高レベルパーティの奴隷にされた僕

かわうそ

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第一話 朝日は輝いていた

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 月明りさえ届かない森の中を、少年--マリスは必死に駆けていた。より正確に言えば、狩人に追われる子鹿のように、怯え逃げ惑っていた。
(はぁ……はぁ……逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ!)
 肌着姿で木々の間を掻き分けて走り続けて来た為、何度も枝に引っ掻かれ全身ミミズ腫れになってしまっていたが、そんなことを気にしてはいられなかった。
(殺される……捕まったら、殺されちゃうよ!)
 振り返るまでもなく、背後からは複数の怒声がずっと聞こえている。
 肺の痛みが限界を告げていた。それでも、逃げなければいけないと自分に言い聞かせ、足を前に出す。
 しかし同時に、冷静な自分が囁きもするのだった。
(どうせ僕の体力じゃ、すぐに追いつかれるよ)
(うるさい、黙れ!)
(だいたいどこに逃げるのさ、こんな山の中で?)
(街道に出れば、きっと誰かが……)
 脳内の言い合いが不注意を招いたのか、木の根に足が引っかかってしまう。
「うわっ!」
 無防備に転倒し、その先が土手になっていたらしくそのまま転がり落ちた。
 そこは、街道だった。
「……」
 うつ伏せに倒れたまま前方を見つめるが、こんな辺鄙な場所のこんな夜更けに、人の気配などあるはずもない。後方も同様だろう。
 見るまでもない--というより、見れなかった。振り向けない。体が、まったく動かなかった。
 起き上がるどころか、指一本さえ動くことを拒否して、ただ重く横たわっている。
(もう……だめだ……)
 殺気立った声が近づいて、木の葉を踏み散らす足音さえ聞こえてきていたが、もう彼の心は折れてしまっていた。
(なんで……こんなことになっちゃったんだろう……?)
 こんなはずじゃなかった。それは破滅を迎える者が、誰しも思い浮かべる言葉であったかもしれないが、それでも思わずにはいられなかった。
 彼は、つい半日前まで希望に満ち溢れていたのだから。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 朝日を浴びて王国有数の商都ザルーギンは、きらきらと輝いていた。それを見つめるマリスの瞳も、同じように--いや、それ以上に煌めいている。
 金髪碧眼の小柄な少年。ぶかぶかのローブに、とんがり帽子、手には木の杖を持っている。古典的な魔術師のスタイルだが、全て故郷の師が与えてくれた物で、彼の宝物だった。
「よしっ、今日から僕も冒険者になるんだ!」
 拳を握りしめ、そう宣言してみる。それほどに、気持ちが高揚していた。
「まずは、ギルドに登録しなくちゃね」
 師に勧められた冒険者ギルドへ向かう。
「あ、あの……」
 受付の女性に声をかけると、無言でギロリと睨まれた。思わずたじろいでしまう。険の強い女性だ。
(うぅ、なんかこの人怖い……)
 元来、人見知りである為、挫けそうになるが、
(だ、ダメだ! 僕は冒険者になるんだから!)
 マリスは、己を奮い立たせた。
「あの、登録をしたいんですが……」
 無理に笑顔を作って、尋ねる。受付は無言のままで、マリスを上から下まで値踏みするように眺めた。いや完全に品定めされている。
(えっ、僕、なんか変かな? 格好はお師匠様に頂いた物だし。もしかし、田舎者だってバレちゃってるのかな?)
 居た堪れない気持ちでいると、受付がぼそりとつぶやいた。
「経験は?」
「へ……いえ、未経験ですけど……」
 予想外のことを聞かれ、おずおずと答える。
「うちは、実績のないのやつはお断りだよ」
「えぇ……」
 冷淡な物言いに言葉を失ってしまう。急速に、心が冷えいくのを感じた。
(そんな……お師匠様は、なにも言ってなかったのに……)
「さっさと帰って、ママのおっぱいでも啜ってなよ。それとも、あたしのを咥えさせてあげようか、僕ちゃん?」
 居合わせていた背後の冒険者達からどっと、笑いが起こった。
 鼻の奥が痛み、目が潤んだ。泣き出してしまいたい。
(やっぱり、僕なんかダメなんだ……)
 絶望に打ちひしがれそうになった、刹那、
「ちょっと、いいかな?」
 マリスの肩に、そっと手が置かれた。
 振り向くと、人の良さそうな若い冒険者風の男が、微笑んでいた。少し後ろに、巨漢の戦士と、僧侶然とした男もいる。
「良かったから、僕達と一緒に来ないかい?」
「えっ?」
 差し出された男の手を、マリスは少し躊躇った後に、控えめに握り返した。
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