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第23章(4)アランside
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幸い、今回兄上は一命を取り止めたが、それは酒が苦手な兄上が少量しか口にしなかったからなのか、シャルマ様が今回は"警告"の為に毒の量を調整したからなのかは分からない。
"言う事を聞かなければ、次は本当に殺す"
これは、そう言う事なのだろうか……?
私は、どうすればいいのか分からなかった。
しかし。病室に入り、傍に寄り、兄上がちゃんと呼吸しているのが分かると、心の底から安堵している自分がいた。
「っ、……オレはまた、黙って見ているのか?」
父リオンの時も"まさか"と思いながら見過ごして、真実を知りながらその後もずっとシャルマ様に従ってきた。直接手を下していないとはいえ、それは共犯同然だった。
そんな事を思ったら、ここに来る前に見たアカリ様の表情が浮かぶ。電話の応対をする私を見つめながら、必死に言葉を飲み込んでいた。
『ヴァロンに何があったのッ……?!』
心の中でそう叫んで、顔を真っ青にして、涙目で、震えていた。
このままで、本当にいいのかーー?
そう思った瞬間。
「……っ、……ん」
「!……兄、上?」
兄上が、薄っすらと目を開けた。
「っ、兄上!私の事が分かりますかっ?兄上!」
顔を覗き込み、咄嗟にそう問いただしていた自分にハッとする。そこで私は、自分がどれ程兄上を慕っているのか気付いたのだ。
今の状況が脳の手術後、「誰?」と言われてショックだったあの時と被る……。
私は兄上に、また忘れられてしまう事が嫌だったのだ。
「っ……、ア……ラン?」
だから、名前を呼んでもらえて嬉しかった。
生きていてくれて嬉しかった。
ーーダメだ。もう誤魔化す事は出来ない。
もう認めなくてはいけない。
苦しいのに暖かい、自分の胸に感じるこの想いを……。
私は、兄上が大好きなのだーー。
そう自覚したこの時、ずっと自分を縛っていたシャルマ様の呪縛から抜け出す術を、私は手に入れていた。
そして……。
幸い、今回兄上は一命を取り止めたが、それは酒が苦手な兄上が少量しか口にしなかったからなのか、シャルマ様が今回は"警告"の為に毒の量を調整したからなのかは分からない。
"言う事を聞かなければ、次は本当に殺す"
これは、そう言う事なのだろうか……?
私は、どうすればいいのか分からなかった。
しかし。病室に入り、傍に寄り、兄上がちゃんと呼吸しているのが分かると、心の底から安堵している自分がいた。
「っ、……オレはまた、黙って見ているのか?」
父リオンの時も"まさか"と思いながら見過ごして、真実を知りながらその後もずっとシャルマ様に従ってきた。直接手を下していないとはいえ、それは共犯同然だった。
そんな事を思ったら、ここに来る前に見たアカリ様の表情が浮かぶ。電話の応対をする私を見つめながら、必死に言葉を飲み込んでいた。
『ヴァロンに何があったのッ……?!』
心の中でそう叫んで、顔を真っ青にして、涙目で、震えていた。
このままで、本当にいいのかーー?
そう思った瞬間。
「……っ、……ん」
「!……兄、上?」
兄上が、薄っすらと目を開けた。
「っ、兄上!私の事が分かりますかっ?兄上!」
顔を覗き込み、咄嗟にそう問いただしていた自分にハッとする。そこで私は、自分がどれ程兄上を慕っているのか気付いたのだ。
今の状況が脳の手術後、「誰?」と言われてショックだったあの時と被る……。
私は兄上に、また忘れられてしまう事が嫌だったのだ。
「っ……、ア……ラン?」
だから、名前を呼んでもらえて嬉しかった。
生きていてくれて嬉しかった。
ーーダメだ。もう誤魔化す事は出来ない。
もう認めなくてはいけない。
苦しいのに暖かい、自分の胸に感じるこの想いを……。
私は、兄上が大好きなのだーー。
そう自覚したこの時、ずっと自分を縛っていたシャルマ様の呪縛から抜け出す術を、私は手に入れていた。
そして……。
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