BOX・FORCE-Another Story-

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Yukinoshita

Yukinoshita.part3

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「うわぁ…。近くで見るとこんなに高いんですねぇ。」

菊野の首はほぼ垂直に真上を向いていた。
浅草から少し歩いて、隅田川を架かる橋を渡ると
2人の目の前に東京スカイツリーが聳え立っていた。

「俺も、ここが建設してから数回しか行ったことないんだよな。
上に登ったのも1回くらいかな。」

白峰も、その高い建物を見上げながらそう言った。

「…里海は、高いところ平気?」

白峰は菊野の顔を覗き込みながらそう問いかけた。
ふと白峰と目が合うと、菊野は頬を赤らめながら言った。

「へっ…平気です!」

少し動揺しながら、菊野はそう答えた。
しかし、実際のところ
菊野はそこまで高いところが平気な訳ではないようだ。
白峰と繋いだ手が、少し震えていた。

「…本当?上は辞めとこうか?」

白峰は、その様子を理解して
展望台に行く事を諦めようとしていた。
しかし、菊野は首を大きく振った。

「…本当は…少し怖いです。」

菊野はそう呟くと、少し息を吸って続けた。

「…けっ…けど、見たいんです。
渉さんと…見た事ない景色を…。」

菊野は必死に、自分の思いを白峰にぶつけた。
怖い思いは確かなのだろうが、それと同じくらい
菊野が言った思いは強かった。

白峰は、菊野のその台詞にまた少し動揺したが
優しく見守りながら菊野の手を引いた。

「…じゃあ、行こっか。」



_

こうして2人は、地上から350m上空にある展望デッキへと辿り着いた。

エレベーターの扉が開くと、展望デッキは暖かく明るい光に包まれていた。
日は徐々に西へ落ち始めており、2人がその一面のガラス張りの窓の近くに寄ると
その眩しさに2人は手で目元を覆った。

「…っ…ん、わぁっっっ!!!」

菊野は、恐る恐る展望デッキの外周の手すりに近づいた。

そこに広がっていたのは、一面海のように広がる東京の街並み。
大小様々な建物が、所狭しと広がっている。

「…信じられないよな。」

菊野の横に白峰が並んだ。
白峰の目は、遠くに沈む夕陽を一線に見つめていた。

「…ほんの1ヶ月前、俺たちはあんなに小さな場所で、と戦ってたんだな…。」

白峰はそう言いながら、懐かしむようにその街並みを見下ろした。

菊野が彩科院達と共に戦い、そして桂が散った池袋。
そして、白峰が獅蘭達と共にウルセウスにとどめを刺した渋谷。

それなりの距離がある2つの場所も、そこから見る景色はまるで模型のように小さく見えていた。

「…よかった。」

ふと、菊野はそう呟いた。

「えっ…?」

白峰は、驚いて目線を菊野に移した。

「…あの時頑張ったから…私たち頑張ったから、
こんなに素敵な景色を見ることができた。
私たち…いや、私が戦ってきた事にもちゃんと意味があった。
この景色を、渉さんと見れて本当によかった。」

そう言う菊野の顔は、夕日に照らされてオレンジ色に輝いている。
ほんの僅かに、そうでない赤みを灯して。

「…どこかに、まだ隊長は生きているのかな…。」

再び、窓の外の景色を見つめながら、白峰はそう呟いた。
その視線の先には夕陽が輝いているが、少し手前には都庁の建物が見える。

「…樫間さんは絶対生きてますよ。」

菊野は、そんな白峰の顔を見て
自分も同じ方角を見ながらそう言った。

「…確かな保証はないけど…樫間さんは絶対、また私たちの前に現れてくれる。私はそう思いますよ?」

菊野がそう言った時、ほんの一瞬
夕陽の側に黒い光が現れたように見えた。

「…ああ。そうだな。」

白峰は一言だけ、そう呟いた。

「渉さん。」

菊野はそう言うと、真っ直ぐ白峰の顔を見つめた。

「こんなに素敵な景色を見せてくれて、教えてくれてありがとうございますっ!
…私はまだまだ未熟だから…知らない世界がたくさんある。
だからこうして、新しい世界を教えてくれる渉さんに、私はすっごい感謝してます。」

