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第二話 夕日は落ちて
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「ふぅ……」
山道をひたすら歩き、三、四時間も経っただろうか、マリスは額の汗を袖で拭った。
「大丈夫かい?疲れてない?」
先頭を歩く男が立ち止まり、マリスに声をかける。
男の名前はナバルと言った。常にニコニコと柔和な表情をしているが、魔法剣士で意外にも--と言っては失礼だが--ベテランの冒険者らしい。戦士の名前はタイ。一番年かさらしい僧侶の名はマデジャ。どちらも、口数は少なかったが、こちらは文句なく落ち着いた雰囲気で熟練を漂わせている。
マリスがギルドを尋ねる少し前に依頼を受けたところで、彼らだけでも戦力にまったく問題はないのだが、実績作りにとパーティの仮メンバーに誘ってくれたのだ。
(いい人だなぁ……少しでもお手伝いできるように、僕も頑張らなくちゃ!)
ふん、と鼻息を吹いて、気合を入れる。
その様子を見て、ナバルが細い目をさらに細めた。
「ふふ、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫だよ。ただの山賊退治だからね」
「は、はい」
笑われてしまい、マリスは照れ臭くて苦笑いした。とはいえ、彼にとっては初クエストで、見ているだけでいいと言われたものの自然と力が入ってしまう。
「どうやら、お出ましのようだよ」
ナバルに言われて前を見ると、山賊らしき男達が木々の影から現れた。全部で五人。手斧や短剣、弓矢を持ち武装している。
人数はあちらの方が上だが、この程度なら冒険者の敵ではないだろう。
(僕だって、落ち着いて距離を取れば……)
マリスは、杖を強く握りしめた。援護する為の魔術をいくつか思い浮かべる。
「さて、大人しく捕まってくれれば命まで取るつもりはないが、どうするね?」
剣を抜いて、しかし穏やかな口調のままナバルが山賊に告げた。
だが山賊達は、互いに顔を見合わせゲヒゲヒと下卑た笑い声を漏らすだけで、なにも反応を示さない。
「死にたいのか、貴様ら!」
さすがに痺れを切らしたナバルが叫ぶ。どうやら戦闘は避けられなさそうだ。。
(あれ? なんか音が聞こえる?)
ずしん、ずしんという、重低音が響いてくる。辺りを見渡せば、木々が揺れていた。いや、
(え、なに? 木が倒れてる!?)
マリスの視界で次々と、木々が倒れていく。倒木と、なにか巨大なものが地面を踏み付ける音は、だんだんと近づいて、
「死ぬのは、てめえらの方なんだよ~!」
山賊の勝ち誇ったような雄叫びと同時、マリス達のすぐ側の木立を割って石の巨人が現れた。
(ス、ストーンゴーレム!?)
高レベルの魔術師だけが生成できる石造りの巨人兵。とても、山賊などが使役できるものではない。
「な、こんなものがあるなんて、聞いていないぞ……」
狼狽したナバルの声。無理もない。ゴーレムを作ることができる魔術師は、ほんの一握り。それが山賊風情に奪われるなどあり得ないことだ。
「てめえらみてえな冒険者を返り討ちにするために、今までの稼ぎ全部つき込んで、魔術師に作らせた新品よぉ。てめえらで、筆おろしをさせて貰うぜ!」
金の為に山賊に技術を売る魔術師。そんな存在がいることもショックだったが、すぐ次の瞬間、目の前で起こったことに比べれば些細な事だった。
振り下ろされた巨人の拳を戦斧で受け止めようとした戦士が、地面に強烈に叩き付けられた。石の拳と大地にサンドイッチされた彼の姿はあまりにも無残で、マリスにも即死していると分かった。
「ひっ」
声にならない悲鳴が、マリスの唇から漏れ出た。
治癒を--もしくは蘇生を試みようと僧侶が、戦士の亡骸に駆け寄ったが、ゴーレムのもう一方の拳に無慈悲に潰される。
「いかん、逃げるんだマリス君!」
ナバルの呼びかけに、
