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第4章(5)マオside

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【病院/中庭】

入院生活も半年が過ぎ。
この日も、ミネアさんは変わらなかった。
いつものように僕の元を訪れて、散歩に誘ってくれて、楽しそうに微笑っていた。


「ミネアさんは、変わってますね」

「?……何がですの?」

「僕がもし貴女だったら、僕みたいな男には絶対に近付きません。
僕の傍になんて、楽しくないし。
ほら、誰も近寄りませんから……」

僕の車椅子を押してくれるミネアさんに、ずっと感じていた疑問を何気なく口にした。

別に深い意味も、もう同情だからどう、と言う気持ちもなくて……。むしろ、ボランティアにしてもすごいなって。
嫌な顔一つせず、僕みたいなつまらない男相手に楽しそうでいられる彼女を尊敬する気持ちがあったからだ。


だから、どんな返答が返ってくるか?なんて考えてなかったし、その答えに何も期待なんてしてなかった。

……でも。
この時のミネアさんの返答が、僕を変えてくれる。


「好きな人の傍にいるのに、何か理由が必要かしら?」

「!……え?」

迷った様子もない、素直な言葉。
彼女の質問返しに、思わず自分の口から呆けた声が漏れた。


”好きな人の傍にいるのに、何か理由が必要かしら?”……。

背後から聞こえた信じられない言葉に固まって、僕は振り向く事も出来ずにいた。
一瞬呼吸をするのも忘れて、辺りの音が何も耳に入らないくらいに静まり返る。


ミネアさんは、今なんて言った?

”好きな人”というあり得ない言葉を、自分は何と聞き間違えたのだろうと頭の中で巡らせていると……。
車椅子を止めたミネアさんが僕の正面にやって来て、顔を覗き込んで言った。


「おかしな質問をなさるのね。
わたくしは楽しいですわ!だって、大好きな人と一緒にいるんですもの。
マオ様といられたら、それだけで嬉しいです!」

初めて病室で会った時のように、眩しい笑顔でそう言う彼女に目を奪われて……。
また、僕は目が逸らせなくなった。

楽しい。大好き。嬉しい。
ミネアさんの言葉が心に響いて、彼女の素直さに導かれるように、僕も自然と浮かんだ疑問を口にした。
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