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消える行商人
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「もし……そこの冒険者のお嬢さん。 よかったらですが、うちの商品も見ていってくださいませんか?」
そんな弱々しい声に彼女が振り返ると、そこには三十路ほどと思われる小山のような体格の巨漢が、路上に布を敷いて商品を売っていた。
「うわっ……驚かせないでよ」
「はぁ、すいません」
その体の大きさに最初はびっくりしたが、穏やかな声と頼りなさげな振る舞いのせいか、ずいぶんと頼りなく見える。
しかも男は顔が半分隠れるような前髪のせいで貧乏たらしく、おまけに目を隠すように大きな眼鏡をつけていた。
「商品ねぇ」
せっかくだからと、男の売っているものに目を向けてはみたものの……どう見てもパッとしない。
男の売り物はたった二種類。
緑色のメタリックなナイフと、木をくりぬいて蝋で蓋をしただけの簡素な容器に入った何かだった。
ナイフはよく砥がれてはいるようだが、全体的に作りが悪い。
ためしに爪先ではじいて音を立ててみるが、どうも鈍い音がする。
柄との接合もグラグラだし、たぶん何度か使えば壊れてしまうだろう。
残りは粗末な木の容器に入った何かだが……これは見るまでも無い。
怪しすぎて誰も買うはずも無い代物だ。
「……おじさん、これぜんぜん売れてないでしょ」
「はぁ、わかりますか」
女がそう問いかけると、男は頭をかきながら視線を落とした。
「まぁ、見ればなんとなくね」
「品質には自身があるんですけどねぇ」
「……ぷっ、それ、何かの冗談?」
おそらく成人する前の子供でも騙される者はいないだろう。
こんなものをここまでまじめに売るだなんて正気とは思えないし、演技だとしたらたいしたものだ。
だが狂っているようには見えないし……もしかしたら男は役者ではないだろうか?
そうだ、きっとこれは演技の練習なのだ。
わざとだとしか思えない売り物の粗末さも、売る気が無いのだと思えば納得できる。
顔を隠すような奇妙ないでたちも、役者が素顔を隠すためだとしたらおかしくは無い。
その低くやわらかい声も、舞台衣装に身を包んで耳元で甘く囁かれたらさぞや心地の良いことだろう。
もしかしたら、素顔はかなりの男前なのではないだろうか。
「いやぁ、私は本気ですよ?」
どうやら、男はどこまでも演技を続ける気であるらしい。
だが、悪い気はしなかった。
パッと見たところは冴えないが、穏やかなのにどこかとぼけてたところもあってなかなかに面白い。
見た目と中身にギャップが男というのは、わりと好きなタイプだ。
「まぁ、今日は懐も暖かいし、さすがに演技だとしても誰も相手にしないのではおじさんがかわいそうだからね。
ずいぶんと笑わせてもらったし、私が騙されてあげるわ」
だが、男は困惑するかのように首をかしげると、少し悲しげに売り物であるナイフを手に取り、そのナイフの背を指で撫でた。
「いや、騙すだなんてそんな……ほんとうに良いものなんですよ?」
「いいからいいから、とりあえずその変な色をしたナイフはいくら?」
男の困惑をよそに、彼女は売り物として置いてあったナイフを一つ手に取る。
すると男は嬉しそうに笑みを浮かべ、売り物の説明を語りだした。
「これはゴブリンナイフといいまして、傷をつけると傷口を中心に相手の体がしばらく麻痺するというものです。
体の大きな相手にはあまり効きが良くないかも知れませんが、象を相手にするのでもなければそこそこ便利だと思います。
ちなみにお値段は銀貨8枚でどうでしょう?」
「ふぅん。そういう設定なんだ?
普通のナイフと同じ程度にはするのね。
じゃあ、こっちの怪しい木の筒は?」
「これは、ヒーリングポーションといいまして、傷口に振り掛ければたちどころに傷が癒えるという代物です。
お値段は……銀貨一枚でいかがでしょう?」
もしも彼の売り文句が本当だとしたら、少なくともその1000倍ほどの値段……もはや銀貨の10倍の価値を持つ金貨で取引をしなければならないものである。
特にポーションのほうは価値が高く、金貨100枚ほどの価値になるだろう。
なお、銀貨一枚でおよそ平均的な庶民の昼食二回分になる。
わざと騙されるには少々高い代物だったが、それでも構わないと思う程度にはその日の彼女の機嫌は良かった。
「ふふっ、効能の割にはえらく安いのね。
まぁ、いいわ。 楽しませてもらったし、ナイフを一本と薬を3つ頂戴」
「あ、ありがとうございます! よかったー! やっと売れたぞ!!」
男は感激し、涙交じりの声で商品を手渡した。
なんという迫真の演技。
女は苦笑いにも似た笑みを浮かべつつ銀貨を渡す。
「このお金で何かおいしいものでも食べてね。 あと、どこの劇団かはしらないけど、舞台で見かけたら応援させてもらうわ」
「ははは……私は役者じゃないんですけどねぇ」
そして男と女は別れた。
その数日後……
女は、男が露店を出していた広場に息を切らせつつ舞い戻る。
そして男の姿が無いことを確認すると悔しげに足を踏み鳴らした。
「あぁん! すっかり騙されちゃった!
