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風鈴や猫床にごろりL字型
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ふうりんや ねこゆかにごろり えるじがた
今回は、見たまんまを描写した句になります。
動物は弱点であるお腹を見せたがらない、なんてことをときどき聞きますが、家で飼われている動物はそうでもなく、割と頻繁に仰向けの姿を見せてくれます。そしてその頻度が特に多いのが、夏。
おそらく、暑いのでお腹を冷やしたいんでしょうね。冷たい床もずっと寝ていると自分の体温で暖まって来るので、仰向けになって空気中に放熱する、と。
そして、猫が仰向けになるとき、しばしば、脇あたりの部分で体を90度横に曲げ、胴体と首が直角になるL字型を見せてくれます。そして前肢の先はちょこんと丸まっていて招き猫状態。肉球を隠しているとも言えますが。あとときどき、片方の前肢をぴんと伸ばして仮面ライダーの変身ポーズ(初代)みたいな格好になることもあります。
前肢はともかく胴体を直角に曲げているのは、真直ぐに寝ると全身が円柱状になって転がってしまうからなのでしょうか。いつもいつも、よくこんなに曲がるものだと体の柔らかさに感心します。
ちなみに近くに壁があると何故か壁に肉球を触れさせるように寝転がるもので……何かあったら壁を蹴ってスライド移動できるようにしているのでしょうか。後肢が両方とも触れているときなどは、膝にばねの力が溜まっているようにも見えます。
さて、俳句作りのほうはというと、最初はこの形でした。
夏の床猫は仰向けL字型
そして、ここから推敲していった過程でできたのが、次のもの。
夏の床腹見せる猫はL字型
腹見せる猫はL字の夏の床
仰向けの猫はL字か夏の床
腹見せる猫はL字か夏の床
夏の床猫は腹見せL字型
夏の床猫はごろりとL字型
猫ごろりL字に仰向け夏の床
冷房を腹で受く猫L字型
冷房に猫はごろりとL字型
冷房や猫はごろりとL字型
言いたいことはひとまず言えてしまっていたので、変化できるところを変化させて並べてみたわけです。
この中から選ぶならば「夏の床猫はごろりとL字型」なのですが……最初と今とであまり変わってないんですよね。
そして、なんだか面白みに欠けるというか、内容が乏しいような気も。猫が仰向けに寝転がってましたよ、と言うことくらいしか言えてないのです。夏という季節もあまり活きてない。
とはいえ、情景を描写する言葉としてはこれ以上変えようがないのも事実。
そこで、他の要素を加えられないか、と考えました。情景自体が単純なら、それと相性の良い別の要素を加えてしまえばよいのです。
とはいえ、要素を増やすならば言葉を削らなければ入りきらないわけで、これがなかなか難儀。
そんな中、「風鈴」を使うことを思いつきます。ちょうど夏の季語ですし、屋内にいることも表せます。しかも猫が寝転んでいるので床であることは当たり前。つまり、「夏」「床」の言葉が不要になります。
なので、ひとまず、次の形を並べてみました。
風鈴や猫は仰向けL字型
風鈴や腹見せる猫L字型
風鈴や猫は腹見せL字型
風鈴や猫はごろりとL字型
これらを自分で書いている間に、床で仰向けになっている猫を眺めていたら自分の後ろ上方から風鈴の音が聞こえてきた、という情景が浮かびました。この情景ならば、視線は下に、聴覚は上にという立体感があります。
そこでこの立体感を強調できないか、と挑戦し、次の形を作ってみました。
風鈴や床では猫がL字型
風鈴や床には猫が仰向けに
風鈴や床では猫がL字型
風鈴や床には猫が仰向けに
仰向けの猫の腹見れば風鈴
風鈴や猫のL字に眠る腹
仰向けの猫はL字か風鈴鳴る
床の猫にL字を見れば風鈴鳴る
前に削った「床」を再び登場させた形です。猫はキャットタワーなどの高い場所で寝ることもあるので、はっきり「床」と書きました。
