どうやら異世界転生しても最強魔法剣士になってしまった模様

あっきー

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第2章

31.カンタバロのエクター

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ランテルを発ったキサギ達神楽旅団一行は、騎乗魔獣を一路カンタバロへ向けて走らせる。


レイスリーネの記憶を持つキサギは、この南部地域の特徴を勿論よく知り得ている。


地下に埋もれた古代の遺跡を発掘し風化しないよう保全しつつ、地上に残った古の建造物は現代風に補強しながら人々の住まいとして利用されている。


故に非常に懐古的な佇まいが魅力的で、一つ一つの街が独特な雰囲気を持っており、イギリー国内でも有数の人気観光エリアとなっているのだ。


実際に騎乗魔獣を走らせながら見る情緒溢れる風景にキサギは暫しの緊張感から解き放たれ、初めての体験に心が踊る思いだった。


まさに彼女が求める旅の醍醐味、というやつだ。


そして、日が暮れる前には南部の街カンタバロに到着した。


カンタバロは海側から内陸寄りにあるとはいえ、御多分に洩れず国内外から観光客が押し寄せており、また冒険者組合がある事で各地から集まる冒険者や資源を求める商人らで賑わう街である。


キサギはそんな人々の営みや街並みに目を見張り胸を弾ませるが、今回のクエストの内容を思い出すと浮かれる心をそっと胸の内に押し込める。


ギルドの重厚感のある扉を潜ると、日暮れ前にも関わらず室内はスタッフや冒険者達で賑わっていた。


(……遅い時間まで皆、頑張ってるのねぇ……)


などと呑気に周囲を見渡していると、カウンターにいた1人の女性スタッフがキサギの方へと近づいてきた。


「……あの……もしかしてそのタグは……ランテルの神楽旅団の方ですか?!」


おずおずとキサギの冒険者タグを遠目に覗き、確信した途端に甲高い声をあげる。


それを聞いて、周囲の誰も彼もが突然騒めきを止めて一斉に彼女らへと視線を集めた。


「あ、はい。私はリーダーを務めるキサギと言います。……えっと、ギルド長にお会い出来ますか?」


女性スタッフの勢いに若干押されたキサギが少したじろぎながらも、挨拶を返す。


途端に周囲の騒めきが甦り、彼女を見ながら「あれがS級?ただの子供じゃねぇか」だの「リンデルのネームドをあっという間に倒したらしいぞ」だの「新人で異例のS級冒険者なんだって」だの口々に噂を垂れ流している。


だが目の前の女性スタッフは目をキラキラと輝かせながら、ついには己の前で神に祈るかのように手を組み羨望の眼差しをキサギへと向けていた。


「わぁ~!こんな美少女さんがS級冒険者だなんて、すごいです~!他の皆様も歴戦の猛者のような風体で、しかもこちらは……んん?!まさか精霊王ですか?!え?!嘘!!精霊王って実在したんですか?!えぇ~!!」


と突然捲し立てたるように一気に言い放ち、勝手に1人で舞い上がっている。


周囲は彼女の言葉に更にどよめきを上げる。


流石のキサギも他ギルドの人間を邪険に出来ず、辟易しながらもたじろぐ事しか出来ないでいた。


「喧しいぞ!なんの騒ぎだ!」


ギルドの階段から1人の厳めしい男性が周囲へと怒号と飛ばしながら、一段また一段とゆっくり降りて来た。


皆が声の方へと向き直ると、そこには大きな体躯の、見た目は30代後半、右の額から頬にかけて傷の入った隻眼の銀髪男性が、眉間に皺を寄せ不機嫌そうに周囲を見渡している。


彼が騒ぎの中心へと目をやると、キサギの冒険者タグをその目に捉えた途端に、不機嫌そうな表情からすぐ様目を丸くした。


「お!?もしかして、ランテルの神楽旅団か!マティアスさんから連絡を貰って待ってたんだ!よく来てくれた!」


突然上機嫌になり勢いよく階段を駆け降りると、群がる冒険者らを押し除けてキサギの前へと走り寄った。


「俺はこのカンタバロのギルド長、エクターだ!よろしくな!」


そう言って勢い良く彼女の前に右手を差し出して来た。


キサギは彼の豪快で人懐こそうな風貌に微笑み返し、差し出された右手に己の右手をそっと重ね、握手する。


「初めまして。ランテル冒険者組合所属、神楽旅団のリーダーを務めるキサギと申します。後ろの彼らはシュリ、ビャクラン、ソウエイで彼らもS級です。そして彼はコクヨウ。精霊王と呼ばれている様ですが、彼もまた大切な旅団の仲間です。あまり気を遣わないで下さい」


鈴を転がすような美しい声音でもって、その神秘的な微笑みのままに仲間らの紹介をすると、案の定男女構わず周囲の有象無象どもが心臓を撃ち抜かれ、胸を掻きむしり悶絶する。


