BOX・FORCE-Another Story-

hime

文字の大きさ
上 下
5 / 6
Yukinoshita

Yukinoshita.part4

しおりを挟む

_




店に着くと、そこは少し薄暗いバーの雰囲気のようなレストランであった。

保相はウェイターに白峰達を預けると、
コック帽を頭に被って2人に言った。

「ドリンク、好きなもん選べよ。
フードは任せとけ。」

保相はそう言い残して、キッチンへと向かった。


ウェイターに案内され、窓際の席に案内された2人は、窓の外が見えるように並んで座らされた。

「…すごい…。昔漫画で見た、憧れのプロポーズシーンで出てきた景色みたい…。」

店内の明るさが暗いこともあり、窓の外に広がる街の夜景がその席からは一望できた。
その景色に菊野が見惚れていると、白峰の元にウェイターがやってきて何やら話をしていた。

「里海は、お酒にする?」

ウェイターが白峰と話しながら見せていたのは、ドリンクメニューであった。
白峰はそのスタイルから基本お酒を飲まない。
どうやら、ノンアルコールのスパークリングワインを選んでいた。

「…いえ、私も渉さんと同じものでお願いします。」

菊野は白峰の様子を見て、そう答えた。
菊野は特段お酒が弱いわけではないが、彼女もまた"剣士"であるが故に、アルコールをそこまで摂取していないようだ。


2人の元へ、細く綺麗なグラスに注がれたドリンクが運ばれると、2人はそのグラスの足を持ち
軽くグラスを合わせて乾杯した。

「今日はたくさんありがとうございます。渉さん。」

菊野はそう言って、軽くドリンクを口に流した。

「…お昼にも言ったけど、今日は里海にお礼したかったから、俺が。
なんだか、結果的に俺の思い出話だったりたくさんして申し訳なかった…。」

白峰もそう言って、ドリンクを口にした。

「…ううん、そんな事ないですよ。
"BOX・FORCEあそこ"にいるだけじゃ知らなかった渉さんを、たくさん知れて嬉しかったです!」

菊野はそう言うと、自分の台詞が恥ずかしかったのか、窓の外の夜景に視線を移した。


程なくして、何品か順番に料理が運ばれてきた。
2人の為のコース料理かのように、綺麗に盛り付けられたオシャレな料理が前菜から順番に、運ばれていく。

「…美味しいし、お洒落だし、凄いです!
私、こんな経験したの初めてです…!」

菊野はその数々に目を輝かせながら、美味しそうに食事を楽しんだ。
その姿をそっと見守りながら、白峰も静かに食事を楽しんだ。


「…お待たせ。今日は特別、A4和牛のステーキだ。」

メインの料理は、保相自ら2人の元へ運んできた。
菊野は、今までに見た事のないその料理に
言葉を失っていた。

「"大人"の料理って感じだろ?」

そんな菊野の姿を見て、微笑ましそうに笑顔を見せながら、保相はそう言った。

「…いいのか?こんなに。」

白峰は、保相にそっと耳打ちした。

「…お前、この子落とすんだろ?
ロビーで会った時からそんな気がしてたぜ。
…お前の為だ。俺も偶には本気出してやるよ。」

どうやら、保相には白峰の事がお見通しのようであった。
しかし、そんな会話をしてる2人を他所に
菊野は目の前に現れた初めて見る料理に釘付けであった。

「…お前にやっとを返せる日が来た気がするぜ。」

保相はそう言うと、白峰の背中を軽く叩いて
キッチンへと戻って行った。



_


2人がメインの食事を食べ終わると、
ウェイターがそのお皿を下げにやってきた。

「この後、シェフがデザートをご用意致します。
ご一緒に、コーヒーか紅茶は如何ですか?」

ウェイターがそう言うと、白峰は菊野にどうする?という視線を送った。

「紅茶でお願いします。」

菊野がそう答えると、白峰はウェイターを見て言った。

「今は紅茶の気分ですかね。」

それを聞いたウェイターは、かしこまりました。と言って下がって行った。
しかし、紅茶を用意する前に何やらシェフである保相と話をしていた。

その様子を不思議そうに見ていた菊野に、
白峰は突然真剣な面持ちで話し始めた。

「…き、急なんだけどさ…。」

白峰の言葉は、緊張を帯びて少し辿々しかった。

「…改めて、病院で言い切れなかった事を
今、言いたい。」

菊野はスッと背筋を伸ばし、コクっと小さく頷くと
真剣な顔で白峰を見た。

病院での事。
それは、"第2次NAMELESS大戦"と呼ばれる
"BOX・FORCE"と"四神"による争いの少し前。

"四神"のウルセウスの攻撃から、菊野を庇って負傷した白峰の元へ、菊野が見舞いにきた時の事である。


「…あの時、俺は自分勝手でナルシストみたいな事を、君に言った気がする。
…あれは決して、嘘ではないが…。
ただ、あの後再び"ウルセウス"と対峙して
戦って。
俺1人の力ではないが、"奴"を倒して改めて考えたんだ。」

