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第5章(3)マオside
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しおりを挟む自分の愚かさと未熟さを痛感してダンボールの前で俯き屈んでいる僕に、ミルクを飲み終えた子猫が「みぃ~」と鳴いた。
綺麗な、緑に近い黄色の瞳に見つめられてドキッとする。
僕にはない強さを持った瞳に見惚れていると、子猫は見上げたまま小さな身体をブルッと震わせた。
販売者から渡された際のダンボールには毛布も何も敷かれておらず、親兄弟から離された子猫には暖をとるものが何一つなかったのだ。
「寒いよな?……あ、そうだ!
……。ほら、おいで」
僕はスーツの上着を脱ぐと、抱き上げた子猫をそれでそっと包み込んで抱き締めた。
「少しは、あったかいかな?」
不安そうに尋ねる僕に、子猫は返事をするように「みぃ~」と可愛らしい声で鳴く。
それがなんだかすごく嬉しくて、目の奥から熱いものが込み上げそうになった。
腕時計の事も、スーツを雨や泥で汚した事も、上着が猫の毛まみれの事も……。
きっと自宅へ帰れば祖父に咎められるだろう。
でも。
今は”嬉しい”と感じたこの瞬間が大切で、愛おしくて……。堪らなかった。
そのまま子猫を暫く抱き締めていたが、上着を羽織っていた時にはさほど感じなかった雨がワイシャツを濡らし始めて、その冷たさを身に感じる。
「あ、僕が抱いていたら濡れてしまうね。
……これで、いいかな?」
離れ難かったけど、子猫が風邪をひいてしまったらいけないと思った。
僕は子猫をスーツに包んだままダンボールへ戻すと、もう目が合わないように折り畳み傘を上へ被せるように置く。
僕よりも強い眼差しを持った子猫。
この子はきっと良い飼い主に巡り会えるか、自らの手で自分の道を切り拓いていくと感じた。
捨て猫は、僕の方だ……。
心の中でそう呟いた時。
僕に降り注いでいた雨が、止んだ。
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