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第5章(3)マオside
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しおりを挟む取り引き先への届け物を無事に終え、帰ろうと駅までの道程を歩いている時だった。
たくさんの子猫をダンボール箱に入れ道端で売っている、いかにも怪しい雰囲気の販売者達が目に付いたのは……。
関わるつもりはなかった。
ただ、駅へ向かうのに通っただけ。
けれど、すれ違い際に聞こえた言葉が僕の歩みを止めた。
「やっぱりコイツは駄目だな!
他の兄弟猫はみんな真っ白で可愛いのに、不気味な黒猫に産まれてきやがって!」
その言葉は、まるで自分に言われたように感じて……。胸に突き刺さった。
思わず横目でチラッと声の方を見ると、販売者によって乱暴に首根っこを掴まれた黒い子猫が「みぃみぃ」鳴きながら、暴れていた。
小さな子猫。
でも僕にはその子猫が、自分よりもはるかに大きい人間を相手に立ち向かっているように映った。
僕と同じ境遇に在りながら、僕には出来ない強さを持った子猫。
気付いたら僕は、販売者に声を掛けて、この黒い子猫を買ってたんだ。
声を掛ける前までは”処分する”と話していたのに、僕が興味を持った事をいい事に高額で”譲ってやる”と言われた。
そこで持ち合わせがなかった僕は、腕時計と子猫を物々交換したのだ。
……。
知らないフリなど、出来なかった。
見なかった事になど、出来なかった。
でも、その後の事なんて全く考えていなかった自分を恥じる。
自宅に連れ帰り、腕時計と子猫を引き換えにしたと知られたら、祖父は怒鳴り怒るだろう。
いや、それだけで済めばいい。
祖父はあの販売者達と同じ考えの持ち主。
”飼う”という選択肢など与えてはもらえない。
かと言って祖父の目を欺いて、隠し通して飼う事も今の僕には難しい状況だ。
唯一相談出来そうな相手、ミネアさんの自宅にはメリーという愛犬がいる。
きっと、一緒に飼ってなんてもらえない。
他に信頼出来る人、なんて僕にはいない。
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