演技していたのが商品のほうだっただなんてあんまりよ。
……あの時もっとたくさん買っていれば!!」
後悔しても後の祭り。
彼女に何があったかについては……あなたの想像にお任せしよう。
そんな弱々しい声に彼女が振り返ると、そこには三十路ほどと思われる小山のような体格の巨漢が、路上に布を敷いて商品を売っていた。
「うわっ……驚かせないでよ」
「はぁ、すいません」
その体の大きさに最初はびっくりしたが、穏やかな声と頼りなさげな振る舞いのせいか、ずいぶんと頼りなく見える。
しかも男は顔が半分隠れるような前髪のせいで貧乏たらしく、おまけに目を隠すように大きな眼鏡をつけていた。
「商品ねぇ」
せっかくだからと、男の売っているものに目を向けてはみたものの……どう見てもパッとしない。
男の売り物はたった二種類。
緑色のメタリックなナイフと、木をくりぬいて蝋で蓋をしただけの簡素な容器に入った何かだった。
ナイフはよく砥がれてはいるようだが、全体的に作りが悪い。
ためしに爪先ではじいて音を立ててみるが、どうも鈍い音がする。
柄との接合もグラグラだし、たぶん何度か使えば壊れてしまうだろう。
残りは粗末な木の容器に入った何かだが……これは見るまでも無い。
怪しすぎて誰も買うはずも無い代物だ。
「……おじさん、これぜんぜん売れてないでしょ」
「はぁ、わかりますか」
女がそう問いかけると、男は頭をかきながら視線を落とした。
「まぁ、見ればなんとなくね」
「品質には自身があるんですけどねぇ」
「……ぷっ、それ、何かの冗談?」
おそらく成人する前の子供でも騙される者はいないだろう。
こんなものをここまでまじめに売るだなんて正気とは思えないし、演技だとしたらたいしたものだ。
だが狂っているようには見えないし……もしかしたら男は役者ではないだろうか?
そうだ、きっとこれは演技の練習なのだ。
わざとだとしか思えない売り物の粗末さも、売る気が無いのだと思えば納得できる。
顔を隠すような奇妙ないでたちも、役者が素顔を隠すためだとしたらおかしくは無い。
その低くやわらかい声も、舞台衣装に身を包んで耳元で甘く囁かれたらさぞや心地の良いことだろう。
もしかしたら、素顔はかなりの男前なのではないだろうか。
「いやぁ、私は本気ですよ?」
どうやら、男はどこまでも演技を続ける気であるらしい。
だが、悪い気はしなかった。
パッと見たところは冴えないが、穏やかなのにどこかとぼけてたところもあってなかなかに面白い。
見た目と中身にギャップが男というのは、わりと好きなタイプだ。
「まぁ、今日は懐も暖かいし、さすがに演技だとしても誰も相手にしないのではおじさんがかわいそうだからね。
ずいぶんと笑わせてもらったし、私が騙されてあげるわ」
だが、男は困惑するかのように首をかしげると、少し悲しげに売り物であるナイフを手に取り、そのナイフの背を指で撫でた。
「いや、騙すだなんてそんな……ほんとうに良いものなんですよ?」
「いいからいいから、とりあえずその変な色をしたナイフはいくら?」
男の困惑をよそに、彼女は売り物として置いてあったナイフを一つ手に取る。
すると男は嬉しそうに笑みを浮かべ、売り物の説明を語りだした。
「これはゴブリンナイフといいまして、傷をつけると傷口を中心に相手の体がしばらく麻痺するというものです。
体の大きな相手にはあまり効きが良くないかも知れませんが、象を相手にするのでもなければそこそこ便利だと思います。
ちなみにお値段は銀貨8枚でどうでしょう?」
「ふぅん。そういう設定なんだ?
普通のナイフと同じ程度にはするのね。
じゃあ、こっちの怪しい木の筒は?」
「これは、ヒーリングポーションといいまして、傷口に振り掛ければたちどころに傷が癒えるという代物です。
お値段は……銀貨一枚でいかがでしょう?」
もしも彼の売り文句が本当だとしたら、少なくともその1000倍ほどの値段……もはや銀貨の10倍の価値を持つ金貨で取引をしなければならないものである。
特にポーションのほうは価値が高く、金貨100枚ほどの価値になるだろう。
なお、銀貨一枚でおよそ平均的な庶民の昼食二回分になる。
わざと騙されるには少々高い代物だったが、それでも構わないと思う程度にはその日の彼女の機嫌は良かった。
「ふふっ、効能の割にはえらく安いのね。
まぁ、いいわ。 楽しませてもらったし、ナイフを一本と薬を3つ頂戴」
「あ、ありがとうございます! よかったー! やっと売れたぞ!!」
男は感激し、涙交じりの声で商品を手渡した。
なんという迫真の演技。
女は苦笑いにも似た笑みを浮かべつつ銀貨を渡す。
「このお金で何かおいしいものでも食べてね。 あと、どこの劇団かはしらないけど、舞台で見かけたら応援させてもらうわ」
「ははは……私は役者じゃないんですけどねぇ」
そして男と女は別れた。
その数日後……
女は、男が露店を出していた広場に息を切らせつつ舞い戻る。
そして男の姿が無いことを確認すると悔しげに足を踏み鳴らした。
「あぁん! すっかり騙されちゃった!
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