(分かってます……分かってますよ……)
そう答えたかったが、口から出てこない。今すぐ全身全力で逃げることだけが、ただひとつの正解だと重々分かっていたが、足が地面に張り付いたように動かなかった。
巨大な拳の影が、マリスを覆う。彼は、そっと目を閉じた。
(あぁ、僕は死ぬんだ……)
諦観をもって受け入れる。逃げることさえできない自分では、そうなるのもしようがない。
しかし、衝撃は予測よりもずっと軽く、
「えっ?」
突き飛ばされて、尻もちをついたマリスの目の前で、ナバルが巨石に頭蓋を潰され絶命した。
「あっ、あぁっ! 僕のせいで!」
マリスは嗚咽して、ナバルの躯に手を伸ばした。彼だけなら、逃げられたかもしれないのに。最後まで、本当にいい人だった。
(ごめんなさい……でも、僕もすぐに……)
ゴーレムに殺される。そう思い、また目を閉じたのだが、一向に打撃は訪れない。
恐る恐る目を開けると、巨人は動きを止め、山賊達がマリスを取り囲んでた。
「なんだ男かよ。久しぶりに、女を抱けると思ったのによー」
「こいつも冒険者なのか? 魔術師の格好をしてるが、まだガキじゃねえか」
どうやら、女性と見間違われていたようだ。多少童顔ではあるがマリスはれっきとした男である為、まだ命拾いしたとは言えないが。
「頭、どうしますか、こいつ?」
頭と呼ばれた髭面の男が、マリスの顎を掴み上向かせた。
「ふん、なかなか上玉じゃねえか」
「でもこいつ、男ですぜ」
「馬鹿野郎、こういうのが好きな金持ち連中が、世の中にはごまんといんのよ。こりゃ、いい値で売れそうだぜ」
山賊の頭はマリスの頬をパチパチと叩き、いやらしい笑みを浮かべた。
「連れてくぞ」
話がまとまったらしく、マリスは立ち上がらされ後ろ手に縛られた。されに腰に縄を結ばれ、引き立てられる。
(あぁ……僕、どうなっちゃうんだろ……)
一命を取り留めたことを、素直に喜ぶ気にはなれなかった。
山賊達に連れられマリスが向かう先には、もうすぐ夕日が落ちようとしていた。
山道をひたすら歩き、三、四時間も経っただろうか、マリスは額の汗を袖で拭った。
「大丈夫かい?疲れてない?」
先頭を歩く男が立ち止まり、マリスに声をかける。
男の名前はナバルと言った。常にニコニコと柔和な表情をしているが、魔法剣士で意外にも--と言っては失礼だが--ベテランの冒険者らしい。戦士の名前はタイ。一番年かさらしい僧侶の名はマデジャ。どちらも、口数は少なかったが、こちらは文句なく落ち着いた雰囲気で熟練を漂わせている。
マリスがギルドを尋ねる少し前に依頼を受けたところで、彼らだけでも戦力にまったく問題はないのだが、実績作りにとパーティの仮メンバーに誘ってくれたのだ。
(いい人だなぁ……少しでもお手伝いできるように、僕も頑張らなくちゃ!)
ふん、と鼻息を吹いて、気合を入れる。
その様子を見て、ナバルが細い目をさらに細めた。
「ふふ、そんなに肩に力を入れなくても大丈夫だよ。ただの山賊退治だからね」
「は、はい」
笑われてしまい、マリスは照れ臭くて苦笑いした。とはいえ、彼にとっては初クエストで、見ているだけでいいと言われたものの自然と力が入ってしまう。
「どうやら、お出ましのようだよ」
ナバルに言われて前を見ると、山賊らしき男達が木々の影から現れた。全部で五人。手斧や短剣、弓矢を持ち武装している。
人数はあちらの方が上だが、この程度なら冒険者の敵ではないだろう。
(僕だって、落ち着いて距離を取れば……)
マリスは、杖を強く握りしめた。援護する為の魔術をいくつか思い浮かべる。
「さて、大人しく捕まってくれれば命まで取るつもりはないが、どうするね?」
剣を抜いて、しかし穏やかな口調のままナバルが山賊に告げた。
だが山賊達は、互いに顔を見合わせゲヒゲヒと下卑た笑い声を漏らすだけで、なにも反応を示さない。
「死にたいのか、貴様ら!」
さすがに痺れを切らしたナバルが叫ぶ。どうやら戦闘は避けられなさそうだ。。
(あれ? なんか音が聞こえる?)
