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4話 ヴェイン・ハーバスト公爵 その1
しおりを挟む「リリナ・クラスト伯爵令嬢でございますね?」
「あ、はい……左様でございます」
近付いて来た男性は、私の前に立ち話し始めた。マリナ姉さまに用事があるわけではなかったのね。
「私はハーバスト公爵家の当主をさせて貰っています、ヴェイン・ハーバストと申します。以後、お見知りおきを」
「ヴェイン・ハーバスト公爵……?」
「左様でございます。こうして話をするのは初めてでしたね」
確かに初めてではあるけれど、まさか公爵様が私に話しかけてくるなんて……! ヴェイン・ハーバスト公爵ともあろうお方を見た目だけで分からなかった私は、とても勉強不足を痛感させられてしまった。
「も、申し訳ございません! ヴェイン様! すぐに分からなかった点、お詫び申し上げます!」
「ああ……それは仕方ないと思います。私が当主になったのは、つい最近のことですから」
あ、それは確か聞いたことがあるような……なるほど、ヴェイン様は最近まで公爵令息だったというわけね。
「そ、そうだったのですね……それでも、大変失礼致しました!」
「いえ、お気になさらないでください。私は各方面への挨拶回りで忙しくさせて貰っています。よろしければ今後、話し相手などになっていただければ、嬉しく思います」
「そ、それはもちろん……こちらこそ、よろしくお願い致します!」
「ええ、よろしくお願い致します、リリナ様」
公爵様に「リリナ様」と呼ばれるのは、とても申し訳ないけれど、ヴェイン様からおっしゃっている為、それを訂正するのも変なので、特に指摘することはしなかった。
まだ挨拶しかしていないけれど、なんとなく、誠実そうな印象と清潔感を感じていた。それから……とても彼は二枚目だ。まあ、この点に関してはそこまで重要なことではないかもしれないけれど。
「ふふ……リリナ、私は向こうに行っているから」
「えっ、姉さま……?」
私達の様子を窺っていた、マリナ姉さまはいきなりそんなことを言いだした。えっ、ちょっと待って欲しいのだけれど……。
「頑張りなさい、リリナ。ハーバスト公爵……申し訳ございませんが、妹のことをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、お任せください」
「ありがとうございます。それではリリナ、一旦私は離れるわね」
「あ、あの……姉さま……!?」
私は引き留めたけれど、マリナ姉さまは足早にその場から去って行った。残されたのは私とヴェイン様の二人だけだ。ええと……姉さまはヴェイン様と会話をしろ、ということを言いたいのだろうけれど、どんな話をすれば良いのかしら?
とりあえず、趣味とか……?
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