こうすることで、やはり「床」はあったほうが良いと気付きます。
そして同時に、課題もいくつか見えてきました。
まず、「L字型」だけだと何のことか分かりにくい。なので猫が仰向けなのだという情報を入れる必要があるけれど、「仰向け」そのままだと音数が足りない。これを「腹」で言い表しても若干分かりにくい。
また、思い描いた情景では猫を見ているほうが先なのに、句では風鈴のほうが先に登場している。けれど「風鈴」を下の句に持ってくると音数の収まりが悪い。4音の字足らずより6音の字余りのほうがリズムは良いけれどそのために「鳴る」を入れるのは言葉の無駄(風鈴は鳴るものなので「鳴る」はいらない)。
これらの課題のうち、「仰向け」に関しては、以前別の句で使った「ごろり」を使うことと、助詞の調整によって解決しました。一方、「風鈴」を後に持ってくることについては断念。風鈴の音が聞こえる中、猫が床に仰向けになっていた、という情景で描くことにしました。もともとL字型で寝ている猫が主役なわけですからね。
そこでできた形がこちら。
風鈴や猫床にごろりL字型
なんとか言いたいことを中の句字余りで収めることができました。
そしてさらにもう一か所変えてみました。
風鈴や床に猫ごろりL字型
語順です。「床に」と「猫」の順序を入れ替え。
この意図は、動作の主体(「猫」)と動作を現す言葉(「ごろり」)はなるべく近い位置に置くということと、上にある「風鈴」と下にある「床」を連続させて立体感を際立たせる、というものでした。近い位置に並べるという語順選びのセオリーに従った形です。
……が、実際にやってみると、あんまりパッとしない句になってしまった感じに。理論通りにやった結果が直感的におかしなものになるのはままあることで、今回はそのパターンでした。
そもそも、猫が主役の句なので猫を目立つ位置の置いたほうがしっくりくるわけで。
そんなわけで、今の「風鈴や猫床にごろりL字型」に落ち着きました。
セオリーは大事、ですが、実際にやって結果を確認するのも大事ですね。これもまたセオリーなのでしょうが……
今回は、見たまんまを描写した句になります。
動物は弱点であるお腹を見せたがらない、なんてことをときどき聞きますが、家で飼われている動物はそうでもなく、割と頻繁に仰向けの姿を見せてくれます。そしてその頻度が特に多いのが、夏。
おそらく、暑いのでお腹を冷やしたいんでしょうね。冷たい床もずっと寝ていると自分の体温で暖まって来るので、仰向けになって空気中に放熱する、と。
そして、猫が仰向けになるとき、しばしば、脇あたりの部分で体を90度横に曲げ、胴体と首が直角になるL字型を見せてくれます。そして前肢の先はちょこんと丸まっていて招き猫状態。肉球を隠しているとも言えますが。あとときどき、片方の前肢をぴんと伸ばして仮面ライダーの変身ポーズ(初代)みたいな格好になることもあります。
前肢はともかく胴体を直角に曲げているのは、真直ぐに寝ると全身が円柱状になって転がってしまうからなのでしょうか。いつもいつも、よくこんなに曲がるものだと体の柔らかさに感心します。
ちなみに近くに壁があると何故か壁に肉球を触れさせるように寝転がるもので……何かあったら壁を蹴ってスライド移動できるようにしているのでしょうか。後肢が両方とも触れているときなどは、膝にばねの力が溜まっているようにも見えます。
さて、俳句作りのほうはというと、最初はこの形でした。
夏の床猫は仰向けL字型
そして、ここから推敲していった過程でできたのが、次のもの。
夏の床腹見せる猫はL字型
腹見せる猫はL字の夏の床
仰向けの猫はL字か夏の床
腹見せる猫はL字か夏の床
夏の床猫は腹見せL字型
夏の床猫はごろりとL字型
猫ごろりL字に仰向け夏の床
冷房を腹で受く猫L字型
冷房に猫はごろりとL字型
冷房や猫はごろりとL字型
言いたいことはひとまず言えてしまっていたので、変化できるところを変化させて並べてみたわけです。
