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第23章(4)アランside
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しおりを挟む兄上が倒れ病院へ運ばれた、と連絡を受けて駆け付けた病室前の廊下。私は兄上の専属執事ディアスからの話を聞いて、思わず聞き返した。
「……では、兄上が口にした飲料からは、何も毒物が検出されなかったのだな?」
「はい。ワインを試飲し、その直後の出来事でしたので何か含まれていたのではないか?と、疑ったのですが……。特に何も。
医師は急性心不全ではないか、と……」
「……ディアス。それはちゃんとボトルの物ではなく、"兄上が飲んだグラスのワイン"を調べたのか?」
質問の返しに納得のいかない私が意味深にそう深く追求すると、意味を理解したディアスがチラッと辺りを確認した後、間近まで近付き声を潜めて答える。
「割れたグラスに僅かに残っていたワインを回収される前に口にしてみましたが、私にはなんの効果も表れませんでした」
「!……そうか」
さすがはディアス。
事件現場で冷静な判断と対処を怠る事もなく、私が聞きたかった事を正確かつ的確に答えてくれた。
そして、そのおかげで私にはこれが間違いなく兄上の命を狙った事件であり、犯人も特定する事が出来た。
もし、犯人とワインに毒物が混ざっていたかを判別する担当の者がグルだった場合。
騒ぎの中、兄上の使っていたグラスを即座に回収出来る人物がいた場合。
事件は簡単にもみ消され、医師の言う通り、ただの急性心不全で片付けられてしまうでだろう。
しかし、私にはディアスの言葉で分かった。
『私にはなんの効果も表れませんでした』
ディアスにはなんの効果も現れない。
そして、共に試飲した者達にもなんの効果も現れない。
それはつまり、言葉を変えれば"兄上にだけ効果が現れた"という事。
……私は知っていた。
数年前にも、似たような事件があった。
それは、祖父シャルマ様が父リオンを毒殺した時。
ミネア嬢との婚約でハンク様に目をかけられ、逆玉に乗った兄上を妬む者は多くいる。
今の兄上の命を狙う者は、少なからずいるだろう。
でも、父が亡くなった時の事を知っている私には、犯人が誰なのか一目瞭然。
『この花はな、私が育てた特別な花なんだ。
能力が効かない人間に使えば、イチコロだぞ』
そう言いながら祖父に不思議な植物を見せられた数日後、父は倒れて……還らぬ人となった。
能力が効かない人間ーー。
それはおそらく、祖父と同じ希血を持つ人間の事。
この事件で、"まさか"は確定に変わった。
祖父は、兄上の命を奪う気なのだ……と。
……
…………。
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