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【虎穴に入れば餌を得る】
『3』
しおりを挟む「わかりました! 私は【ポルカドットサーカス】の団長のベニートです!」
団員も、あとに続いて次々と名乗り始める。
うん、素直でいい。いいんだが……これって、時間の無駄じゃねぇか?
「あっしは見ての通り、ピエロのピコだよん」
「空中ブランコ乗りの花形エリザよ」
「猛獣使いのドナトでがんす」
「曲芸師のゴドフリーだ」
「歌姫のクローエでございます」
「わ、わいは、見世物の、ガ、ガウス」
「綱渡りの双子、姉のピナで……」
「ああ、もういいや。なんか面倒臭くなっちゃった」
ラルゥ……こっちから無理やり聞いといて、そりゃねぇだろ。しかも、ワザワザ双子ントコで切るか? もう一人の方が、恨めしげに、お前を睨んでるぞ。不気味なひとつ目で。
その上、やっぱ思った通り、時間の無駄だったし。あ~~あ、仕方ねぇな。
「もう大丈夫だ。こんなモン、すぐに打ち壊してやるから、下がってろ」
俺は団員たちを地下牢の奥へ下がらせ(ほとんど、おしくらまんじゅう状態だな)、バスタードソードを大きく振りかざした。
ところが、ここでまたしても事態は急転直下だ。
「お待ちなさい! そんな悪党どもの嘘に、騙されてはいけません!」
「ただちに武器をおきなさい! そうすれば、身の安全は保障します!」
「お願いです! こちらとしても、無益な殺生は、なるべくひかえたい!」
そう言って、洞窟のあちこちから、たいまつを手に続々と飛び出して来たのは、黒衣に赤い紋章をつけた、怪しい面々だった。とは言え、地下牢のメンツに比べれば、まだマトモに見えるけどな。なんにせよ、また新手が現れたか……一体全体、どうなってんだぁ?
……ってかさ、このせまい洞窟内に、短い時間帯に、詰めこみすぎだろ、展開を!
「なんだ、お前ら! さては、JADの狂信者どもか!」
ラルゥは、すかさず戦闘態勢に入る。
俺たちにも一瞬、緊張が走る。
すると、上品で優雅な所作の男たちが、一歩前に出て、苦笑いしながらこう言った。
「狂信者とは、いささか不快な蔑称だが、そう言われても仕方ないでしょうな」
「でも、宗主アンジャビル卿の、素晴らしい人柄に触れれば、みなさんの考えも変わるはず」
「要するに、私たちはあなたがたを、教団本部へお招きするため、遣わされたのです」
「「「はぁ?」」」
「うむ。なかなか、礼儀作法がなっとるな。よろしい」
「ボンクラな我が主人に対しても、斯様に丁寧な歓待をしてくださるとは、恩に着ますぞ」
いやいやいや……ちょっと、納得するなよ、ダルティフ、オッサン。しかも、ダルティフは相変わらずの鷹揚さで、勘ちがいしちゃってるし、その上、オッサンは、サラッとダルティフの悪口言っちゃってるし、狂信者どもも、JADだって、あっさり認めちゃってるし……ああ、もう!
ツッコミどこ満載で、どこをつついていいのか、わからねぇや!
ただ、相手の柔和な口調や態度から、敵意がまったくないってことだけは、わかったぞ。
それでも、疑り深いタッシェルが、狂信者どもの顔を見回し、胸の内を探る。
「ジャーク・アジール・ドミニオンの信者であることは、認めるのですね? しかし、あなたがたの教義では、罪なき無辜をこんな不衛生な場所に監禁し、危険な妖魔に見張らせるなど、当たり前に行っても、よろしいのですか? 宗主さまの人格が、疑われますよ?」
おおっ! 俺は、自分の耳を疑ったぜ! まさかタッシェルの口から、そんな正論中の正論が飛び出すとは、思いもしなかった……つうか、ものの道理がそこまでわかってんなら、まずは我が身を正せ! 普段から、ムチャクチャな悪事を、平気で画策するクセに!
