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最終章 (5)夢の言葉は魔法の呪文

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「好きでもねぇ女に、俺は自分からキスしない。
言っておくが、仕事でもしねぇからな……っ」

口元を隠すように手を当てた彼が、真っ赤な顔を逸らす。

その仕草が可愛くて……。
ようやく聴けた「好き」が堪らなくて……。
自分がものすごく単純だと思うくらいに、さっきまでモヤに覆われたようだった心が晴れてしまった。


嬉しくて、嬉しくて……。
自然と動いた身体が向かったのは、ヴァロンの腕の中。

そんな私を抱き止めてくれて、強く抱きしめた彼が耳元で囁くように尋ねてくる。


「ッ……。おい、馬鹿女っ。
……お前は、どうなんだよ?」

「えっ……?」

「「え?」じゃねぇよ、人に言わせといて……。
俺だって、分かんねぇよ……。お前の気持ち、聞かせろ」

私を包んでくれる大きな優しい腕の中。
ヴァロンの鼓動が、伝わってくる。
早い、大きな、心臓の音。
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