きまぐれ推敲ねこ俳句

小戸エビス

文字の大きさ
12 / 50

愛猫よ未明に起こすか夏至にさえ

しおりを挟む
 あいびょうよ みめいにおこすか げしにさえ

 うちの猫は毎朝、早くに妻を起こします。手足を叩いたり、顔に鼻息を掛けたりと、様々な方法で。そして、それでも起きないと甘噛みしてくるのだとか。それが、いつも午前4時半ごろとのこと。
 ちなみに、なぜ妻だけ起こすのかというと、猫が何をしても私が起きないからだそうで。どうやら、私の鈍感力が犠牲を生んでしまっているようです。
 そんなわけで、妻に報いる意味も込めて、句を作ることにしました。

 その際、最初に浮かんだ形は、「甘噛みの猫に起こされ初日の出」。しかし、冬の日の出は時間が遅い。そこで、一年で一番日の出が早い「夏至」を使うことにしました。その中でできた候補作と、その候補作を見て浮かんできた課題が、次の通り。

 夏至の朝猫が起こすは日の出前
 猫の甘噛みに夏至の日の出を知る
 猫の「かまって」に夏至の日の出を知る
 猫の甘噛み夏至の日の出より早く
 猫起こす夏至の日の出より先に
 猫起こす夏至の日の出に先んじて
 今日は夏至猫が起こすは日の出前
 日の出前猫に起こされ今日は夏至
 日の出前甘噛む猫よ今日は夏至
 日の出前足噛む猫よ今日は夏至
 日の出前噛み起こす猫よ今日は夏至
 日の出前甘く噛む猫よ今日は夏至
 日の出前浅く噛む猫よ今日は夏至
 日の出前戯れ付く猫よ今日は夏至
 愛猫よ未明は寝かせて夏至くらい
 今日は夏至未明は寝かせて愛猫よ
 猫が起こす日の出前今日は夏至
 日の出前猫よ起こすな今日は夏至
 日の出前猫よ起こすな夏至くらい
 「起きて」と猫夏至でも日の出より早く

 最初に見えた課題は、季語の入れ方を間違うと特定の時期にしか起こらない出来事のようになってしまう、ということでした。「夏至の朝」の形がその失敗例。これだと、夏至の日だけなぜか猫が起こしに来てくれた、という状況にも見えてしまいます。今までも何度かあったパターンですが、季節を問わずに起こる出来事に季語を結び付けて俳句にする場合、こういうことが起こります。
 こういう場合は、いつものことだけど今の季節は特に影響が大きい、という話に持っていければ解決です。「夏至の日の出を知る」は、この観点から考え出したものです。夏至の日の出ってよほど早起きでないと見れないけれど、猫はそこまで早起きにさせるのか、という意味合いで。この表現は自分の中では気に入っていたのですが、直感的に分かりにくいのと、音数の関係からどうしても破調になってしまうのが難点。
 これを五・七・五にしようと考えて作ったのが、5番目と6番目の、「猫起こす」の形。ただ、これだと、早くに起こされて辛い、という心情が見えにくくなってしまいます。日の出前に起きるのを趣味にしている人なら喜ぶでしょうし。7番目にも同様の問題があります。
 ただ、その7番目で出てきた「今日は夏至」は、使いやすい言葉でした。5音なので、上の句にも下の句にも入ります。それを使った形の中でも特に、「日の出前甘噛む猫よ今日は夏至」は気に入っていました。が、よく調べてみると、「甘噛む」という日本語は成立しないのです。このため、その後しばらく、「甘噛む」に替わる言葉の模索で苦しむことに。苦しんだ理由は、「甘」に替わるちょうど2音の言葉が見つからなかったから。「浅く」が近いのですが、これだと中の句が「浅く噛む猫よ」で字余りになってしまいます。「よ」を除くと三段切れになってしまうので、それもできない。
 そうやって悩んでいる中、ふと気づきます。「噛む」「じゃれる」「起こす」のうち、どれか1つがあれば言いたいことは表現できる、と。そこで、一旦、「噛む」から離れることにしました。すると、「寝かせて」でも良いことに気づきます。
 その一方で、前々から浮かんでいた「未明」という言葉も試してみることにしました。思いついてはいたのですが、会話でまず使わない言葉なので、憚られていたのです。
 こうしてできたのが、「愛猫よ未明は寝かせて夏至くらい」の形。あとは、この形から色々といじって、今の「愛猫よ未明に起こすか夏至にさえ」に至ったという次第です。
 
 後から振り返ってみると、「噛む」に囚われすぎて回り道していたように感じます。こうした、無意識に生じている拘束に気付くことが大事なことなのかも。
 猫に起こされることが出発点の割に、妙にまじめな考察になってしまいましたが。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

処理中です...