ずしん、ずしんという、重低音が響いてくる。辺りを見渡せば、木々が揺れていた。いや、
(え、なに? 木が倒れてる!?)
マリスの視界で次々と、木々が倒れていく。倒木と、なにか巨大なものが地面を踏み付ける音は、だんだんと近づいて、
「死ぬのは、てめえらの方なんだよ~!」
山賊の勝ち誇ったような雄叫びと同時、マリス達のすぐ側の木立を割って石の巨人が現れた。
(ス、ストーンゴーレム!?)
高レベルの魔術師だけが生成できる石造りの巨人兵。とても、山賊などが使役できるものではない。
「な、こんなものがあるなんて、聞いていないぞ……」
狼狽したナバルの声。無理もない。ゴーレムを作ることができる魔術師は、ほんの一握り。それが山賊風情に奪われるなどあり得ないことだ。
「てめえらみてえな冒険者を返り討ちにするために、今までの稼ぎ全部つき込んで、魔術師に作らせた新品よぉ。てめえらで、筆おろしをさせて貰うぜ!」
金の為に山賊に技術を売る魔術師。そんな存在がいることもショックだったが、すぐ次の瞬間、目の前で起こったことに比べれば些細な事だった。
振り下ろされた巨人の拳を戦斧で受け止めようとした戦士が、地面に強烈に叩き付けられた。石の拳と大地にサンドイッチされた彼の姿はあまりにも無残で、マリスにも即死していると分かった。
「ひっ」
声にならない悲鳴が、マリスの唇から漏れ出た。
治癒を--もしくは蘇生を試みようと僧侶が、戦士の亡骸に駆け寄ったが、ゴーレムのもう一方の拳に無慈悲に潰される。
「いかん、逃げるんだマリス君!」
ナバルの呼びかけに、
(分かってます……分かってますよ……)
そう答えたかったが、口から出てこない。今すぐ全身全力で逃げることだけが、ただひとつの正解だと重々分かっていたが、足が地面に張り付いたように動かなかった。
巨大な拳の影が、マリスを覆う。彼は、そっと目を閉じた。
(あぁ、僕は死ぬんだ……)
諦観をもって受け入れる。逃げることさえできない自分では、そうなるのもしようがない。
しかし、衝撃は予測よりもずっと軽く、
「えっ?」
突き飛ばされて、尻もちをついたマリスの目の前で、ナバルが巨石に頭蓋を潰され絶命した。
「あっ、あぁっ! 僕のせいで!」
マリスは嗚咽して、ナバルの躯に手を伸ばした。彼だけなら、逃げられたかもしれないのに。最後まで、本当にいい人だった。
(ごめんなさい……でも、僕もすぐに……)
ゴーレムに殺される。そう思い、また目を閉じたのだが、一向に打撃は訪れない。
恐る恐る目を開けると、巨人は動きを止め、山賊達がマリスを取り囲んでた。
「なんだ男かよ。久しぶりに、女を抱けると思ったのによー」
「こいつも冒険者なのか? 魔術師の格好をしてるが、まだガキじゃねえか」
どうやら、女性と見間違われていたようだ。多少童顔ではあるがマリスはれっきとした男である為、まだ命拾いしたとは言えないが。
「頭、どうしますか、こいつ?」
頭と呼ばれた髭面の男が、マリスの顎を掴み上向かせた。
「ふん、なかなか上玉じゃねえか」
「でもこいつ、男ですぜ」
「馬鹿野郎、こういうのが好きな金持ち連中が、世の中にはごまんといんのよ。こりゃ、いい値で売れそうだぜ」
山賊の頭はマリスの頬をパチパチと叩き、いやらしい笑みを浮かべた。
「連れてくぞ」
話がまとまったらしく、マリスは立ち上がらされ後ろ手に縛られた。されに腰に縄を結ばれ、引き立てられる。
(あぁ……僕、どうなっちゃうんだろ……)
一命を取り留めたことを、素直に喜ぶ気にはなれなかった。
山賊達に連れられマリスが向かう先には、もうすぐ夕日が落ちようとしていた。
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