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19話 過去
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(ニーナ視点)
「ニーナ、過去の話なんてどうでも良いわ。話を先に進めましょう」
「あら、アーチェ。よっぽど思い出したくない過去なのでしょうか? まあ、そうでしょうね」
「ニーナ……!」
私の挑発にアーチェは明らかに取り出している……うふふ、楽しいわ。非常に滑稽とはこういうことを言うのかしら。ウォーレスはあまり現状を理解していないようだけれど、アーチェが私達に固執するようになったのは、やはりジョンの死が原因だったようね。
あの事故は7年前くらいだったかしら? 正確な年数は不明だけれど。
「市民街の寂れた教会……」
ノーム伯爵は小声で何かを言っていた。もしかしたら、気付いているのかもしれないわね。それなりに、大規模な倒壊事故だったから。当時、その寂れた教会はジョンとアーチェの遊び場になっていた。
貴族がそんな場所に行くのはあまり誉められたことではない……ましてや、一般の子供と遊ぶなんて。ノーム伯爵がどのような考えを持っているのかは不明だけれど、当時の貴族の間ではそういった風習があった。
その寂れた教会周辺は、差別の温床である最下層の住民が住んでいるスラム街でもあったから。余計に貴族を近づけるわけにはいかなかったのだろう。
「ノーム伯爵、スラム街にある寂れた教会のお話はご存知なのではないですか?」
「ええ、もちろん知っています。もう何年前になるかは覚えていませんが、屋根が倒壊し、死傷者が出たとか」
「そうですね……その死傷者というのが、アーチェの幼馴染の一人のジョンという少年でした。当時、アーチェはノーム伯爵に内緒でその教会に行っていたようですよ」
「なんと……そのようなことが……」
ノーム伯爵はその事実をやはり知らなかったようね。かなり驚いているわ。同じく、アーチェの弟のフォルセも驚いているようね。このままでは、アーチェは私の元に戻ってこない……なんとかして、この家族の絆を破壊しなければ。
もう一度、私に執着するように仕向けてあげる。うふふふ、そして私の手足として、一生こき使ってあげるんだから。
「ニーナ……あなたは一体、何が目的なの?」
「目的? 私の目的は一つしかありませんよ。先ほどから申し上げている通りです」
察しの悪いアーチェは大嫌いだ。でも、そんなところが可愛くもある。変に成長されては、利用価値が消滅してしまうわね……なんとか、この子の考えを以前のように戻さないと。
おそらくはこの過去話が最後のチャンスだ。私の方にも手札は残っていないのだし……。
「寂れた教会での話か……懐かしいな」
そんな時、室内に入って来た人物が居た。この聞き覚えのある声は……。
「ね、ネプト国王陛下……!?」
「そんなに叫ばないでくれ、ニーナ嬢。耳が痛くなりそうだ」
まさか国王陛下が、ただの伯爵家の屋敷に来ているなんて信じられなかった。パーティーの時にアーチェの傍に居たけれど、あれはあくまでも特別な場だったわけだし。
確かネプト国王陛下もアーチェと幼馴染の関係にある……当時は王子殿下だったけれど。あの寂れた教会での件に詳しいのだとしたら、ジョンのことも知っているのかしら? 少しだけ雲行きが怪しくなってきたわ……。
「ニーナ、過去の話なんてどうでも良いわ。話を先に進めましょう」
「あら、アーチェ。よっぽど思い出したくない過去なのでしょうか? まあ、そうでしょうね」
「ニーナ……!」
私の挑発にアーチェは明らかに取り出している……うふふ、楽しいわ。非常に滑稽とはこういうことを言うのかしら。ウォーレスはあまり現状を理解していないようだけれど、アーチェが私達に固執するようになったのは、やはりジョンの死が原因だったようね。
あの事故は7年前くらいだったかしら? 正確な年数は不明だけれど。
「市民街の寂れた教会……」
ノーム伯爵は小声で何かを言っていた。もしかしたら、気付いているのかもしれないわね。それなりに、大規模な倒壊事故だったから。当時、その寂れた教会はジョンとアーチェの遊び場になっていた。
貴族がそんな場所に行くのはあまり誉められたことではない……ましてや、一般の子供と遊ぶなんて。ノーム伯爵がどのような考えを持っているのかは不明だけれど、当時の貴族の間ではそういった風習があった。
その寂れた教会周辺は、差別の温床である最下層の住民が住んでいるスラム街でもあったから。余計に貴族を近づけるわけにはいかなかったのだろう。
「ノーム伯爵、スラム街にある寂れた教会のお話はご存知なのではないですか?」
「ええ、もちろん知っています。もう何年前になるかは覚えていませんが、屋根が倒壊し、死傷者が出たとか」
「そうですね……その死傷者というのが、アーチェの幼馴染の一人のジョンという少年でした。当時、アーチェはノーム伯爵に内緒でその教会に行っていたようですよ」
「なんと……そのようなことが……」
ノーム伯爵はその事実をやはり知らなかったようね。かなり驚いているわ。同じく、アーチェの弟のフォルセも驚いているようね。このままでは、アーチェは私の元に戻ってこない……なんとかして、この家族の絆を破壊しなければ。
もう一度、私に執着するように仕向けてあげる。うふふふ、そして私の手足として、一生こき使ってあげるんだから。
「ニーナ……あなたは一体、何が目的なの?」
「目的? 私の目的は一つしかありませんよ。先ほどから申し上げている通りです」
察しの悪いアーチェは大嫌いだ。でも、そんなところが可愛くもある。変に成長されては、利用価値が消滅してしまうわね……なんとか、この子の考えを以前のように戻さないと。
おそらくはこの過去話が最後のチャンスだ。私の方にも手札は残っていないのだし……。
「寂れた教会での話か……懐かしいな」
そんな時、室内に入って来た人物が居た。この聞き覚えのある声は……。
「ね、ネプト国王陛下……!?」
「そんなに叫ばないでくれ、ニーナ嬢。耳が痛くなりそうだ」
まさか国王陛下が、ただの伯爵家の屋敷に来ているなんて信じられなかった。パーティーの時にアーチェの傍に居たけれど、あれはあくまでも特別な場だったわけだし。
確かネプト国王陛下もアーチェと幼馴染の関係にある……当時は王子殿下だったけれど。あの寂れた教会での件に詳しいのだとしたら、ジョンのことも知っているのかしら? 少しだけ雲行きが怪しくなってきたわ……。
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