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(1)アランside
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しおりを挟む思い出せ。
何故、こんな状況になったーーー?
深夜、自宅の仕事部屋。
倒れ込みそうだった身体を床に両手を着き支えているオレの下で、頬を赤らめながら目を見開いて見つめる一人の使用人。
黒髪に黒い瞳の……。そうだ、コイツは確かスズカ。
人物が誰なのか認識したところで、オレは何故自分がこの女を押し倒しているような状況になったのかを思い返した。
……。
確か、取り引き先と会食を済ませてオレは一時間ほど前に帰宅した。
クタクタだったが、疲れ過ぎてこのままベッドに入っても眠れる気がしなくて……。そうだ、酒の力を借りて寝ようと仕事机に腰掛けてワインを飲んでいた。
そしたら、徐々に眠気が襲ってきて、フワフワする意識の中に……アカリ様が出て来た。
もう、諦めがついている筈だった。一ヶ月前に結婚式に出席して、兄上の隣で幸せそうに微笑む彼女を見て、心の底から良かったと思えたんだ。
なのに……。
夢の中ならば、少しくらいいいかーー?
オレは彼女の名前を呼ぶと、抱き寄せてその唇を奪った。
……
…………その直後。
グラッと倒れる感じがして、咄嗟に受け身を取ったら……この状況だ。
自分の唇に僅かに感じた温もりと感触。
そしてこの状況に、驚き顔を赤らめている女。
この明らか過ぎる証拠に、オレは自分が犯した失態に気が付いた。
「っ……悪い、寝ぼけた」
状況を理解し、オレはすぐに身を起こし女から離れる。
やってしまったーー。
平然を装ってはいたが、内心はそんな気持ちでいっぱいで動揺していた。
そして兄上と、アカリ様に罪悪感や後ろめたい気持ちが広がる。
オレは……まだ、アカリ様の事を?
ーーいや、違う。
これは、最近遊んでいなかったから溜まっているだけだ。
未練がましい自分が嫌で、誤魔化そうとした。
祖父が亡くなって以来忙しくて、仕事ばかりで息抜きが出来なかったからだ、と自分に言い聞かせる。
それに、オレが想い続けたからと言って今更変わる事は何もない。
第一自分には、兄を裏切る事や傷付ける事など出来やしないのだから……。
祖父が亡くなった火災。
それに巻き込まれて病院に運ばれたオレが目を覚ますと、1番に飛び込んできたのは必死な表情でオレの名を呼ぶ兄上だった。目を覚さないオレに三日三晩付き添って、ずっと側に居てくれたらしい……。
全く、せっかく本当の家族の元に……。アカリ様の元に帰る事が出来たのに、オレなんかの側に居るなんて……本当に、大馬鹿な兄だ。
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