白峰はそう言いながら、自分の右拳を見つめた。

「…俺は何の為に戦うのか。
自分の強さの為?師匠の為?"BOX・FORCE"として世間を守る為…。
浮かんでくる答え全て、俺の中で"正解の答え"だったんだ。」

白峰はそう言うと、拳を解いて掌を見た。

「ただ、その中で1つだけ。
その"答え"とは別次元の思いがにあった。」

その掌で、白峰は自身の胸部に触れた。
そして、ゆっくり深呼吸をしてから菊野を見た。
その目線から、菊野は目を逸らす事はなく、正面から受けて立った。

「里海…。やっぱり俺は君を守りたい。
"BOX・FORCEあそこ"にいる隊員としてだけじゃない。

人として、男として
困った時は君と背中合わせで戦う。
もしもの時は俺が君を守ってみせる。

俺は…。」


白峰はそこまで言いかけると、言葉を止めた。
菊野がそのまま固まっていて動かないからだ。
それは菊野自身の考えを纏めていたと白峰が気づいたのは、彼女が窓の外へ視線を移した時であった。


「…今日、改めて思いました。
私、渉さんと一緒にいる時間が楽しい。嬉しい。
…それが例え、今日みたいな平和な日常じゃなくても。

負けず嫌いで、"剣術"の事しか自信がないから…。
私には、"剣術これ"しかないと思っていた。


渉さんは、私に色んなことを教えてくれました。
渉さんの事、"BOX・FORCEあの組織"の事、
そして、"剣術"だけじゃない私の事。

…私、そんな渉さんの側にいる事を
"幸せ"って思ってます。
…初めて、"幸せ"って気持ちを感じました。


…私…。」


菊野がそう言いかけた時、それを遮るように白峰が言った。


「里海。俺は里海の事が好きだ。」


菊野は白峰の顔を見て、真っ直ぐその言葉を聞いていた。
そしてスッと、一筋の涙が菊野の目から溢れた。

しかし、菊野の顔は幸せそうであった。


「…私も、渉さんの事が好きです。」



_

2人が互いの思いを告げると、ウェイターがデザートを運んできた。
お皿の上には、お洒落に飾られたバームクーヘンがあり、それを飾るようにチョコレートがかけられているものであった。


「…"紅茶"に"チョコレート"に"バームクーヘン"…。
2人が紅茶を選んだって言うから、特別に俺が仕込んであったやつを出してみた。
バームクーヘンかよなんて思うなよ?」

ウェイターの後ろから現れた保相は、意味深にそう言うとウェイターに帰るぞ、と合図をした。


「…なるほどね。"粋"な事しやがる…。」

白峰は、保相の言葉を聞いて何かに気がついたようだ。
しかし菊野は、不思議そうな顔をしてその様子を見ていたが、気にせずデザートを食べ始めた。


_

食事を終え、店を後にしようとした2人は
保相に挨拶をした。

白峰がこそっと、保相に耳打ちをする。

「…おい、ファミレスか?ってくらい安かったけど大丈夫なのか?俺ももう働いてるんだし、ちゃんと払えるぞ?」

白峰は心配そうにそう言った。

「…言ったろ?俺はお前に""を返しただけだ。気にすんな。」

保相はそう言ってイタズラな笑顔を見せた。
そして、茶化すように続けた。

「…ちゃんと幸せにしてやれよ?
俺からのメッセージ、無視すんじゃねぇぞ?」

保相にそう言われて、白峰はフッと鼻で笑った。

「…当たり前だろ?」


白峰はそう言うと、保相に感謝を述べて
菊野と共にお店を出た。

_


お店を出て、帰りの駅に向かう途中
2人はどこか恥ずかしそうに、
何度もお互いを見ては目線を逸らしていた。

しかし、その手はしっかりと握られていた。



駅が見えてきた頃、菊野は何かを思い出したかのように、少し恥ずかしそうに白峰に言った。

「…そう言えば…私達、
お互いに…好きって言っただけ…。」

菊野がそう呟くと、白峰は不安そうに首を傾げた。

「…もしかして、
…好きだけど…恋人にはなってはくれないって事?」

白峰にしては少し子供のような、疑問を浮かべたその表情に、菊野は少しドキッとした。
しかし、それが悔しかったのか
頬を膨らませて少し怒った顔を見せた。

「…何それ。ズルすぎますっ。」

菊野は、プイッと白峰から視線を逸らして正面を向いてしまった。


しかし、その目の前に白峰の顔が近づく。
そして白峰は、小さく低い声で言った。



「…冗談だって。
…付き合おう。里海。」



そう言った白峰の口が、菊野の唇と重なった。



_
Next.→Epilogue.
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

その選択、必ず後悔することになりますよ?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:347pt お気に入り:592

聖女を召喚したら、現れた美少女に食べられちゃった話

恋愛 / 完結 24h.ポイント:859pt お気に入り:13

猫耳幼女の異世界騎士団暮らし

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:2,337pt お気に入り:391

婚約者は私を溺愛してくれていたのに、妹に奪われた。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:5,538pt お気に入り:17

わたしはお払い箱なのですね? でしたら好きにさせていただきます

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:29,381pt お気に入り:2,541

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:45,354pt お気に入り:3,675

ただ、あなただけを愛している

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,534pt お気に入り:259

眠たい眠たい、眠たい夜は

nwn
BL / 連載中 24h.ポイント:334pt お気に入り:7

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,790pt お気に入り:466

処理中です...