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第1章 この国、最悪

第2話 重大な事実判明

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 そこは少し埃っぽい部屋だった。
 全長2メートル程の本棚が6つ並び立ち、真ん中には長テーブルが2つ縦に並ぶ"王立図書館"。

 カーシュにとっては初めて入る場所であった。

「ん~、思ってたよりも使われてないんだ…」

 テーブルの端に指を走らせると、指の腹が真っ白く染まる。

 カーシュはそんな図書館を練り歩く。

(一先ずは国の歴史、生活を調べようかな)

 この世界の普通を調べる事は大事だ。
 もし、カーシュが大勢の場で地球での技術等を言って異常性を示せば、途端に平穏な生活は出来なくなってしまうだろう。
 もしかしたら怖い人達と実験と評する虐待もなくはない話だ。

(此処は異世界…最悪を想定しないと…)

 カーシュは眉に皺を寄せながら、近くにある本を手に取って見開く。

(紙はそれなりにザラザラするけど…悪くはない素材だ…中身は……)


 そして、静かに本を閉じる。

「…そりゃそうだよ。ここ異世界なんだもんね!? この世界の文字分かんないじゃん…!!」

 カーシュは膝を着き、項垂れる。

 カーシュはまだ生まれてきて5歳。王家から週に一回勉強の日があるが、それもまだ言葉遊びの領域。分かる訳もなかった。

 どうしたもんかと唸っていると、図書館の扉が開かれる音が聞こえた。

「え! で、殿下!?」

 そこには畏まって体を硬直させている、茶髪ポニーテールの10代後半ぐらいの女性が驚きに目を見開いていた。
 眼鏡をかけ、目尻は下がり、大人しそうな印象を受ける。

「あ…う、う"ぅんっ! …お邪魔してるよ」
「は、はっ! この寂れた所に何用でしょうか!!」

 カーシュは急いで立ち上がり、出来るだけ安心させる様に口調を柔らかくする。

「実はちょっと知りたい事があって。でも…文字が読めなくて…」
「あ、そう言う事だったんですね」

 女性は明らかに安心した表情になり、口元を緩めた。

 何かお咎めがあるとでも思ったのだろうか。

 王城で働いている者は平民も混ざっている為、貴族と平民との差別が酷い。
 給料が良い為、それなりの実力がある者は来るのだがすぐに辞めていく者も多いのだ。

「良かったらだけど、私の質問に答えてくれないだろうか?」
「わ、私がですか!?」
「うん、まずはーー」

 それからカーシュはこの国の事を中心に、常識まであらゆる事を王立図書館の司書、"アルネ"に聞いた。

「ーーです」
「……」

 カーシュは顎に手をついた。

(なるほど…この国は出来てまだ200年の国、生活基準は中世ヨーロッパって所、それに魔法と剣の世界)

 アルナの言う事をザックリまとめると、こう言う事だった。

(魔法があるなら生活がもっと豊かになっててもおかしくないと思うけど…)

「何か不都合でもありましたでしょうか…」
「いや、何も無いよ」
「そ、そうですか…」

 何処か不安そうにしているアルネに対し、笑顔でそう応える。

「あ、もう1つ聞いても良いだろうか?」
「はっ、はいぃ!」

 焦るアルネに少し笑みをこぼしながら、カーシュはこの世界に来てずっと気になっていた事を、アルネへと問い掛ける事にした。

 こうも畏まられると、申し訳なくなってくる気もするが…

「この国は何で"最弱国"と言われてるんだ? 建国して200年はまだ若いとは思うが…」

 自分の記憶に根強く残っているその単語は、年数だけでは納得がいかない。
 そんな事を思ってカーシュがアルネへと聞く。

 するとアルネは少し言いづらそうにモジモジし始める。

「構わないよ…話してくれ」

 最弱国、それは国を、王族を侮辱している言動であると言える。
 それを平民である彼女に説明させると言うのは酷だが、大事そうな情報はなるべく早く得たい。

 アルネは少し考え込むと、口を開いた。

「…このファテル王国がユー大陸の中で最弱国と称されている理由、それは圧倒的な魔法使い不足です」

 アルネは真剣な顔で呟く。

「魔法使い不足、か。それで何か問題があるのか?」
「問題大アリですよ!! 普通魔法使いは男性の方がなるのですが…」
「ちょっと待て」


 カーシュはアルネの話を遮って、真剣な眼差しでアルネを見た。


「な、何でしょうか?」

 アルネはカーシュの真剣な表情、何処か怒っている様なその表情に声を震わせる。

「今、魔法使いは男がなるって言った?」
「は、はい…」

 頷くと同時にカーシュは、四つん這いになって床を叩いた。



「て事は…この国は男子が少ないって事じゃない!!」
「え、えぇっ!? ど、どうしたんですか殿下!?」

 カーシュは重大な事実を突きつけられ、図書館の床で静かに涙を流すのだった。
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