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第2章 キメラ狩りへ

第39話 混沌の始まり

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「おいおい…!」

 ゼルはトマスが向かった方向にも黒い煙が上がっているのを確認すると、すぐさまトマスの方向へ走った。

 すると、

「ぐっ!」
「グアオッ!!」

 大きな黒い猪型の魔物と戦っているトマスの姿があった。ゼルは背負っていた弓を取り出し、猪の両目に矢を射る。

 すると猪は視界を奪われ、暴れ回る。

 その隙に2人は猪から距離を取ると、ゼルは素手で戦っていたトマスを支えながら話しかける。

「大丈夫か!!」
「ど、どうして此処に? しかもその目は…」
「それよりも早く此処から離れるぞ!」

 トマスの言う事を無視して、捲し立てる。

「何故ですか? 理由を仰って下さい」
「恐らくだが此処ら一帯に強力な魔物が出た…冒険者ギルドに報告しに
「行ってください」
「あぁ。早く行く…は?」

 トマスの言う事に耳を疑い、思わずトマスに向けて顔を顰める。

「お前…何考えてんだ?」
「サーラ様が此処に居たしたら尚更大変です…お助けしないと…」

 トマスはゼルの支えていた手を振り解くと歩き出す。

「私はサーラ様に一生仕えると誓ったのです」
「…言っちゃ悪いがこれでお前が死んでもサーラ様が見つかる訳じゃない」
「それでもですよ」

 トマスは一貫とした態度で言った。

「…そうか。なら俺はこんな危険な依頼受けない」

 俺は近くで暴れている猪の額に矢を射て仕留めると、踵を返す。

 こんな何があるか分からない危険な所を探しても、いる訳がない…それ以前に生きてる可能性が低過ぎる…。

「じゃあな」

 俺は王都へと走った。



「ピィ…」
「何だよリゼ…」
「ピィ!」

 王都の城門前。カバンから出てきたリゼは、羽でゼルの身体を叩く。

 リゼは何処か怒っているかの様に、羽で強く叩いてくる。此処でトマスを助けなかったら後悔でもするって言いたいのか? だが1番は自分の命とリゼの命だ。助ける訳がない。

「俺は無理はしないんだよ」
「…ピ」

 俺は城門にいる剣を携えた門番に話しかける。

「今、東の森で高ランクの魔物達が出たんです。冒険者ギルドに連絡してください」
「何!? それは本当か!?」
「はい」

 俺がそう言うと、門番の男は驚いた様で急いでギルドへ伝えに行こうとする。

 詳しい話も聞かないで良いのか? と思ったが、今の俺にとっては丁度良かった。

「あ、ちょっと待って下さい」
「な、何だ?」

 俺は伝えに行こうとしている門番を引き止める。

 そして。

「良かったらその剣、50万ゴールドで売ってくれませんか?」





「よし…少し様子を見に行くだけだからな」
「ピィ!」

 ゼルは腰に剣を携えながら走り出した。



 黒い煙が渦巻く混沌へ。



 *

「最後に魔物を倒して行ってくれましたか…ありがたい」

 トマスは乱した呼吸を整えながら、1人呟く。

 振り返り際にまさかあんな素早い狙撃を行うなんて…あの人が居てくれたら…いや、そんな事烏滸がましいですね。

 無償で王城を探して、私の命を救ってくれた。ありがたいと思いましょう。

「ふぅ…すぅ~…サーラ様ー!! 何処に居られますかー!!」

 トマスは森の奥へと、大きく叫びながら入って行く。



 しばらく走り回るが、サーラの声も気配も感じられないトマスは一度立ち止まる。

「此処には居ない?」

 トマスは、森の奥に来るまで魔物と1匹たりとも会わなかった。その為だろうか、油断して不用意に入り込み過ぎていたのだ。

 混沌の中へと…。

「ギャギャギャ!!」
「シュゥルルルルル!!」

 木と同じくらいの猿状の魔物に、それを遥かに上回るであろう大蛇がトマスの前後を挟んだ。

 1匹の中型の魔物に手こずっていたトマスにとってこれは、死地に等しかった。

「はは…これは流石に無理、ですね」

 トマスは諦めたかの様に小さく笑った。

 その瞬間、突然背中に何かが当たっている様な感触が襲った。

 死ぬ時はこの様な感触なのですね…。

 そう思った。

 しかし。



「まだだろ」

 背後から聞いた事がある様な声が聞こえ、トマスは大きく目を見開く。

 まさか夢だろうかと、自分の腕をつねったが背後からの力強い感触が、自分を現実へと引き戻す。

「…何故此処に?」
「そう言えばまだ王城で働いた分の報酬を貰ってないと思ってな。取り立てに来た」

 何処か冗談めいた様な照れ隠しに、またもやトマスは小さく笑う。

「ま、それ以上にこれから金額は増えると思うがな!!」

 私はその声を聞くと同時に、前にいる猿状の様な魔物に飛び掛かった。
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