この中から選ぶならば「夏の床猫はごろりとL字型」なのですが……最初と今とであまり変わってないんですよね。
そして、なんだか面白みに欠けるというか、内容が乏しいような気も。猫が仰向けに寝転がってましたよ、と言うことくらいしか言えてないのです。夏という季節もあまり活きてない。
とはいえ、情景を描写する言葉としてはこれ以上変えようがないのも事実。
そこで、他の要素を加えられないか、と考えました。情景自体が単純なら、それと相性の良い別の要素を加えてしまえばよいのです。
とはいえ、要素を増やすならば言葉を削らなければ入りきらないわけで、これがなかなか難儀。
そんな中、「風鈴」を使うことを思いつきます。ちょうど夏の季語ですし、屋内にいることも表せます。しかも猫が寝転んでいるので床であることは当たり前。つまり、「夏」「床」の言葉が不要になります。
なので、ひとまず、次の形を並べてみました。
風鈴や猫は仰向けL字型
風鈴や腹見せる猫L字型
風鈴や猫は腹見せL字型
風鈴や猫はごろりとL字型
これらを自分で書いている間に、床で仰向けになっている猫を眺めていたら自分の後ろ上方から風鈴の音が聞こえてきた、という情景が浮かびました。この情景ならば、視線は下に、聴覚は上にという立体感があります。
そこでこの立体感を強調できないか、と挑戦し、次の形を作ってみました。
風鈴や床では猫がL字型
風鈴や床には猫が仰向けに
風鈴や床では猫がL字型
風鈴や床には猫が仰向けに
仰向けの猫の腹見れば風鈴
風鈴や猫のL字に眠る腹
仰向けの猫はL字か風鈴鳴る
床の猫にL字を見れば風鈴鳴る
前に削った「床」を再び登場させた形です。猫はキャットタワーなどの高い場所で寝ることもあるので、はっきり「床」と書きました。
こうすることで、やはり「床」はあったほうが良いと気付きます。
そして同時に、課題もいくつか見えてきました。
まず、「L字型」だけだと何のことか分かりにくい。なので猫が仰向けなのだという情報を入れる必要があるけれど、「仰向け」そのままだと音数が足りない。これを「腹」で言い表しても若干分かりにくい。
また、思い描いた情景では猫を見ているほうが先なのに、句では風鈴のほうが先に登場している。けれど「風鈴」を下の句に持ってくると音数の収まりが悪い。4音の字足らずより6音の字余りのほうがリズムは良いけれどそのために「鳴る」を入れるのは言葉の無駄(風鈴は鳴るものなので「鳴る」はいらない)。
これらの課題のうち、「仰向け」に関しては、以前別の句で使った「ごろり」を使うことと、助詞の調整によって解決しました。一方、「風鈴」を後に持ってくることについては断念。風鈴の音が聞こえる中、猫が床に仰向けになっていた、という情景で描くことにしました。もともとL字型で寝ている猫が主役なわけですからね。
そこでできた形がこちら。
風鈴や猫床にごろりL字型
なんとか言いたいことを中の句字余りで収めることができました。
そしてさらにもう一か所変えてみました。
風鈴や床に猫ごろりL字型
語順です。「床に」と「猫」の順序を入れ替え。
この意図は、動作の主体(「猫」)と動作を現す言葉(「ごろり」)はなるべく近い位置に置くということと、上にある「風鈴」と下にある「床」を連続させて立体感を際立たせる、というものでした。近い位置に並べるという語順選びのセオリーに従った形です。
……が、実際にやってみると、あんまりパッとしない句になってしまった感じに。理論通りにやった結果が直感的におかしなものになるのはままあることで、今回はそのパターンでした。
そもそも、猫が主役の句なので猫を目立つ位置の置いたほうがしっくりくるわけで。
そんなわけで、今の「風鈴や猫床にごろりL字型」に落ち着きました。
セオリーは大事、ですが、実際にやって結果を確認するのも大事ですね。これもまたセオリーなのでしょうが……
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