2 / 17
プロローグ
急転直下
しおりを挟む
無意識に目をきつく閉じて、腕で顔を庇って、どれくらいそうしていただろう? しばらくすると、瞼の上からでさえ眩むほどだった強烈な光が、収まったのがわかった。
どうなったんだろう、僕は? 実は、もう死んでたりして……? 恐る恐る、目を開けてみる。
最初に瞳に映ったのは、長身の女性だった。というか、はっきりと言ってしまえば、女神だった。まるっきり、完全に。
「ようこそ、異界の人よ」
慈愛に満ちた微笑みと、声。それだけで、幸福を感じた。間違いない。この人は、女神なんだ。そう、確信する。
こ、これは、この状況は……。
女神の傍らには、巨大な狼が寄り添っていた。伏せの状態でも、女神の肩ほどの高さがある。立ち上がったら、どれほどだろうか。不思議と、怖いとは思わなかった。全身真っ白で、神々しい。
彼女たちの背後に目をやると、巨大な柱が並び立ち、その向こうには鮮やかな青空が広がっている。ここは、天空に浮かぶ神殿といったところだろう。
もう、間違いないでしょ。ねえ、ねえ!
「私の名は、テトキネス。この世界の女神です」
後ろで纏めた長い金色の髪を、キラキラと後光のように輝かせて、女神は言った。
はい、確定!
「は、はい、あの、はじめまして、僕、僕は、真宵、真宵当麻流といいます……」
僕のガチガチの自己紹介にも、テトキネスは、にこやかに笑みを向けてくれる。あぁ、まさしく女神だ。
「勝手と知りながら、あなたをこちらへ招いたのは、その力を貸していただきたいからです。今この世界では、邪悪なるものどもが蠢きだしています。それを打ち払えるのは、あなたしかいません」
ですよねー! 任せて下さい! まあ、僕に力なんてないですけど。運動音痴だったりもしますけど。でもでもでも、あれですよね? あれしてくれるんですよね?
「もちろん、私の権限で与えられる限りの能力を授けましょう」
僕は、心の中で強くガッツポーズを決めた。控えめに言っても、ぱっとしなかった僕の人生が、今動き始めたんだ! どこかから歓喜のファンファレーが、聞こえてくる――気がする。
「そして、この神獣を、旅の供として連れてお行きなさい。大いに旅の助けになってくれるはず――」
神獣と呼んだ巨狼の頭を撫でた後、こちらに向き直った女神の顔から、初めて笑顔が消えた。言葉が途切れたまま、続かない。あれ、どうしたのかな? なんか、僕の顔に付いてる?
「あら? あらあら?」
こめかみに指を当てながら、ずいずいと、こっちに近づいてくる女神。剣呑な雰囲気に、僕は上体を反らした。
「おかしいわ~。そんなはずは、ないのだけれど。でも、これは~」
僕の頭の天辺から、つま先まで、何度も舐めるように視線を往復させた女神の口から出た言葉は、
「ごめんなさい。あなたでは、なかったみたい。間違えちゃった、てへ♪」
なんともふざけたものだった。舌を出して、自分の頭をコツンと叩く。態度も、舐めきっていた。僕は、キレた。人生一、キレた。
「てへ、じゃねえよ! まじ、ふざけんなよ!? ありえないからね、これ? やっと、やっと、胸を張って生きられるって思ったのにさあ! 最初から持ってないより、与えられたものを奪われる方が辛いんですよ? わかるの、ねえ、あなたに!? てか、僕はまだ与えられてもいないから、セーフか? いや、セーフなわけねえだろ! どアウトだわ!」
自分でも何を言っているのか、わからない。
「本当に、ごめんなさいねえ。とりあえず、落ち着きましょ、ね?」
テトキネスが、僕の両肩に手を置いてなだめてくるが、もはや、おっちょこちょいなおばさんにしか思えない。
「はぁ、期待した僕が馬鹿でした~。どうせこうなるって、わかってました~。どうすりゃ、いいんすか、僕はこれから? こんな虚しい気持ちを抱えたまま、これまで通りの生活に戻れっていうんですか?」
辛い。そんなの辛すぎる。夢だと思えば、いいのだろうか? せめて、記憶を消して欲しい。
「う~ん、それもちょ~と、難しいかしらねえ」
この女神は、よおぉっ!
