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12章 魔法少女と学園生活

371話 魔法少女と着任式

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 私は今、学長室にいる。
 何故かって?それは……

「みなさん、長期休暇の熱に浮かされてはいませんか?今日からも、今まで通りに厳しい授業となるでしょうが、より一層励むよう。」
サファイアのように輝く髪を持ち、それに似合った透き通る声を放つのはこの学園の長、学長だ。私達教師より少し良い格好をしている。

 今は日本で言う始業式、その学長のお言葉の最中。これだけはどの部でも同じらしい。今、ネルも聞いてると思う。

 それは関係ない!いやある!

 心で葛藤が起こる。逃げたい。

 まずこの学園、設備が整ってるのはもちろん。その中でも魔道具はすごい量だ。これのおかげで不自由なく学園生活を送れる。近代化も夢じゃない!
 そのお陰で、リモート挨拶ができる。

 魔導具を繋げることにより、ペア同士の魔道具に景色を投影し音を流すという現代的な発明品だ。なんと便利なことだろう。
 つまり、私の着任式もどきがネルに見られるということ。

 身内に恥を晒す行為を今からしろと?

 黒色のスカートの端を掴み、今すぐブローチを外して床に投げつけたい気持ちを抑え、深呼吸をする。

「———では、次のお知らせを。特別講師として、アングランド国王陛下から推薦。現役冒険者にして魔術師であるソラ講師だ。今日から高等部2年B室にて特別授業を今期一杯担当してもらう。以上。では、前へ出て自己紹介を。」
呼ばれ、学長が一瞥をくれた。肩がビクッと跳ね、緊張した様子を見て肩を竦めた。そして静かに、「肩の力を抜いてください。こういうのは、下に見る程度でちょうどいい」と耳打ちをされた。

 ここまでお膳立てされたんなら、行かなきゃ私じゃないよね。乗りかかった船だし、最後まで揺られてやりますよ。

『お、私らしからぬ発言』
ネルを前にカッコつけようとした私に、追い打ちをかけた私を恨めしく思った。

—————————

 前提だが、アングランド学園の生徒数はこの世界の中でもトップクラスだ。その分とてつもない数の中退者が現れるが、それでも多い。
 何故ならば途中入学が厳しいだけで、初めから入るのは簡単だからだ。

 金とある程度の地位や能力があれば良い。
 それだけで人生に箔をつけられるのだから、入学者は多い。

 そのために学園の卒業時までの在学数は卒業に近づくにつれ狭くなり、見事に三角形が形成される。

 中等部の人数は合計413名。1教室あたり50名程度、8教室。学園全体の人数は2369名。

 内、初等部までに1300強、残りが高等部以上。

 勉学に励む余裕のないはずの異世界でこの数字は、なかなかの数字だろう。

 そして。
 中等部1年、D室にて。

 教室内にはざわめきが走った。その中でも毅然に振る舞っている少女が際立つ。

 白髪スカイブルーの瞳の少女と、燃えるような赤と橙色のメッシュの入った少女。
 フェルネールとセリアスだった。

 投影用魔導具の画面に映っているのは、まだ少女とも言える年齢の少女だった。
 しかし2人は知っている。彼女の名もその能力も。

『えー……ご紹介に預かった通り、現役冒険者をしているソラです。見た目が非力そうだからって舐めてかかると、骨の1、2本は覚悟してもらうことになるから、そこのところはよろしく。えぇ……っと、それとB室の担当になったわけだけど、他の部の人も声かけてもらえれば嬉しいかな』
なんとも気の抜けた声だった。学長の挨拶の緊張感がまるで嘘のように消え去り、「なんだこの人は?」「先生?そんなわけないでしょ?」など嘲笑の声もちらほらと。

 ネルも、彼女の正体を知っているが……

(何故ソラさんがあそこにっ!?)

 もちろんここにいることなど、この瞬間まで終ぞ知らなかった。驚きはあった、が。この程度で驚いていては身が持たないことは自身が証明してくれる。

 ここまで飛躍的にネルが成長したのは、魔法少女の活躍なしにはあり得なかった。

 街にすら出歩くことが少なかった少女が、自身の足で街に向かい、領民をその目に収めることがどれほど刺激を与えたか。
 自身より弱い人間を常に置くことにより、守らなければならないという庇護欲を掻き立てたことが、どれだけ促進を与えたか。
 魔物を目にすることが、討伐する瞬間を見届けることが、どれほど精神を鍛えたか。