キサギのこれは最早、本人にそのつもりは無くともタチの悪い魅了魔法なのではないかと、式神らは呆れた面持ちで溜息を吐く。


一瞬エクターも頬を赤らめるも、さすがはギルド長、すぐに平静を取り戻し笑顔で彼女を歓迎する。


「早速で悪いが話がしたい。執務室まで来てもらえるか?」


「あ、それでしたら少し待って頂けませんか?」


「ん?……何かあるのか?」


「すみません。今回のクエストにはランテルからもう一組、パーティが同行するんです。彼らが間もなく到着すると思いますので、お待ち頂けませんか?」


「……あぁ、その事か……お前もマティアスさんから聞いたんだろう?……良いのか?」


「まぁ今回に限って言えば、彼らは道案内にしか過ぎません。余計なことはさせません」


カンタバロへ向かう道中にマティアスからキサギのタグへ連絡が入り、同行を許可したと聞いた。


エクターも彼から聞いたのだろう。


思う所はあるだろうに、彼らの事情を汲んで口外しない事も含めて受け入れてくれたのだ。


キサギも詳細を聞かされ、そもそも同行の判断はマティアスに託していたので、こうなる事を予測していた事もあり同意した。


正直な所誰かの同行など必要としない旅団としては、カンタバロからよく知りもしない同行者を付けられるよりは、ドヴァール出身の彼らが付いて来るほうがまだマシだとキサギには思えたのだ。


但し勝手な行動は取らない、こちらに無闇矢鱈と噛み付かない、こちらを詮索せずただの道案内役という体をとるのであれば、という条件を出した。


それを聞いたマティアスは、タグの向こうで少し笑っていた。


「それなら到着次第スタッフに案内させる。とりあえずここは喧しくてかなわん。執務室へ来てくれ。ほら、お前ら!S級冒険者見たさにいつまでここに留まってやがる!とっとと解散しろ!」


豪快に彼らを蹴散らし、1階のホールからキサギらを2階の執務室へと連れ立って階段を上がって行った。


ホールではまだ心臓を撃ち抜かれた冒険者達やスタッフ達が、呆然とキサギの姿を目で追っていく。


「?皆、そんなにS級冒険者が珍しいのかな?」


などと、本人はキョトンとした表情で旅団らへと声を掛けるが、彼らはキサギの天然さに呆れ顔だったり、苦笑いだったりで、彼女は理解不能のまま階段を上がって行った。


執務室へと通され、足の短いテーブルの上にはスタッフがコーヒーを用意してくれており、キサギは促されるままに3人掛けの長ソファーへ腰掛ける。


すると定位置のようにビャクランがその隣へ腰掛け、シュリがキサギ側のアームレストに腰を下ろし、ソウエイが彼女の背後に佇み、コクヨウは彼女の足元に座りその膝に顎を乗せてリラックスしている。


対面のソファーへ座ったエクターは目の前のその物々しさから「うわ…暑苦しっ」などと内心苦笑うものの、まさかそんな事を口に出せる訳もない。


キサギは用意してくれたコーヒーを一口音もなく啜り、ひと心地つく。


「それにしても、キサギはかなり若いな。いくつだ?」


「15歳ですね。……ふふ。若過ぎて信用ならないですか?」


エクターからの問いに、彼女はコロコロと可愛らしく笑ってみせる。


「冒険者は実力が全てだ。年齢なんて関係ない。だが実績もない新人が突然S級に昇格したって聞いた時にゃ、さすがに驚きもするさ。……だが、マティアスさんと天狼がお前達を認めたんだ。間違いないだろうし、話も聞いてるから信用もしてるさ」


鋭い目元を緩め、彼もまたコーヒーに口をつける。


「話……ですか。模擬戦やベリアル戦、リンデルのアモン討伐の件でしょうか?」


「あぁ。模擬戦で天狼を瞬殺した挙句、魔獣戦の後に上位魔人ベリアルまで瞬殺。眉唾物の話だったが、さすがにリンデルの上位魔獣アモン討伐は公式に発表されたものだ。信じないわけにはいかんさ。……それに、その精霊王」


彼の視線は、キサギの足元に座るコクヨウへと向けられる。


彼女の膝に顎を乗せるコクヨウは耳をピクリと反応させ、エクターを流し目に見やる。


「その存在を目の当たりにすれば、誰だってお前が……いやお前達が只者じゃないとわかる。お前達が何者なのかは気になるところだが、クエストにはなんら関係ない事だ。詮索なんて野暮な事はしないから安心しろ」


肩をすくめやれやれといった感じに笑うエクターに、キサギは小さく頷く。


コクヨウはフンスと鼻息を1つ吐いて、エクターへ向けていた目線を戻すと、キサギの膝に顎を乗せたまま静かにまた目を閉じた。


コクヨウのその様にキサギは軽く微笑み、彼の艶の良いフサフサの黒い毛の頭を優しく撫でる。


「エクターさんはまだお若く見えますが……早くに引退されたのですか?」


「あぁ、3年前に怪我でな。これでもお前の先輩にあたる元S級冒険者だったんだぞ!……元々このカンタバロのギルドには長らくギルド長が不在だったんだ。まぁスタッフ達は皆優秀だし、俺が冒険者とギルドのまとめ役を兼任してたから、問題もなかった。引退と同時にギルド長に就任したのさ」


「そうだったのですね……」


彼の服の裾口から覗く右手の甲の傷が、キサギの視界にチラリと映る。


恐らく服で隠れて見えないが、右肩若しくは腕から手の甲にかけて大きな傷があるのだろう。


彼の右側の顔に入る傷と隻眼を見るに、クエストで大怪我を負ったのだろうと察する。


そんな話に花を咲かせていると、執務室の扉を叩く音が部屋に響いた。


「お話中失礼します。ランテルからの冒険者パーティの皆様が到着しました」


扉を開けたスタッフが、ディゴンらの到着を告げる。


「わかった。ここは狭い。会議室のほうへ案内してくれ。俺達もそちらへ移動する」


そして彼らは、執務室を後にした。
























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