「じゃあ、なんですか? こんな見ず知らずの土地で、野垂れ死ねって言うんですか! こっちはねえ、ホームグラウンドでも生きるのに、ひいひい言ってるんですよ!」
僕の素の能力で異世界なんかに放り出されたら、三日も生きられないだろう。賭けてもいい。
「それは、大丈夫よ。人並み以上の能力にはしてあげられるし、ほら、この子も付けちゃう。まだ小さいけど、立派な神獣なのよ」
そう言って、嘘つき女神は、僕に黒い毛玉のようなものを押し付けてきた。
「神獣って……? これ、猫じゃないですか。しかも、子猫」
どう見たって、紛うことなき猫だ。真っ黒な、子猫。普通に可愛いが、それだけ。猫っぽいとか、猫みたい、ではなく混じりっけなしの猫。ははあん、また騙そうとしてるな、こいつ。僕のことチョロそうとか、思ってんでしよ? 冗談じゃない。僕だって、言う時は言うんだ。はっきり落とし前付けてもらうかんね。
「わからないことがあったら、その子に聞いてね。この世界も、暮らしてみれば案外悪くないと思うわよ。じゃあね、風邪なんか引いちゃだめよ」
「はぁっ?」
じゃあね、の意味を理解するよりも早く、足元の感触が消失した。
神殿の床に丸い穴が開いていて、その中からクソ野郎がニコニコと手を振っているのが、一瞬見えた。死ねばいいのに(呪)。
幾層も雲を突き抜けて、僕は高速で落下して行く。そんな中、僕にできたことといえば、手放さないように子猫を必死に抱きしめることだけだ。
ほどなくして意識を失えたことは、僕にとっては久しぶりの幸運だった。
どうなったんだろう、僕は? 実は、もう死んでたりして……? 恐る恐る、目を開けてみる。
最初に瞳に映ったのは、長身の女性だった。というか、はっきりと言ってしまえば、女神だった。まるっきり、完全に。
「ようこそ、異界の人よ」
慈愛に満ちた微笑みと、声。それだけで、幸福を感じた。間違いない。この人は、女神なんだ。そう、確信する。
こ、これは、この状況は……。
女神の傍らには、巨大な狼が寄り添っていた。伏せの状態でも、女神の肩ほどの高さがある。立ち上がったら、どれほどだろうか。不思議と、怖いとは思わなかった。全身真っ白で、神々しい。
彼女たちの背後に目をやると、巨大な柱が並び立ち、その向こうには鮮やかな青空が広がっている。ここは、天空に浮かぶ神殿といったところだろう。
もう、間違いないでしょ。ねえ、ねえ!
「私の名は、テトキネス。この世界の女神です」
後ろで纏めた長い金色の髪を、キラキラと後光のように輝かせて、女神は言った。
はい、確定!
「は、はい、あの、はじめまして、僕、僕は、真宵、真宵当麻流といいます……」
僕のガチガチの自己紹介にも、テトキネスは、にこやかに笑みを向けてくれる。あぁ、まさしく女神だ。
「勝手と知りながら、あなたをこちらへ招いたのは、その力を貸していただきたいからです。今この世界では、邪悪なるものどもが蠢きだしています。それを打ち払えるのは、あなたしかいません」
ですよねー! 任せて下さい! まあ、僕に力なんてないですけど。運動音痴だったりもしますけど。でもでもでも、あれですよね? あれしてくれるんですよね?
「もちろん、私の権限で与えられる限りの能力を授けましょう」
僕は、心の中で強くガッツポーズを決めた。控えめに言っても、ぱっとしなかった僕の人生が、今動き始めたんだ! どこかから歓喜のファンファレーが、聞こえてくる――気がする。
「そして、この神獣を、旅の供として連れてお行きなさい。大いに旅の助けになってくれるはず――」
神獣と呼んだ巨狼の頭を撫でた後、こちらに向き直った女神の顔から、初めて笑顔が消えた。言葉が途切れたまま、続かない。あれ、どうしたのかな? なんか、僕の顔に付いてる?
