BOX・FORCE

hime

文字の大きさ
38 / 85
第1章:NAMELESS編-新宿戦-後編

[第38話:Obedient plant]

しおりを挟む


「…貴様…その姿は…。」

樫間はバキオラにそう問いかけた。
樫間もそう言うのがやっとな状態にはあったが、それと同じくらいバキオラの状態も、もはや戦うだけの体力と肉体は残っていなかった。

突如、バキオラは左脚で樫間の右耳を蹴った。
樫間の右耳に付けられた通信機は、粉々に壊されてしまった。
樫間は咄嗟に右耳を押さえたが、指の間から血が流れている。

「…樫間君…君には教えてあげよう…。」

バキオラは、樫間たちと出会った時の元の口調に戻って丁寧に話し始めた。
樫間の右耳の通信機を破壊する程の蹴りを見せたものの、バキオラは少しふらついた。

「…この、"NAMELESS"という現社会の変異事象…。これを起こした人物は…"クリス・ハンター"…。又の名を、"クリスティーナ・パンダ"。
君もよく知っているだろう…。」

バキオラは、樫間の反応を待たずに続けた。

「…"クリスティーナ・パンダ"…ふっ…本当、なんて滑稽な名前と姿…。その仮面の下に、巨悪な姿を隠すには相応しいのかもしれませんがね…。
彼こそ、我々を指揮する"先導者"…。そう。"箱装ボックス・アーマー"も"BOX・FORCE"も、我々"NAMELESS"も…。
全て、あの方のシナリオの登場人物に過ぎないのです…。」

バキオラは言葉を選びつつも、その真意を樫間に伝えた。
その樫間の表情には、笑みが浮かんでいた。

「…やっぱりか。俺たちの読み通りだぜ。」

樫間の反応は、その言葉を待っていたと言わんばかりであった。

「…なんだ?やっぱり、だと!?」

樫間は驚きどころか満足そうな様子であった事が、バキオラを動揺させた。

「…わざわざ答え合わせしてくれてありがとう、バキオラさんよ。
継斗が感じていた違和感、そしてこれまで俺たちに起きた全ての事象…。そこには必ず"クリスティーナ・パンダ"が関わっていた。
でもまさか、その"パンダ"自身が裏で全てを操っていたとはな…。」

樫間はそう言うと、思いっきり左側頭部を叩いた。
右耳から、通信機の破片が飛び出した。

「…へっ…でも、そんな大事な事を言って良かったのかよ。お前の口から、俺に。」

「…私ももう、長くないでしょう…。私は君との戦いで、彼の作り出した力を覚醒させて、逆に利用しようと考えていた…。彼の考える、"NAMELESS兵器理論"、そして"箱装兵器理論"を、ね…。」

バキオラはそう言うと、自身の胸元に腕を突っ込んだ。
胸部を突き破った腕の奥から、光る物体が現れた。

「…君らが我々を倒す時のカギとしている"コア"…。これは、彼が作り出した人工エネルギーを閉じ込めた"箱"…。そして、君たちが使うその"箱装"とやら。この2つを組み合わせて、かつて無い兵隊組織を創造する…。それが、彼の提唱する策の全て"箱装部隊ボックス・フォース理論"なのさ…。」

樫間は、目を見開いてバキオラを見た。
そして、スッと"青龍銃"を閉まってしまった。

「…ふっ…怖くもなるだろう…。彼はサイコパスだ。この世に溢れかえった"人間"を利用した"人間兵器部隊"を作る…。それが、彼の目的だ…。
その兵器の核は、こんなにも小さな"箱"なのだ。
運ぶのにも苦労しない…。これは、いずれ世界をひっくり返す大発明として裏社会マーケットに出回るだろう…。」

バキオラがそう言うと、樫間は壊れかけたスマートフォンを取り出した。

「…どうしようと言うのだ?」

バキオラは樫間に問いかけた。

「…決まってんだろ…。"パンダ"を止める…いや、"パンダ"を殺すっ!!!」

そう言って、誰かに連絡を取ろうとした樫間の手をバキオラは制止した。

「…待て。…私の…俺の話を聞いて欲しい。」

バキオラは、これまで数々の罵声を浴びせた樫間に、初めて頭を下げた。

「…俺のこの姿…見てわかるだろう。お前たちの"箱装"の力、それは"外装兵器"の実験だ。…俺たち"NAMELESS"に施されてるのは、"内装兵器"実験…。俺やウルセウス、ヴァリアルは人の形を保つことが出来た、言わば"成功個体"だ…。しかし、ラスコ・ロームや球体NAMELESSたちは、"失敗個体"。要するに、俺たちNAMELESSは人体実験をされていたのだ…。」

樫間は、空いた口が塞がらなかった。
樫間や獅蘭が追っていた事よりも、遥かに現実は悲惨であったのだ。

「…俺たちは、世界各国の家族のない者たち。即ち"名無しネームレス一族"だった。だから、彼は容易く我々を利用できた…。その身朽ち果てようと、悲しむ者などいない者たちだったからな。」

バキオラの目には、涙が溢れていた。
"NAMELESS"である矜持と人間としての感情が、彼の中で錯綜している。

「…俺が、こんな事を言うべきじゃない事は承知の上で、お前に言う。…この計画を止めてくれ。
その方法が2つある。」

バキオラはそう言うと、樫間の目を真っ直ぐ見た。

「…1つはその、"箱装ボックス・アーマー"。お前たちが使う、"十二神器"と呼ばれるシリーズだ。
そのシリーズは、彼の作品とは違う…。純粋種の"自然エネルギー"が使える…。」

バキオラがそこまで言うと、突然銃声がした。
4発目の銃声と共に、その銃弾はバキオラの胸部を貫通した。

「…ぐはっ…彼…いや…奴だ…!」

瓦礫の残骸の影に、確かな人影が感じられた。
しかし、その人影に雷の銃弾が撃ち込まれた。


「ヒロキィィィィィィィ!!!!こっちは任せロ!!!!そっちは頼んだゾ!!!!!!!」


樫間とジャッキーの居場所は離れていたが、通信機の使えない樫間に確実に届く声で、ジャッキーが叫んでいる。

「…樫間…紘紀…。お前には、優秀な仲間がいるみたいだな…。」

バキオラは、被弾した胸部を押さえて膝から崩れ落ちた。
その身を、樫間はあろう事か支えようと寄り添った。

「…おいっ!しっかりしろっ!」

樫間はバキオラにそう言った。

「…いいか…2つ目は…今から…その場所に…お前を送る…。」

バキオラはそう言うと、手に握りしめていた"コア"を、思い切り握りつぶした。

バキオラの体が閃光し、光の球になっていった。
樫間がその球体に飲み込まれかけた時、ジャッキーが樫間の姿を捉えた。

「ヒロキィィィィィィィ!!!!!」

ジャッキーは狙撃した者を追う事を止め、
樫間の元へと救援に向かおうとした。

「ジャックッ!マズイぞっ!」

リズは、飛び出すジャッキーを引き戻そうと手を伸ばした。
しかし、その拍子に足元が何かに引っ掛かり、ビルの屋上から落下しそうになった。

「リズさんっ!」

咄嗟に、咲波が水の蛇を使ってリズの体を受け止めた。
リズは間一髪のところで助かった。が…。


バキオラと樫間を包んだ閃光は、みるみるうちに大きくなり、飛び込んだジャッキーの姿をも飲み込んだ。


バァァァァァァァァァァン!!!!!!


突如、爆音と共にその閃光の球体が爆発した。
その戦場には、バキオラ、樫間、そしてジャッキーの姿が消えていた。
夜明けの光と共に雪混じりの雨が降っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...