アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【序】

『4』

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 バーラルボームは、俺のバスタードソードで猪首を完全に断たれ、横倒しになった。
 ものすごい地響きとともに、土埃が舞い上がり、周囲は血の海と化す。
「ひぎぃぃいっ! ってぇ――――っ!」
 ついでに、失神中のダルティフが、妖獣の巨体で片足を押し潰され、跳ね起きた。
 はい、めでたし、めでたし。
「やったな、ザック。さすがは、私が好敵手と見こんだだけのことはある」
 どうせ……ラルゥにとっちゃ、強い男は誰でも好敵手なんだろ? ヤレヤレ……。
 そうそう、遅くなったが、最後に自己紹介するぜ。
 筋肉質で精悍な小麦色の肌、彫りの深い顔立ち、短い栗毛にバンダナを巻き、この国でも珍しい紫紺と琥珀のバイ・アイを持す美男子こそ《ザッカー・ゾルフ》……この俺だ。
 仲間内じゃあ《ザック》と呼ばれてる。あらためて、よろしくな。
 ん? どうした? なんであとずさる?
 ただの握手だろ? おい!
「その姿では、《ナナシ》がおびえて当然ですよ、ザック」
 タッシェルの言う通り、バーラルボームの返り血で、全身真っ赤に染まった俺は、見るも無残な姿立ちだった。はは、確かに、これじゃあ《ナナシ》が怖がるのも、無理ねぇな。
「そんなことより……やった! 朝飯だぁ――っ!」
 ラルゥの怪力で、助け起こされたダルティフが、足の痛みもなんのそので、大喜びする。
 あの、奇妙な足首の曲がり方……絶対、骨折してるだろ!
「若、はしたないですぞ。妾腹であるがゆえの、育ちの悪さが知れるというもの」
「ゴーネルス! 無駄口を叩くな! ことあるごとに、それを持ち出しおって!」
 この主従のなれ合いは、いつものことだから心配すんな。じゃれてるだけだよ。
「だけど、こいつのヒレステーキは、絶品だからね」
「えぇ。早速、ご相伴にあずかるとしましょう」
「ごっはん♪ ごっはん♪ ウマウマごっはん♪ でち♪」
 ホントに、呑気な奴ら……万事が万事、この調子だからな。
 うぅ、ますます頭痛が酷くなって来たぜ……ハァ。
 と――その時だった。
――ドドドッ……ガサガサガサッ!
『ヴオォオォォォオオォォォォォォォオオッ!』
 木々を薙ぎ倒し、茂みを踏み散らし、凄まじい地響きを立てて、魂消たまげるような奇声を発して、またしても、俺たちの野営地へ飛び出して来たのは、言語に絶する化け物だった。
「うわっ……また出たぞ! しかも、かなりの大物だ!」
「ぬぬっ! バーラルボームの成獣だな! 子の仇を討ちに来たか!」
 バーラルボームは、成獣ともなると重量六トン、幼獣の三倍ものサイズを誇る。
「とにかく! 全員、すみやかに撤収です!」
 当たり前だ! 言われるまでもない! こうなっちゃあ、逃げるが勝ちだろ!
「了解でち、神父さま! でも……あぁん! ご馳走がぁ!」
 食い物に未練を残すな、チェル! 見苦しいぞ! けど……確かに、惜しい!
「こらぁ――っ! 僕を置き去りにするなぁ――っ!」
 あ、いけね……やっぱあいつ、骨折してたんだ……ラルゥにも見捨てられたか。
「だぁ――っ! まったく、世話が焼ける!」
 俺はダルティフを背に担ぎ、脱兎の如くバーラルボームの視界から逃げ出した。
 ナナシ! お前も、一緒に来い!
 俺たちの冒険は、まだ始まったばかりだ!
 だから、この世界を全部、お前に見せてやるよ!
 お前が、すべてを思い出すまで、全部……そう、全部な!

 【序】終
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