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第一章
第109話 不治の病と強制お見舞い
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お姫様の救出劇から一週間ほどの時間がすぎた。
「また行くのか?」
俺が地上に降りる準備をしていると、後ろから不機嫌を隠そうともしない低い声が聞こえてくる。
「仕方が無いだろ。
お願いされているんだから」
振り返ると、仏頂面のアドルフが腕組みしたまま俺を見下ろしていた。
最近はずっとこんな感じで機嫌が悪い。
……というのも、ここのところ二日に一度ぐらいのペースでお姫様の見舞いに出かけているからだ。
いや、申し訳ないのだが自発的にではない。
ジスベアードに頼まれているのである。
なんでもお姫様の体調が悪いのだが、俺がくると調子が良くなるらしい。
ずいぶんと都合のいい病気もあったものである。
なおや、病名は知らない。
聞きたくも知りたくも無いしな。
で、俺がお見舞いに行くとお姫様苦の病気がよくなるかわりに何人かの精霊たちが目に見えて不機嫌になるのである。
アドルフの機嫌も悪いが、レクスシェーナもすごい目で俺の方見てくるんだよな。
かまってやる時間が少なくなるのは悪いと思ってるけど、子供に嫉妬すんなよ。
あのお姫様はまだ十一歳だぞ?
当初はお姫様の体調不良について精霊たちに治療をお願いしようかと最初は思っていたんだが……。
この様子を見て取りやめたのは言うまでも無い。
実を言うと、このお見舞いには俺の方にもメリットがある。
あのお姫様、この地方の伝承に詳しいのだ。
なんでも、亡くなった祖母から多くの伝承を聞かされていたらしいのだが、その内容がとても興味深いのである。
精霊たちも昔話には詳しいが、やはり人の間で伝わる話には独特の味があり、そこがたまらないのだ。
口伝に伝わるうちにどんどん変容する物語は、確かに史実とかけ離れている場合も少なくない。
けど、物語は記録じゃないからな。
その変質する過程がまた面白い……と思ってしまうのは、俺が生粋の本の虫だからだろうか。
「さて、行ってくるよ。
今日の物語はなにかな」
「できるだけ早く戻って来い。
お前の仕事は医者じゃなくて司書なんだからな」
「はいはい、アドルフが寂しがるからできるだけ早く戻るよ」
「……ぬかしてろ。
俺は自分のものが他人に利用されるのが嫌なだけだ」
「誰がいつお前のものになったって?」
おっと、こんなことをしている場合じゃない。
むこうを待たせているかも知らないからな。
俺は不毛な会話を打ち切ると、昇降口のゴンドラを動かした。
この施設はあれから改良されて、風を寒さを防ぐ結界が仕込まれている。
降りる際の揺れも少なくなっており、かなり快適な乗り心地だ。
「さて、下の様子は……お、ジスベアードのやつもう来ているじゃないか」
待ち合わせの広場には、騎士のマントに身を包んだ青年がこちらを見上げて待っている。
なんでも、今回の活躍が認められてそこそこ出世したらしい。
まぁ、自警団のまとめ役という立場は相変わらずなんだけどな。
「早かったな、ジスベアード。
待たせてしまったか?」
「いや、こちらが無理を言っているのは分かっているからな。
気にしないでくれると嬉しい」
そういいながら、俺たちは用意されていた馬車に乗り込む。
やたらとクッションの効いた座席に腰をおろすと、馬車は歩くよりちょっと早いほどのスピードで動き出した。
「なんか、肩が凝るな。 こういうの」
隣のジスベアードに話しかけると、奴もまた肩をすくめる。
「まったくだ。
昔は、偉くなるといろいろ楽になるもんだと思っていたんだがなぁ。
実際には窮屈で余計なしがらみとか責任ばっかりが増えてちっとも楽じゃねぇや」
そんな雑談をしながら時間をつぶすと、ふいに遠くから地響きが聞こえた。
「あぁ、ポメリィさんがんばってるな」
音がした方向に顔をむけ、俺はボソリと呟く。
「おかげさまで、かなり助かってるぜ。
まぁ、それでも色々と厳しいんだがな」
彼女が何をしているかというと、魔物の討伐だ。
先日の襲撃で、むこうの町の守護女神とやらがいたのは覚えているだろうか。
その女神からの報復で、この町の周辺に大量のモンスターが沸いているのだ。
だいたい、事の始まりはお前らがひとのところのお姫さまさらった上に街に火をつけたからだろうが……なんとも理不尽である。
ただ、その報復は確実に俺たちにダメージを与えていた。
なんでも、ただでさえ森が消えたことで足が遠のいていた商人たちが、さらにこの町を敬遠するようになっているらしい。
このままでは町の復興に必要な物資が確実に足りなくなるだろう。
そんなわけで、すこしでも状況をよくしようとポメリィさんがモンスターを駆逐しているのだが、彼女がやると地形が変わりかねない。
なので、彼女に気のあるジスベアードに話をつけて、彼女が街道をぶっ壊さないように見張らせていた。
……のだが、その目論見は一日で費える。
ジスベアード曰く、命は惜しいとの事だ。
それでもまだポメリィさんのことを諦めていないらしく、こいつもなかなか根性のあるよな。
ただ、いろいろと迷惑なので、そろそろ智の神に相談しようかと思っている。
まぁ、向こうは俺が何も言わなくても全てを察しているんじゃないかと思うが。
「おい、トシキ。
そろそろ屋敷につくぞ」
ジスベアードに話しかけられて、俺はハッと我にかえる。
気が付くと、馬車はすでに止まっていた。
おっと、いつのまにか物思いにふけってしまっていたか。
「さて、お姫様がお待ちだぞ」
「わかった。 俺が到着したことを知らせてくれ」
さて、今日はどんな話が聞けるのやら。
「また行くのか?」
俺が地上に降りる準備をしていると、後ろから不機嫌を隠そうともしない低い声が聞こえてくる。
「仕方が無いだろ。
お願いされているんだから」
振り返ると、仏頂面のアドルフが腕組みしたまま俺を見下ろしていた。
最近はずっとこんな感じで機嫌が悪い。
……というのも、ここのところ二日に一度ぐらいのペースでお姫様の見舞いに出かけているからだ。
いや、申し訳ないのだが自発的にではない。
ジスベアードに頼まれているのである。
なんでもお姫様の体調が悪いのだが、俺がくると調子が良くなるらしい。
ずいぶんと都合のいい病気もあったものである。
なおや、病名は知らない。
聞きたくも知りたくも無いしな。
で、俺がお見舞いに行くとお姫様苦の病気がよくなるかわりに何人かの精霊たちが目に見えて不機嫌になるのである。
アドルフの機嫌も悪いが、レクスシェーナもすごい目で俺の方見てくるんだよな。
かまってやる時間が少なくなるのは悪いと思ってるけど、子供に嫉妬すんなよ。
あのお姫様はまだ十一歳だぞ?
