きまぐれ推敲ねこ俳句

小戸エビス

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子猫が旅立った草むらに蒲公英

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 こねこがたびだったくさむらに たんぽぽ

 近所の草むらに子猫が住んでいたことがありました。そのことを思い返して詠んだ句です。

 その猫は人が苦手なようで、草むらでは通りに背を向けてうずくまっていました。人通りの多い道だったこともあり、居心地が悪かったのかもしれません。
 見つけてから3か月も経つころには、見かけなくなっていました。
 今でも、その草むらを見ると、ときどき、その猫のことを思い出します。どんな形であれ、しっかり生きていてくれたら良いな、と。

 この句、最初の形は、「猫が住んでいた草叢にたんぽぽ」というものでした。先に「草叢に」までの13音が浮かび、そこから、季語を含む言葉を加えれば形になる、と考えて作ったものです。「住んでいた」なので、今はいないということも含意できます。
 加える言葉として「たんぽぽ」を選んだのは、移り住んだ先で根付くという印象があるから。
 その後、「住んで」を削っても意味は変わらないことに気づき、この3音で工夫した形を考えました。それが、次の形。

 三毛猫がいた草叢にたんぽぽ
 流れ星子猫が住んでた草むらに
 子猫がいた草むらにたんぽぽひそり
 子猫がいた草叢に蒲公英ひそり
 白い猫がいた草叢にたんぽぽ
 ひそりと猫がいた草叢にたんぽぽ
 草むらに白い猫蒲公英ひそり
 草むらに猫と蒲公英ひそやかに
 猫が隠れていた草むらに蒲公英
 白い猫がいた草むらに蒲公英
 さき猫がいた草むらに蒲公英

 2番目の「流れ星」で始まる形は、草花以外の季語も試してみようと思ってのことです。が、試しに「流れ星」を入れたら故人(?)を偲ぶような印象になってしまったことから、やはり「たんぽぽ」しかないと判断。
 この2番目と一番下の「小さき猫」の形以外の9つが、「住んで」を削った3音で工夫をしたものです。が、「住んで」の代わりとして浮かんだ言葉の選択肢はあまり多くありませんでした。しかも、「三毛」の情報はあまり重要ではなく、「隠れて」「ひそやか」は句全体の印象が変わってしまう。
 残った「白い」と「ひそり」のうち、「白い」ならばたんぽぽの花ではなく綿毛のほうを連想しやすい、という理由から、一旦は「白い」に決定。そして、「蒲公英」と漢字にしたほうが猫が力強く生きていてくれているような気がしたので、漢字に。
 「小さき猫」は、「子猫」の形を振り返ってできたものです。このとき、「小さき」と、力強さを表す「蒲公英」が対比される形になることに気づきました。
 そこから、「小さき猫」を「子猫」に変え、余った2音で工夫したのが、今の「子猫が旅立った草むらに蒲公英」の形。「旅立った」を選んだのは、今はいないということがより明確になるためと、「旅」という言葉に成長の要素があるためです。

 ……という流れで推敲していたのですが、実はここには、変な勘違いからの迷走が含まれています。
 季語が複数ある句でそれぞれの季語が異なる季節を表していた場合、句が表す情景に矛盾が生じてしまいます。そして、「子猫」と「たんぽぽ」は、どちらも季語。
 ここで、両者は共に春の季語なので問題にならない、と思ったのが最初の勘違いでした。この勘違いで作ったのが、「子猫がいた」で始まる2つの形。
 何が勘違いかというと、春という大きな括りで見てしまった点です。細かく分けると晩春と仲春の違いがあります。その後しばらく「子猫」を使わなかったのは、この点を気にしたからでした。そして、「小さき猫」が浮かんだのも、この点を避けるため。
 ですが、このとき、もっと根本的な勘違いをしていました。「子猫」は過去の存在として登場しているので、季節の違いは問題にならないのです。さらに、後で気付いたのですが、子猫かたんぽぽどちらかの時季がずれて同時に成立する可能性もあったわけで。
 こうして、「小さき猫」を「子猫」に変える余地が出てきた、というわけです。

 ともあれ、勘違いが功を奏して今の形に至ったわけですが……件の猫に呆れられそうなオチになってしまいました。
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