妹が私の婚約者を奪った癖に、返したいと言ってきたので断った

ルイス

文字の大きさ
1 / 19

1話 報われない努力

しおりを挟む
 私の名前はファラ・イグリオ……年齢は19歳になる。

 私は幼少の頃からお父様であるフランクリン・イグリオに言われていたことがあった。


「努力は必ず報われる。お前もイグリオ家の長女に恥じない人物になりなさい」

「畏まりました、お父様」


 私はその言葉を信じて、努力を重ねていった。貴族としての礼儀作法はもちろん、コミュニケーション能力を高める為に使用人たちを実験台にさせてもらったこともある。歴史の本を読み漁り、マーヴェリック王国の歴史について学んだり、周辺国家の情勢も勉強していった。

 合わせてスタイルを保つ為に剣術も学んだ。私の才能では戦闘方面はおままごとでしかなかったけれど、運動という意味合いでは非常に有効なものだった。私は遊べないストレスを食事で補っていたけれど、剣術のおかげで理想的なスタイルを維持できていたのだと思う。


 そして、気付いた時には19歳になっていた。とあるパーティーで知り合った、ミゼル・コーンス侯爵様から告白を受け、私は19歳の誕生日に彼との婚約を決めた。私の努力が報われた形だろうか?

 自惚れるのは駄目だけれど……私はこれほど嬉しいことはなかった。早速、幼馴染の公爵令息であるウィリアム・スタークにも報告するくらいだった。彼は寂しそうな顔をしていたようだけれど、

「おめでとう……ファラ。幼馴染として、とても嬉しいよ」


 と、言ってくれた。幼馴染とは言っても、日々の訓練や業務が忙しく、なかなか会えなかったけれど、彼からの祝福はとても嬉しかった。努力は必ず報われる……お父様の言葉が真実だと分かった瞬間だった。


 思えば私の人生は、報われないことが多かった気がする。それは……妹のシェリーの存在が大きいだろう。


「姉さま、これ貰っていくわね!」

「えっ? ちょっと待って、それは……」

「お父様、姉さまが毛皮のコートをくれました!」

「おお、良かったじゃないか、シェリー。流石はファラ、妹を大切に想っているのだな」

「え、ええ……それは……」

 妹は私の2つ歳下になる。昔から、私の大切な物を欲しがる癖があった。それだけではない、お父様やお母様はシェリーを優先している傾向が強かった。私には努力を義務付けていたけれど、シェリーには義務付けていない。だから、彼女は伯爵令嬢なのにも関わらず遊び呆けていたのだ。

 誕生日もシェリーは豪勢に祝っているのに、私は祝われたことがない。

 いえ、そんなことはまだ良かったの。お父様やお母様が次女を可愛がるのは仕方のないことだし……でも、シェリーは私の婚約者であるミゼル様に手を出してきた。


「姉さま、ごめんなさい! ミゼル様のことが好きになってしまったの! 私とミゼル様の婚約を許して!」

「えっ……? な、何を言ってるの、あなたは……?」


 流石にその言葉には私も驚愕してしまった。いくらなんでも、やっていることが異常だったから……。


「はは、済まない……ファラ。そういうことだから……」

「ミゼル様……嘘、ですよね?」

「嘘じゃないわよ、姉さま! ミゼル様はもう、私の物なの! 本当にごめんなさいね!」


 ミゼル様はすっかりシェリーの虜になったような様子を見せていた。あり得ない……こんなことが。努力は報われるんじゃなかったの? 私はすぐにお父様に状況を報告したのだった。しかし……。


「ファラ……お前はお姉さんだろう? 妹であるシェリーの幸せを考えないでどうするんだ?」

「お父様……?」


「お前なら他にもきっと良い男性を見つけられるだろう。我慢しなさい、今までも我慢できていたお前のことだ。今回の件だって同じだろう?」


 同じなわけがない……お父様は一体、何を言っているのだろうか? 私が今までどれだけシェリーに我慢してきたと思っているの? 今回の婚約解消についても我慢しろ、だなんて……イグリオ家から見れば、姉と妹のどちらが嫁いだとしても同じだろうけど、私の気持ちは? 今回も無視されてしまうと言うの……?

