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9章 魔法少女と天空の城
264話 魔法少女は駆け抜ける
しおりを挟む「ひゃっはぁー!」
「立たないでくれない?」
黒髪ボブの軍服少女こと百合乃が、両手を上げてピンクバイクの上に立ち上がる。凄い平衡感覚だ。
車上戦闘がとてつもなく苦手と知ってから翌日、それ以降はなんとか私の魔法を駆使して討伐していった。ちなみに、その死体全ては収納へと送られる。
あの時は百合乃が邪魔でステッキが取り出せなかったり、そもそも焦ってそこまで頭が回ってなかったりで散々だったよ。
まぁ、今も今で大変なんだけどね。
そんな風にここ最近のことを振り返っていると、茂みからわしゃっとダチョウみたいなのが現れる。
「汚物は消毒です?」
「さっきからどこの世紀末?」
どこかのモブモヒカンの姿を浮かべつつ、冷静なツッコミを繰り出す。
「いや、火魔法使いましょうってことですけど。空、まさか勘違いを……」
「黙ろうか?」
「うぶぅっ!」
急カーブで魔物を避け、咄嗟に横に突き出したステッキでファイヤーアサークルを生み出し、丸焦げなんて生優しく見えるほどの業火で焼き尽くされる。
これはただ避けただけだよ?
ちなみに、核石回収は少しだけ上達した重力操作でなんとか引き寄せてる。
一定距離以上離れると無理だけど。まぁ、そこはなんとかしてるよ。
「あー、今日の晩御飯がー!」
「いつ私達のご飯は道端の魔物になったの?」
「だって空、肉作れないじゃん。わたしも肉食べたいです。」
にーく、にーく!と肉肉コールを始め、頭上でリズム良くパンパン手を叩く。これが結構耳障り。
「干し肉でも食べればいいじゃん。」
「新鮮な肉が食べたいんです。分かりません?この、わたしのキ・モ・チ。」
「あー、うん。分かった。じゃあこれから百合乃は自分の肉でも食べようか。あぁ、肉はいくらでもヒールで生まれてくるから、安心して?」
「そ、空がサイコパスに……」
私の腰を持つ手が震え出す百合乃。このままそっと手を離してほしい。
そもそも冗談なのに、何本気にしてるんだろうね。え?私ならやりかねないって?
私の信頼って薄くない?
「ところでなんですけど、神というくらいなんだから試練とかってあるんです?」
「いきなり話変わりすぎじゃ?」
「気にしない気にしない。ででっ、答えはどうです?」
離れるどころか、私の肩に頭を乗っけて聞いてくる。百合が見たら「ご馳走様です」案件だ。
「知らないよ。そんなの神に聞いて。」
「空がそっけな~い!」
百合乃がブーブー言っていているおかげで、特に暇になるわけでもなくバイクを走らせる。
「空~、わたしにも運転させてくれません?」
「無理。」
「なんでです?確かそれ、魔力を注げば自動循環じゃなかったんです?」
怪訝そうに私を見てくる。真横から。
百合乃はいつになったら人の話を聞いてくれるんだろうね。
ほんとに、安全乗車してほしい。
脳内でそう文句を垂れていると、ハンドルをググーッと伸ばした手で触ってこようとする。
「邪魔。」
「いてっ。」
手に軽くチョップを入れ、迫り来る手をどかす。
「スピード調節とか急ブレーキとか、魔力操作できないと無理だから。あと、百合乃が前にいられると普通に邪魔。」
「あ、はい。知ってました。」
悲しそうなオーラと共に手を引っ込め、周りをキョロキョロと見回し始める。
「なんか薄暗くなりましたね……」
「結局黙りはしないのね。」
8月21日
何があっても百合乃は百合乃だと思った。
小学校の日記みたいに綴り、脳内ノートに貼り付ける。1番隅っこの、目立たないところに。
「確かに暗くなってきたね。まだ時間的には昼なはずなのに……」
不思議に思い、情報を確認する。
こっちの方だっけ……あ、この辺ね。
あー、森が近いのか。鬱屈としてそう……定番の迷いの森系かな?
それとも……
キュルルルゥ~。
「お肉、ありません?」
「百合乃って肉好きだっけ。」
百合乃からお腹の音が聞こえ、それと同時に両手の側面をくっつける。
「いやあげないよ?」
「どうしてです?いじめです?いじめですね!いいです、空がやるならもっとください!」
「降ろすよ?」
「ズボンを?」
「ん?」
さすがの私も、真後ろにいる人の狙いを違えることはない。ヒヤリと緊張感を持つ金属の塊こと、銃が百合乃の額に現れる。
「あ……は、ははは……」
スッと後ろに逃げ、その先には逆さ持ちされたステッキが待ち構えている。右手は後ろ、左手は横。ノーハンド運転。
「あ、あの?運転しません?危ないです……よ?」
「大丈夫。遠隔操作は魔導法でできるから。」
「えっと、その。すみません。」
百合乃の冷めた声の謝罪が聞こえてきて、やり過ぎかなと少し自覚しつつ、情報にあった森のすぐ手前でブレーキを踏む。
私もお腹減ったし、まぁこの辺で昼休憩にしますかね。
百合乃が危なそうだし。
若干別のことに不安を抱き、地面に焚き火(ただの魔力の塊に火をつけただけのもの)を生み出して収納されていた肉を刺す。
「え、どうしたんです?」
「昼休憩。お腹減ってるんでしょ。こんな肉しかないけど、無いよりはマシでしょ。」
「空……やっぱり好きです!」
「危なっ、火あるんだから飛びついてこないで。」
「尊値を補給してるんです。」
「……」
すりすりと肩に頬擦りをする百合乃を尻目に、肉を頬張る。下味付きで収納してるため、結構おいしい。
カレーに使った適当なスパイスが効いてるね。これは米が欲しくなるけど……
「はぁ。米も作れればいいのに。」
誰にも聞こえない声で呟く。
まったく、神を相手にするっていうのに、なんでこんなに気が抜けるんだろう。
これも百合乃パワーかな。
今も「んふふー」と頬を赤く染めて抱きつく幼児の頭に手をトントンし、肉を頬張る。
側から見たら情報量のオンパレードだね。
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……次回からはちゃんと書きます。
応援ありがとうございます!
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