そう言って、菊野は満面の笑みを見せた。
それは、窓の外の夕陽よりも眩しく
白峰の目には映っていた。

「…里海は本当素直だよね。」

白峰は照れ隠ししながら、そんな菊野の顔を見ながらクスッと笑ってみせた。

「…もぉ~、笑わないでくださいよー!」

菊野は馬鹿にされたと思ったのか、少しムッとして頬を膨らませた。

「ごめんごめん。でも、素直だねってのは本当の気持ち。…だから…。」

白峰はそう言いかけると、何かを思い出したかのように突然、スマートフォンを取り出した。

素早く操作をして、スマートフォンを耳に当てた。

「…渉さん…?」

その様子を、菊野は不思議そうに見つめていた。

「…もしもし?俺だけどさ…今からちょっと遊び行ってもいいか…?」

白峰は誰かと電話を始めた。
2分程してその会話を終えると、菊野の顔を見た。

「…もう1つ、里海に見せたいものがあるんだ。」



_


2人は、東京スカイツリーを後にすると
白峰の案内でとある場所へタクシーで向かった。

夕陽はすっかり落ち、辺りは暗くなっていた。
タクシーが走るスピードで、周りの光がリズムを刻みながら流れていく。


「…着きました。」

運転手がそう言って、タクシーが止まった場所は
文京区にある大きなドーム型野球場であった。

「…東京ドーム?」

菊野は不思議そうに東京ドームを見つめた。
背後から、運転手に支払いを終えた白峰が降りてくる。

「いや、目的地はそっちじゃない。」

白峰はそう言うと、菊野の手を引いて歩き始めた。

東京ドームの近くにある、大きなビルの入り口に着くと、白峰は迷いもなくそのビルに入って行った。

ビルのフロントには、白いコックコートに身を包んだ、白峰と同い年くらいの青年が待っていた。

「…急に連絡してきやがって、渉。
元気か?」

そのコックの青年は、白峰の顔を見るなりそう言った。

「久しぶりだな。峻郎としろう。」

白峰は、彼のことをそう呼んだ。
そしてその青年に、菊野を紹介した。

「彼女は俺の仕事仲間でさ。
まだ若い子で、せっかくだから峻の店に連れて行こうかなって思って。」

白峰はそう説明した。
あくまで、"BOX・FORCE"は秘密裏の組織である為、一般に口外はできない。
白峰は上手く簡潔に説明してみせた。
そして、青年の肩に手を置いて
菊野に彼を紹介した。

「こいつは、保相 峻郎ほあい としろう
こう見えて、結構腕のある料理人でさ。
こいつがようやく自分の店を構えたんだけど、それがめちゃくちゃ良いところだから。」

白峰がそう紹介すると、保相は少し不満げな顔を見せた。

「んだよ。女の前では自慢げに褒めやがって。
男の前だとこいつがこんな小洒落た店だなんだって言ってたくせに。」

その表情の理由は白峰にあったみたいだ。
しかし、すぐに振り返り2人を案内した。

「着いてきてよ。
俺の"SKY BOXスカイ・ボックス"へ案内するよ。」

_

ビルの最上階である40階に、"SKY BOX"というお店があった。
エレベーターを昇っている際に、白峰は保相との関係を菊野に説明していた。



白峰が、益富と初めて会った"MAX"。
その"MAX"の存在を白峰に教えたのが、この保相であった。
そして、"MAX"を見物に行った日
白峰が黒山によって傷を負った際、白峰が庇った仲間というのが、この保相である。

「いやぁ、こいつが相手チームの人にぶん殴られた時は焦ったぜ…。
あの時助けてくれた益富さん、最近全然噂聞かないけどどうしてんだろうな。」

保相が昔話を思い出しながら、ふとそう言った。
しかし、白峰と菊野はその言葉に少し固まってしまった。
2人は"益富"の事をそっと心の中に留めながら、保相の話を聞いていた。


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part.4に続く。
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