「あら? あらあら?」
こめかみに指を当てながら、ずいずいと、こっちに近づいてくる女神。剣呑な雰囲気に、僕は上体を反らした。
「おかしいわ~。そんなはずは、ないのだけれど。でも、これは~」
僕の頭の天辺から、つま先まで、何度も舐めるように視線を往復させた女神の口から出た言葉は、
「ごめんなさい。あなたでは、なかったみたい。間違えちゃった、てへ♪」
なんともふざけたものだった。舌を出して、自分の頭をコツンと叩く。態度も、舐めきっていた。僕は、キレた。人生一、キレた。
「てへ、じゃねえよ! まじ、ふざけんなよ!? ありえないからね、これ? やっと、やっと、胸を張って生きられるって思ったのにさあ! 最初から持ってないより、与えられたものを奪われる方が辛いんですよ? わかるの、ねえ、あなたに!? てか、僕はまだ与えられてもいないから、セーフか? いや、セーフなわけねえだろ! どアウトだわ!」
自分でも何を言っているのか、わからない。
「本当に、ごめんなさいねえ。とりあえず、落ち着きましょ、ね?」
テトキネスが、僕の両肩に手を置いてなだめてくるが、もはや、おっちょこちょいなおばさんにしか思えない。
「はぁ、期待した僕が馬鹿でした~。どうせこうなるって、わかってました~。どうすりゃ、いいんすか、僕はこれから? こんな虚しい気持ちを抱えたまま、これまで通りの生活に戻れっていうんですか?」
辛い。そんなの辛すぎる。夢だと思えば、いいのだろうか? せめて、記憶を消して欲しい。
「う~ん、それもちょ~と、難しいかしらねえ」
この女神は、よおぉっ!
「じゃあ、なんですか? こんな見ず知らずの土地で、野垂れ死ねって言うんですか! こっちはねえ、ホームグラウンドでも生きるのに、ひいひい言ってるんですよ!」
僕の素の能力で異世界なんかに放り出されたら、三日も生きられないだろう。賭けてもいい。
「それは、大丈夫よ。人並み以上の能力にはしてあげられるし、ほら、この子も付けちゃう。まだ小さいけど、立派な神獣なのよ」
そう言って、嘘つき女神は、僕に黒い毛玉のようなものを押し付けてきた。
「神獣って……? これ、猫じゃないですか。しかも、子猫」
どう見たって、紛うことなき猫だ。真っ黒な、子猫。普通に可愛いが、それだけ。猫っぽいとか、猫みたい、ではなく混じりっけなしの猫。ははあん、また騙そうとしてるな、こいつ。僕のことチョロそうとか、思ってんでしよ? 冗談じゃない。僕だって、言う時は言うんだ。はっきり落とし前付けてもらうかんね。
「わからないことがあったら、その子に聞いてね。この世界も、暮らしてみれば案外悪くないと思うわよ。じゃあね、風邪なんか引いちゃだめよ」
「はぁっ?」
じゃあね、の意味を理解するよりも早く、足元の感触が消失した。
神殿の床に丸い穴が開いていて、その中からクソ野郎がニコニコと手を振っているのが、一瞬見えた。死ねばいいのに(呪)。
幾層も雲を突き抜けて、僕は高速で落下して行く。そんな中、僕にできたことといえば、手放さないように子猫を必死に抱きしめることだけだ。
ほどなくして意識を失えたことは、僕にとっては久しぶりの幸運だった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
社畜おっさんは巻き込まれて異世界!? とにかく生きねばなりません!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はユアサ マモル
14連勤を終えて家に帰ろうと思ったら少女とぶつかってしまった
とても人柄のいい奥さんに謝っていると一瞬で周りの景色が変わり
奥さんも少女もいなくなっていた
若者の間で、はやっている話を聞いていた私はすぐに気持ちを切り替えて生きていくことにしました
いや~自炊をしていてよかったです
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜
あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい!
ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット”
ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
記憶喪失となった転生少女は神から貰った『料理道』で異世界ライフを満喫したい
犬社護
ファンタジー
11歳・小学5年生の唯は交通事故に遭い、気がついたら何処かの部屋にいて、目の前には黒留袖を着た女性-鈴がいた。ここが死後の世界と知りショックを受けるものの、現世に未練があることを訴えると、鈴から異世界へ転生することを薦められる。理由を知った唯は転生を承諾するも、手続き中に『記憶の覚醒が11歳の誕生日、その後すぐにとある事件に巻き込まれ、数日中に死亡する』という事実が発覚する。
異世界の神も気の毒に思い、死なないルートを探すも、事件後の覚醒となってしまい、その影響で記憶喪失、取得スキルと魔法の喪失、ステータス能力値がほぼゼロ、覚醒場所は樹海の中という最底辺からのスタート。これに同情した鈴と神は、唯に統括型スキル【料理道[極み]】と善行ポイントを与え、異世界へと送り出す。
持ち前の明るく前向きな性格の唯は、このスキルでフェンリルを救ったことをキッカケに、様々な人々と出会っていくが、皆は彼女の料理だけでなく、調理時のスキルの使い方に驚くばかり。この料理道で皆を振り回していくものの、次第に愛される存在になっていく。
これは、ちょっぴり恋に鈍感で天然な唯と、もふもふ従魔や仲間たちとの異世界のんびり物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる