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17章 魔法少女と四国大戦

567話 肩を並べて、酌を一つ

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 軍服を纏った少女、青柳百合乃は、魔法少女をお姫様抱っこの要領で持ち上げながら帰路を辿っていた。
 彼女の体はボロボロで、自慢のローブもほとんどボロ布と化していた。

 初めは膝枕にしようと思ったが、やはり、ここはベッドで寝かせてあげたかった。
 ここまで身を粉にして働いてくれた魔法少女に、気を遣ってさえくれた彼女に、何か少しでも恩を返したかった。

 そもそも、命の恩人であり初恋の魔法少女の痛ましい様を見て膝枕なんて妄言は吐けない。これはいつものお遊びではないのだ。

 人の気配が感じられぬ森の中を、異様な2人は通っていく。
 起きないように慎重に運んでいた結果、暗闇の空の中に薄らとした明るさが生まれ始めた。同じ暗闇でも、明るさを感じる。

「もう、こんな時間です?」
遠くに見える高い壁を目印に、もう1度歩き出した。


 着いた時には、死臭と嫌な気配が漂っていた。出来るだけ、他者と会わないようにしていたつもりだが、それでも臭う。
 ここはイグルか。目印はないが、なんとなくそう思った。

 本来なら魔法少女が言うべきセリフだろうが、今はそんなことは言っていられない。魔法少女のために、百合乃は声を張り上げた。
 それと同時に、魔法少女のポケットに入っていた通信器具の個人ではなく全体放送のスイッチも入れる。

「みなさん聴いてください!戦争はもう終わりました!1人の勇敢な魔法少女が、皇帝ディティー・ヘルベリスタを討ち取りました!帝国軍は今すぐ撤退か、捕虜になるかの選択を願います!」
自身の喉が壊れる覚悟で、出せる限りの音量を絞り出した。

「繰り返します!ディティー・ヘルベリスタは、討ち取りました!証拠として、こちらに彼女の剣とティアラを所持しています!今すぐ撤退か、捕虜として捕えられるかを選択してください!」
百合乃は一心不乱に、腹から叫ぶ。最後は咳き込んでしまい、締まらなかったが、それでも言うべきことは言った。

 この戦争は終わったのだ。

「誰か、空の手当てをお願いします。それと、静かなところで寝かせてあげてください。」
大声を出し過ぎて、枯れた喉で口にした。今の叫びは、少し彼女に悪かったかもしれない。

「何があった!」
イグルの西門から走ってくる人影につられ、百合乃は振り返る。

「総騎士長さん……」
「お嬢さんは…………いや、いい。今の放送は……いや、これも違うな。」
総騎士長は、何度も何かを言おうとして、何度も口を噤んだ。最後に、通信機を手に持った。

「反撃の意思を見せる者は容赦なく殺せ。敵意のない者は捕虜とし、隔離しろ。これが最後の命令だ。我々は、勝利したのだ。」
ブツっと通信を切った。

「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
続いて、大歓声。辺りにいる者は、全て歓喜の声を隠さず上げた。

「今は、察しておこう。全てはソラが起きた時にでも話そう。今は、落ち着くまで様子を見るのが1番だ。」
「そう、ですね……」
百合乃は、この喧騒の波から逃げるように村の外れの村長(仮)の家へ向かうのだった。

—————————

 あの突然の放送の後、6つの戦の姿は激変させた。

 終戦の流れは巨大なうねりとなってその姿を変容させる。

 初めは王国が嘘を騙っていると、逆に奮起し始めた。しかし、冷静になって考えてみるとどうだ。
 王国が好き勝手しているというのに、肝心の皇帝はなぜ姿を見せない。なぜ否定しない。

 次第に、現実味を帯びてきた。

 王国が作れる程度の通信機を、帝国が所有していないわけがない。各自に支給されたその道具を用いて帝国に連絡を繋げようとしても、誰にも繋がらない。

 なぜなら、帝国では今、魑魅魍魎が街を這いずっている。そして、民間からの通報や文句が鳴り止むことなく鳴り続け、現代でいう回線落ちというものが発生していた。

 さらに、混乱は膨張していく。

「降伏しろ!さもなくば、容赦なくその首を斬り落とす!」
各戦線に数名派遣されている《高位騎士ハイナイト》の特級正騎士が現場リーダーを務め、彼ら中心に捕縛を始めた。

 その言葉はさらにこの非現実に現実という漆喰を塗っていった。

 いくら人体実験を施した人間だからといって、混乱が広がって仕舞えば統率もなにもない雑兵に成り下がるを
 こんなものは嘘だと、撤退を促す者もいれば、八つ当たりのように剣を振るう者もいる。

 皇帝陛下に絶対の服従を示す彼ら騎士は、捕虜の辱めは受けぬという意志を示した。

 割合で言えば、6割撤退2割自害2割特攻といった様子だ。
 士気が爆上がりしている王国に、そんな2割程度の騎士に負けるはずもなく、帝国軍はあっという間に制圧され始めていた。

 勝利が確定した今、憚ることは何もなく突撃できているのも大きい。勝つか負けるかの不安の最中戦うのより、よっぽど心が晴れやかだ。
 これはもう、勝つ戦なのだ。

 撤退組は2割弱ほどしか討つことはできなかったが、深追いして無駄な犠牲を出す必要もない。

 残った4割強の騎士は、帝国へ帰っていく。しかし、そこには地獄しかないだろう。
 徘徊する化け物、帝国と皇帝に非難を始める国民。皇帝はこの世にいない。騎士らは敗戦し逃げ帰ってきた。

 王国が手を入れなくとも、十二分に瓦解する。

 王国軍の死亡者は全体の約4割。
 帝国は約8割が死亡した。土地や民間人に大きな被害はなく(帝国では多少あるが)、王国は勝利を手にした。

 グランド・レイト王国及びラミア合衆国vsヘルベリスタ帝国及びアズリア神国の国を巡った大戦に、王国が勝利したという号外は、後に大陸中に広がることとなった。


 示し合わせたわけではないが、皆、各村にある食材を持ち寄りイグルに集っていた。
 酒はない。代わりに、互いに水を注ぎあって飲み明かす。

 魔法少女が意識を取り戻した後、帝国に最後の一打を与えるためにもう一働きする必要はあるが、彼ら騎士には関係のない話だ。

「オンオフが激しいな……」
それに混ざれないのが、蓮。

 気まずそうに、作られる料理を肴に水を飲み干す。存外乾いていたようで、喉は潤う。

「ぼっちとか寂しくないの?」
とてとてと寄ってくるのは、エインミール。

「テメェもだろうが。」
「ぼっちも寄れば脱ぼっち。だからぼっちじゃないの。」
両手で握ったコップを呷る。新卒で初めて参加した会社の飲み会のような飲み方。

「大統領の言う通りだったの。」
「なにがだよ。」
「今まで、帝国や皇帝は次元の違う化け物だと思っていたけれど、違ったの。大統領は、アレも人間だと言っていたの。」
「人間なぁ。」
現場にいなかった蓮は、あまり実感の湧かない。どこか手持ち無沙汰で、沈み始めた月を見た。

「ま、実際あんな暴動起こさせてるんだから、レベチなのは確かだな。」
空になったコップを手のひらで転がして言った。

 魔法少女はそれを打破したのだから、本当に凄い。癪だが、アレにはステータス以外では勝てる気がしない。

「これが終わりになるといいけれど、戦争はまだ終わらないの。」
「もう終わってんだろ。」
「終わらないの。戦争は続くの。」
蓮と同じく空を見た。

「この地面を果てしなく覆う、鮮やかな空ができるもっと前から、世界はあるの。それだけ長い時間世界はあって、争って争って、そして今がある。」
「だから、どうした?」
エインミールは少し黙って、また口を開いた。

「もう、争いはいらないと思ったの。それだけ。」
2人の声は、終戦の喧騒の中には残らずにかき消されていった。

———————————————————————

 帝国は完全なる独裁政治をとっているので、司令塔であり全てであり、神のような存在の皇帝が死亡した場合それが意図として自決するよう教育されています。
 ちなみにこれはディティーの仕業ではなく、風潮的なやつです。やめられない止まらないです。

 廃止しなかった理由は、負けることがまずないからでしょうね。

 一切に自決する姿。皆さん中学校でやるであろう万歳クリフを思い出しますね。え、やりますよね?信じてますよ?
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