当初はお姫様の体調不良について精霊たちに治療をお願いしようかと最初は思っていたんだが……。
この様子を見て取りやめたのは言うまでも無い。
実を言うと、このお見舞いには俺の方にもメリットがある。
あのお姫様、この地方の伝承に詳しいのだ。
なんでも、亡くなった祖母から多くの伝承を聞かされていたらしいのだが、その内容がとても興味深いのである。
精霊たちも昔話には詳しいが、やはり人の間で伝わる話には独特の味があり、そこがたまらないのだ。
口伝に伝わるうちにどんどん変容する物語は、確かに史実とかけ離れている場合も少なくない。
けど、物語は記録じゃないからな。
その変質する過程がまた面白い……と思ってしまうのは、俺が生粋の本の虫だからだろうか。
「さて、行ってくるよ。
今日の物語はなにかな」
「できるだけ早く戻って来い。
お前の仕事は医者じゃなくて司書なんだからな」
「はいはい、アドルフが寂しがるからできるだけ早く戻るよ」
「……ぬかしてろ。
俺は自分のものが他人に利用されるのが嫌なだけだ」
「誰がいつお前のものになったって?」
おっと、こんなことをしている場合じゃない。
むこうを待たせているかも知らないからな。
俺は不毛な会話を打ち切ると、昇降口のゴンドラを動かした。
この施設はあれから改良されて、風を寒さを防ぐ結界が仕込まれている。
降りる際の揺れも少なくなっており、かなり快適な乗り心地だ。
「さて、下の様子は……お、ジスベアードのやつもう来ているじゃないか」
待ち合わせの広場には、騎士のマントに身を包んだ青年がこちらを見上げて待っている。
なんでも、今回の活躍が認められてそこそこ出世したらしい。
まぁ、自警団のまとめ役という立場は相変わらずなんだけどな。
「早かったな、ジスベアード。
待たせてしまったか?」
「いや、こちらが無理を言っているのは分かっているからな。
気にしないでくれると嬉しい」
そういいながら、俺たちは用意されていた馬車に乗り込む。
やたらとクッションの効いた座席に腰をおろすと、馬車は歩くよりちょっと早いほどのスピードで動き出した。
「なんか、肩が凝るな。 こういうの」
隣のジスベアードに話しかけると、奴もまた肩をすくめる。
「まったくだ。
昔は、偉くなるといろいろ楽になるもんだと思っていたんだがなぁ。
実際には窮屈で余計なしがらみとか責任ばっかりが増えてちっとも楽じゃねぇや」
そんな雑談をしながら時間をつぶすと、ふいに遠くから地響きが聞こえた。
「あぁ、ポメリィさんがんばってるな」
音がした方向に顔をむけ、俺はボソリと呟く。
「おかげさまで、かなり助かってるぜ。
まぁ、それでも色々と厳しいんだがな」
彼女が何をしているかというと、魔物の討伐だ。
先日の襲撃で、むこうの町の守護女神とやらがいたのは覚えているだろうか。
その女神からの報復で、この町の周辺に大量のモンスターが沸いているのだ。
だいたい、事の始まりはお前らがひとのところのお姫さまさらった上に街に火をつけたからだろうが……なんとも理不尽である。
ただ、その報復は確実に俺たちにダメージを与えていた。
なんでも、ただでさえ森が消えたことで足が遠のいていた商人たちが、さらにこの町を敬遠するようになっているらしい。
このままでは町の復興に必要な物資が確実に足りなくなるだろう。
そんなわけで、すこしでも状況をよくしようとポメリィさんがモンスターを駆逐しているのだが、彼女がやると地形が変わりかねない。
なので、彼女に気のあるジスベアードに話をつけて、彼女が街道をぶっ壊さないように見張らせていた。
……のだが、その目論見は一日で費える。
ジスベアード曰く、命は惜しいとの事だ。
それでもまだポメリィさんのことを諦めていないらしく、こいつもなかなか根性のあるよな。
ただ、いろいろと迷惑なので、そろそろ智の神に相談しようかと思っている。
まぁ、向こうは俺が何も言わなくても全てを察しているんじゃないかと思うが。
「おい、トシキ。
そろそろ屋敷につくぞ」
ジスベアードに話しかけられて、俺はハッと我にかえる。
気が付くと、馬車はすでに止まっていた。
おっと、いつのまにか物思いにふけってしまっていたか。
「さて、お姫様がお待ちだぞ」
「わかった。 俺が到着したことを知らせてくれ」
さて、今日はどんな話が聞けるのやら。
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