 内面に押し留め、ネルは瑠璃色の少女を見つめた。

「ネル様?あんな方ご存知ですか?わたくしはあのような方ご存知ありませんの。まったく、誰があんな子供を……ふふっ。」
隣の席の少女が笑った。初等部から通う、領主の娘か。あって子爵。取り入ろうと必死なことだ。

 藪蛇であることにも気づかず、お上品に笑いをこぼす姿を見て、ため息をひとつ。

「人は見かけで判断するものではないですよ。」
「えぇ、まったくもってその通り。貴方は、お父様。いえ、国王陛下のご決断を愚行と罵るおつもりですか?」

「いっ、いえ!申し訳ありません……」
途中参戦でありながら、有効打を打ち黙らせた。少女は見計らったかのように言葉を続けた。

『とりあえず。どう思うかは自由ですけど、それをさも事実のように振りかざすのはやめた方がいい。間違った情報ほど危ないものはないからね。まぁ……以上かな』
小さな声で学長に助けを乞うていた。それが更に陰口の助長となったが、逆にネルは安心感を抱いた。

(あぁ、ソラさんはいつも通りのソラさんです。私の知ってる、いつもは面倒がるくせに、物怖じしないかっこいい姿)

 笑みが溢れる。隣のセリアスも、彼女に期待の目を向けていた。

—————————

 一方魔法少女は、この裏でそんな話があるなど露知らず、ようやく終わった挨拶を全て吹き飛ばすように深い息を吐いた。

「ソラ、中々尖った挨拶でしたね。とてもユニークだ。」
「……それ、褒めてるんでしょうか?」
「あら、そう聞こえた?」
魔導具の魔力供給を切断したらしき学長は、薄く微笑んだ。童顔なはずなのに、どこか妖艶さが醸し出される。

「舐められないように、って言われたのでできるだけ好戦的にしたんですけど、悪かったですか?」
「えぇ。とても。」
「酷いっ!?」
言葉のナイフは避けられない。つまり深々と刺さった。

「舐められるな、とは言いましたがね。この学園に相応しい態度で、ということ。貴方のそれは、プライドの高い我が学園の生徒らには十分な宣戦布告といえましょう。」
「……つまり?」
「———ということ。」
「終わった……」
頭を抱え込んだ。舐められないつもりが、逆に反抗させる理由を作ってしまった事実に項垂れる。

 やばい……冒険者が板についてきてる。
 冒険者の『力こそパワー!』な思考に私が引っ張られてる……!

 新しいギルドに行くごとに舐められて吹き飛ばした記憶が脳裏に巡る。
 私の行為は、もう世紀末冒険者とそう変わらない。売られた喧嘩を買ってるだけなのに、その感覚が染み付いてきてる。

「では、改めて紹介に行きましょう?ソラ。2年B室には、すでにアーネールさんが朝礼を始めているはずでしょう。さぁソラ、先日紹介された教室へ。分からなければ、案内しますよ?」
童顔の圧がすごい。有無を言わさぬ迫力を感じ、「はぃ……」と薄い返事をして学長室を出た。

 舐められないって、こういうことかぁ……

『空は、学長から威嚇を教わった!』

 うるさい。

 仕方なく、仕方なーく、2年B室へと足を運んだ。いつもの冒険者ギルドのような反発が目に見えている。
 なので即室内全員の人間が襲ってきても良いように構えておく。

 何かいいスキル募集~!

『重力操作が無難じゃない?まぁ緻密な操作と言われたら私達フル活用と魔力が必要だけど』

 確かに。

『身体激化で無理矢理?』

 殺す気?

『ラノスを持って強盗の真似事』

 え?いきなり私を犯罪者にする気?

『教室炎上』

 なに?みんなして私を牢屋にぶち込ませたいの?

 いい案が浮かばないのに反し、教室は近づいてくる。あとこの廊下を渡ったら教室がある事実に、ため息を吐いた。

———————————————————————

 そりゃそうですよね。豪商の子供や貴族を中心とした金持ち&天才が集まってる学園に冒険者を名乗る小娘が高圧的な態度で自己紹介してるんですもん。

 舐める舐めない以前に反感を買うのは当然。
 つまりそういうことです。

 貴族といえば、お嬢様。お嬢様口調といえば「ですわ!」。「ですわ!」と言うようなお嬢様は高慢そう。そんなお嬢様といえば、金髪。金髪お嬢様といえば縦ロール。そうツインドリル。

 つまり。
 お嬢様+「ですわ!」+金髪=ツインドリル
 ということです!
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