 私はお父様から貰った「努力は必ず報われる」という言葉をグシャグシャにして破り捨てたい衝動に駆られていた……。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

虐げられたアンネマリーは逆転勝利する ~ 罪には罰を

柚屋志宇
恋愛
侯爵令嬢だったアンネマリーは、母の死後、後妻の命令で屋根裏部屋に押し込められ使用人より酷い生活をすることになった。 みすぼらしくなったアンネマリーは頼りにしていた婚約者クリストフに婚約破棄を宣言され、義妹イルザに婚約者までも奪われて絶望する。 虐げられ何もかも奪われたアンネマリーだが屋敷を脱出して立場を逆転させる。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。

貴方との婚約は破棄されたのだから、ちょっかいかけてくるのやめてもらっても良いでしょうか?

ツキノトモリ
恋愛
伯爵令嬢エリヴィラは幼馴染で侯爵令息のフィクトルと婚約した。婚約成立後、同じ学校に入学した二人。フィクトルは「婚約者とバレたら恥ずかしい」という理由でエリヴィラに学校では話しかけるなと言う。しかし、自分はエリヴィラに話しかけるし、他の女子生徒とイチャつく始末。さらに、エリヴィラが隣のクラスのダヴィドと話していた時に邪魔してきた上に「俺以外の男子と話すな」とエリヴィラに言う。身勝手なことを言われてエリヴィラは反論し、フィクトルと喧嘩になって最終的に婚約は白紙に戻すことに。だが、婚約破棄後もフィクトルはエリヴィラにちょっかいをかけてきて…?!

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

(完結)婚約解消は当然でした

青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。 シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。 お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。 エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

元平民の義妹は私の婚約者を狙っている

カレイ
恋愛
 伯爵令嬢エミーヌは父親の再婚によって義母とその娘、つまり義妹であるヴィヴィと暮らすこととなった。  最初のうちは仲良く暮らしていたはずなのに、気づけばエミーヌの居場所はなくなっていた。その理由は単純。 「エミーヌお嬢様は平民がお嫌い」だから。  そんな噂が広まったのは、おそらく義母が陰で「あの子が私を母親だと認めてくれないの!やっぱり平民の私じゃ……」とか、義妹が「時々エミーヌに睨まれてる気がするの。私は仲良くしたいのに……」とか言っているからだろう。  そして学園に入学すると義妹はエミーヌの婚約者ロバートへと近づいていくのだった……。

私から婚約者を奪うことに成功した姉が、婚約を解消されたと思っていたことに驚かされましたが、厄介なのは姉だけではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
ジャクリーン・オールストンは、婚約していた子息がジャクリーンの姉に一目惚れしたからという理由で婚約を解消することになったのだが、そうなった原因の贈られて来たドレスを姉が欲しかったからだと思っていたが、勘違いと誤解とすれ違いがあったからのようです。 でも、それを全く認めない姉の口癖にもうんざりしていたが、それ以上にうんざりしている人がジャクリーンにはいた。

【完結】こんな所で言う事!?まぁいいですけどね。私はあなたに気持ちはありませんもの。

まりぃべる
恋愛
私はアイリーン=トゥブァルクと申します。お父様は辺境伯爵を賜っておりますわ。 私には、14歳の時に決められた、婚約者がおりますの。 お相手は、ガブリエル=ドミニク伯爵令息。彼も同じ歳ですわ。 けれど、彼に言われましたの。 「泥臭いお前とはこれ以上一緒に居たくない。婚約破棄だ!俺は、伯爵令息だぞ!ソニア男爵令嬢と結婚する!」 そうですか。男に二言はありませんね? 読んでいただけたら嬉しいです。

はじめまして婚約者様  婚約解消はそちらからお願いします

蒼あかり
恋愛
リサには産まれた時からの婚約者タイラーがいる。祖父たちの願いで実現したこの婚約だが、十六になるまで一度も会ったことが無い。出した手紙にも、一度として返事が来たことも無い。それでもリサは手紙を出し続けた。そんな時、タイラーの祖父が亡くなり、この婚約を解消しようと模索するのだが......。 すぐに読める短編です。暇つぶしにどうぞ。 ※恋愛色は強くないですが、カテゴリーがわかりませんでした。ごめんなさい。

処理中です...