。敵、味方関係なく魅了、威圧をかけ、近寄り難い雰囲気を放つ。



 …は?
 私、なんか魅了してたの? 威圧ならこの『月影の衣』があるから分からなくもないけど…。


 …あ、そうか。忘れてたけど私このゲームの中では中々の美少女だったわ。私は街にある窓で自分の顔を確認する。

 んー。まずこの右目にある炎のタトゥー。他の人は腕とかお腹についてる。顔についてる人自体少ないから、目を惹くんだろうな。

 そして何よりこの整った顔!! 黒い髪! 凛とした目! 鼻筋が通っていて、口も小さい! こんな女の子いたら…巫女装束とか着せさせてみたいかも。自分では絶対やらないけど。
 そんな事を思って顔を触っていると


「あ、サキさん! 体調は大丈夫ですか?」
 私の背後にはサキさんと肩に乗っているネズミのチューがいた。


「あー、全然問題ないよ。心配してくれてありがとう。で、そこで自分の顔を見つめて何してんのさ?」
 と呆れている様な、照れている様な? 表情をしてサキさんは尋ねる。


「あぁ…いや…それよりサキさんは何をしてるんですか?」
 私は話題を逸らした。


「あぁ、これからそこの店で仕事だよ。」
 サキさんがニヤニヤしながら指差した店は、私が鏡として顔を見ていた所であった。


「あ、そ、そうなんですね!そ、それじゃあ!!」
 私は恥ずかしくなり、そこから早く離れたかったが、サキさんに腕を掴まれる。


「まぁまぁ、そんな出会ったばかりじゃないか。」

「さっきも会いました!!」

「いいから!!」
 力がゼロの私にとっては抵抗はできない。私は強引に引かれて連れて行かれた。





 ~ハトムーの古書堂~


 ガランガラン
 扉を開くとそこは図書館のように大量の本があった。本は乱雑に置かれており、歩く所も少ない。


「ハトムーさーん! 不審者発見ー!!」


「ちょっと!!」
 サキさんは中に入った瞬間に大声で叫んだ。


「あぁん? 不審者?」
 すると本の奥の奥。そこから口調とは裏腹に渋い、優しそうな声が聞こえた。


「ん? そいつがか?」
 奥から出てきたのはごっついファンタジーに出てくるドワーフの様な体型をしたおじさんだった。ハトムーさんは、本を掻き分けるようにして出てくると、私たちの前に立つ。


「それで、サキちゃん。この子が不審者か?」
 おじさんは私と身長が変わらないくらいの身長だ。サキさんを見上げながらそう聞くハトムーさんに、私は少し可愛いなと思ってしまった。


「はい! そうです!」
 と元気そうに笑って答えるサキさんを私は横目で睨む。…少し納得いかない。ちょっと窓を借りてただけだし…。私は顔を顰めた。


 その様子を見てたハトムーさんは
「はっ! そうか! こりゃあ、立派な不審者だなぁ!」
 と言い、私の頭を豪快に撫でる。私の髪はワシャワシャになっている。


「名前はなんて言うんだ?」

「スプリングです。」

「そうか! スプリングか! じゃあ今日は罰として本の整理をしてもらうか!」
 ハトムーさんは本の山になっている所を指差し、言う。


「え…あれをですか…?」
 と私は聞く。何百冊あるの、あれ…。


「あぁ!不審者だったんだろう?あれぐらいで勘弁してやるんだ。感謝して欲しいぜ。」


「そうですよねぇ。不審者ですもん!」
 とハトムーさんとサキさんはニヤニヤとしながら話す。

 絶対分かってる!絶対私が無実だって分かってる!!



「…はぁ。分かりましたよ。もうやればいいんでしょ。」
 私がそう言うと2人は



「「貴重な労働力ゲット!!」」
 ハイタッチしていた。



「…。」

(だ、大丈夫!俺たちも手伝う!)
(だからそんな顔しないで下さい!)
 2人から何か話しかけられていたが、私の頭には何も入ってこなかった。


「おいしょっと!…スプリング~、そんなに怒らないでよ~。ここの仕事って大変だから手伝って欲しかったんだよ~。」
 サキさんは本棚に本を並べながら言う。


「……!」

 プルプルプルプル



「スプリングって…力何あるの?そんな持てない?」
 私は本を10冊ほど、身体中を震わせながら持ち上げる。


「わ、私、力0だから!」
 ふぅ。重かった。私は本棚の近くに本を下ろす。


「え、力0? このゲームで?」
 サキさんは目を見開き、動きを止める。


「ついでに防御もです。」


「え!!それでどうやって戦うの!?」


「いや~、まぁ、頑張れば戦えるもんですよ。」
 と曖昧に答える。職業幻術師で、まだ幻術使えないって言ったらもっと驚くだろうなぁ。あ、そう言えばソフィアさんに言われてた2つの魔術を同時に発動させる練習しとかないと。


「はぁ…すごい。これが幻想姫。」
 サキさんは本棚を背もたれにズルズルと座り込む。


「そういえば、その幻想姫ってなんですか?前も聞きましたけど。」


「あぁ、まだ掲示板見てなかったんだ。簡単に言えばスプリングの異名だよ。」


「異名? 私にそんなのあったんですか?」



「おい!!お前らいつまで喋ってんだ!!口よりも手を動かせ!!」
 ハトムーさんの叫び声が響く。


「まぁ、詳しくは掲示板見てよ。あ、いや、やっぱり見ない方が良いかも。」
 そう言うとサキさんは私から目を逸らし、本の片付けを再開する。え、逆に気になるんですけど。






「あー、やっと終わりましたね!」
 私たちの周りの本は全部片付き、本棚に綺麗にしまわれている。


「んー、疲れた~。はやく寝ないと仕事に間に合わないよ~。」
 とサキさんは背伸びをする。


「そうなんですか?」

「そうそう。うちのとこブラックだし、課長とかネチネチネチネチ説教してくるし。大変なんだよ。幸いにも先輩とかには恵まれたんだけど。」
 とサキさんは言う。

 …うわ、私のとこと一緒だ。なんか親近感湧くな。


「私の癒し…四月一日(わたぬき)先輩…。」
 とサキさんは呟く。


「はい!?」
 いいいい、今何と?


「あ、ごめんごめん。リアルの事はあまり言わない様にしてるんだけど。スプリングってなんかうちの先輩に行動とか似てるから、ついね。」
 サキさんは苦笑いを浮かべている。
 ちょ、ちょっと待って。私の会社の後輩って…


「もしかして、柚月(ゆずき)ちゃん?」

「え!?」
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