夢の言葉と約束の翼(下)【夢の言葉続編⑦】

☆リサーナ☆

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最終章(2)ヴァロン&アカリside

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シュウーーー。

出かかったその名を飲み込む。

そう、名前を呼びたい。
名を呼んで、抱き付いて、たくさん謝って、お礼を言いたい。

ーーでも、…………。

「本日はお招き頂きありがとうございます。心より、お祝い申し上げます」

「……ありがとうございます。
こちらこそ。お忙しい中、遠方より来て頂き本当にありがとうございます」

シュウからの祝いの言葉に、俺は他人行儀に挨拶を返した。

何故なら……。
俺達の関係はもう、あの頃と違っているから……、……。


俺達がこんな関係になってしまった理由。
それは、俺が"記憶が戻っていないと偽って夢の配達人を辞めたから"だ。

……いや。最初は、本当だったんだ。
ミネアから手術前に預けていた私物を受け取った際に、俺が思い出したのはアカリとヒナタの事だけ。その他の事は、アカリ達家族と一緒に過ごして行く穏やかな日々の中で徐々に思い出していった。
その中で、俺が1番最後に思い出したのが夢の配達人についての事。そしてそれは皮肉にも、俺が正式に夢の配達人を辞めると発表される前日の出来事だった。


……それは遅かったのか。
いっその事、思い出さない方が良かったのかーー?

……いや。
思い出すのが早くても遅くても、俺はきっと夢の配達人を辞めていただろう。
アルバート様を助ける為に。そして、ヒナタとヒカルにもう寂しい想いをさせない為に……。
特にヒナタは、赤ん坊の頃に俺と離れた事がトラウマになっているようで、夜中にふと目を覚まして俺の姿が見えないと不安になって泣き出すんだ。普段はしっかりしてて、ヒカルの面倒もよくみてくれるお姉さんなのに……。俺を求めて、泣くんだ。

傍に居たい。傍に居てやりたい。
これからは家族の為に、家族と共に生きていこう。

そう、思った。
この決断に後悔はない。

……けど。
嘘を吐かなきゃ辞める事が出来なかった自分。
唯一の親友までも騙している自分。
そんな弱い自分が、俺は堪らなく嫌だった。


拳をぎゅっと握り締めながら、俺はシュウをじっと見つめた。
昔とは違う、透明のレンズの眼鏡じゃなくて、薄い黒のレンズのサングラスみたいな眼鏡に変わっている。その奥にある閉ざされた瞳。
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