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【序】
『3』
しおりを挟む――ザザザッ!
『ヴオォオォォォオォォォォォォオオッ!』
突然、背後から俺に襲いかかって来たのは、恐ろしく巨大な生き物だった。
「うおっ! なんだ、こいつ!」
「見りゃあ、わかるだろ! バーラルボームの子供だ!」
「はぁ? 蚊じゃねぇのかよ!」
てっきり、二匹目の蚊相手に、馬鹿連中が騒ぎまくってるモンだと、思いこんでた俺は、完全に虚を突かれた。
鋭い牙が、俺の脇腹をかすめる。
俺はかろうじて、愛器のバスタードソードに手を伸ばした。体勢を立てなおし、猪突猛進して来る巨大な化け物を迎え撃つ。
ちなみに、バーラルボームってのは、半獣半妖の化け物の一種で、こいつは猪とのかけ合わせらしい。ベースとなる猪の巨体に、〝妖獣〟特有の巻角・触手・邪眼の三点セットが、しっかりついている。また、巻角と邪眼の色で、そいつの力量がわかるって仕組み。
赤か……ちょっと、ヤバいな。かなり興奮してるぞ。それからバスティリアには、獣の血を引く【ガングル族】ってのも七種類いるが、そいつらとは知能指数と気性がちがう。
バーラルボームの場合、ただ人間を襲うだけの単細胞だ。
ガングル族の場合、ただ弱い人間を襲うだけの卑劣漢だ。
結局、どっちも性質が悪いってことに、変わりねぇけどな。
おっと。悠長に、説明なんかしてる場合じゃねぇや。
俺はバーラルボーム(の子供)の攻撃を、紙一重で避け、バスタードソードで弱点の巻角を薙ぎ払った。
だが、敵もさるもの……子供とはいえ、見上げるほどの巨体を誇るバーラルボームは、巻角の先端をわずかに殺がれただけで、烈火の如く怒り狂った。大暴走だ。
「旦那さま――っ! 頑張ってでち――っ!」
俺はバーラルボームの牙につかまり、身をひるがえし、なんとか化け物の背中に乗っかった。丁度、ロデオをしてるみたいだ。妖獣は暴れに暴れ、俺を振り落とそうと躍起だ。
つぅかさ……チェル!
応援するより矢で狙え! クロスボウの腕だけは、認めてやってんだぞ!
但し何故か、五回に一回は必ず外すという、ムチャクチャな特技の持ち主だからな……四本でいいぞ!
「雑魚の始末は、そなたにまかせたぞ」
俺はバーラルボームの体中をおおう気色悪ぃ触手に、あちこち咬みつかれ(触手のひとつひとつに口があるのだ)、血だらけになった。
蛭みたいに血を吸って、生命力を強めているらしい。俺はバスタードソードで、鬱陶しい触手を、かたっぱしから微塵斬りにした。
つぅかさ……ダルティフ!
安全な巨木の上で、なにを呑気にえらぶってやがる! 腰抜けのクセに、言うことだけは一丁前なんだよな! この野郎、貴族の血筋じゃなけりゃあ、ド突き回してやるのに!
「なにやってんのさ! さっさと片づけちまいなよ!」
俺はバーラルボームの背中に必死でしがみつき、巻角二本をへしおってやった。ところが、いよいよ怒り心頭に発した妖獣は、俺を乗せたまま、周囲の樹木に体当たりし始めた。
つぅかさ……ラルゥ!
俺に檄を飛ばす以前に、少しは手を貸せよ! 戦闘狂の怪力雌ゴリラだろ!
こういう時こそ馬鹿力で、無闇やたらとクレイモアを振り回し、化け物退治に協力しろってんだ!
「苦戦を強いられとるな。しかし、これも修行の一環。自力でしのげ」
俺はバーラルボームにつかまったまま、巨木に激突し、ついに振り落とされそうになった。
それと同時に、樹上へ身を隠していたダルティフが、バーラルボームの頭上へ落下して来て……失神。妖獣も、思いがけぬ一撃で目を回し、ここでやっとわずかな隙ができた。
つぅかさ……オッサン!
俺はとにかく、せめて主人だけは助けた方がいいんじゃねぇ? 化け猪の奴、ダルティフに気づき、踏み潰そうとしてるぞ! しょうがねぇな、クソッ! けど、今が好機だ!
「まったく、見ていられないですね。たかが二トン弱の妖獣一匹に、手こずるとは情けない。バーラルボームの肉は、美味ですからね。妖気で生き腐れる前に仕留めてくださいよ」
俺はバーラルボームの太い猪首に、思いきりバスタードソードを突き立てた。怒りで妖気が増し、生き腐れ始めると、それこそ厄介だからな。アンデッド化する場合もあるんだ。
つぅかさ……タッシェル!
お前、俺より猪肉の心配か! 仲間の命より、食い物が大事か! たかが一匹の蚊に大騒ぎしてたてめぇらと、たかが二トンの大型妖獣を相手にする俺と、比較すんじゃねぇ!
『ヴギャオォォオォォォオォォォォォオオッ!』
だぁ――っ! いちいち、うっせぇ!
さっさと死ねや、ボケェ!
――ドドオォォォォオンッ!
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