「そ、そうだ! そいつらは悪魔だ! 私たちをここへ閉じこめた、張本人だぞ!」
タッシェルの言葉で、活気づいた地下牢の団長が、隙間から手を伸ばし、大声で叫んだ。
洞窟中の岩壁に反響して、思わず耳をふさぎたくなるほどの、凄まじいがなり声だった。
他の団員も、ワケのわからんことを一斉にわめいている。なにしろ一斉にしゃべるから、誰がなにを言ってんだか、全然、聞き取れねぇんだよな……これに対し、JADの信者どもは(ついに〝狂〟が抜けたな)、冷徹な声で地下牢を睨み、驚くべきセリフを言い放った。
「当然だ。お前たち【ポルカドット盗賊団】は、我らの宗主の秘宝を盗んだ、不届き者」
はぁ!? 盗賊!? それって、マジか!?
「ありり? 【ポルカドットサーカス団】じゃ、なかったのでちか?」
チェル、ナイスタイミングでよく聞いたな。信者どもは長嘆息し、再び地下牢を睨んだ。
「ああ、ずる賢い盗賊め! やはり甘言を弄し、罪なき人々を、利用する手筈だったか!」
「この者どもは、サーカス団員に扮し、あちこちで荒稼ぎする、悪逆な盗人なのですよ!」
えぇえ? もう……どうなってんだよ、おい。どっちの言い分が真実なんだ?
「あのさ、どっちでもいいけど、時間がもったいないから、悪い方、手を挙げて」
クレイモアを肩に担ぎ、殺気の火花をバチバチさせながら、鋭い眼光でラルゥが言う。
は――い……って、挙げるワケねぇだろ、馬鹿! けど、なんか俺も混乱して来たぞ。
その時、唐突に信者たちが(ついに〝ども〟とすり替わったな)、一斉にひざまずいて、俺たちに向かい、深々と頭を下げたのだ!
こいつは、気分がいい……いや、驚きだな!
元より、武器など携帯していなかった信者たちだが、唯一、武器になりそうなたいまつをも地に伏せ、最早、土下座に近い格好で懇願……俺たちの心を、揺さぶりにかかった。
「どうか、みなさま、我々を信じてください。そして、どうか我々の宗主に会ってください」
「お会いになれば、真実がわかるはずです。宗主さまが、いかに偉大でお優しい御方か」
「ええ、そうでなければ、こんな悪党ども……とっくに役人へ引き渡していたでしょう」
「けれど宗主は、極刑を免れないこの者たちに、改心する機会をお与えになったのです」
「それに、お食事や、湯殿の支度も整えておりますので、なにとぞ……我々とご同道を」
「「「「えっ!! お食事!?」」」」
目の色を変えるダルティフ、オッサン、ラルゥ、チェル、タッシェル……と、俺。
はい、これにて陥落。全員一致で行き先決定。悪く思うなよ、ポルカドット盗賊団。
「取りあえず、行ってみようか」
「そうだな。虎穴に入れば、三度の飯に困らず、と言うしのう」
「誰も言わねぇよ、そんなこと。けど……どうする、ナナシ。お前は、どう思う?」
俺は、なんとなく顔色の悪いお前が気がかりで、こう問いかけた。
するとお前は、無言で首を振る。えぇと……今のは、聞いた俺が馬鹿だったってこと?
「無論、お腹は空いているでしょう? やせ我慢はいけませんよ」
「この者たちは、僕たちが思っていたより、善良な信者のようだ。危険はないだろう」
「ごっはん♪ ごっはん♪ うまうまごっはん♪ でち♪」
くわぁ――っ! どこまでも、呑気で危機感のカケラもない奴ら。けど、心配すんなよ、ナナシ。なにがあっても、必ず俺がお前を守ってやるからな。取りあえず、飯を食……じゃなく、敵のアジトへ乗りこんで、JADの宗主さまとやらに、会ってみようじゃないか。
なにしろ、それが一番の目的だったんだからな。むしろ、向こうから歩み寄って来てくれて、助かったぜ。面倒な手間がはぶけたし、飯が食……じゃなく、怪事件の謎に迫れる。
「待ってくれ! 頼む、ピエロのチコを探してくれ! ピコの相棒だ! 奴さえ見つかれば、我々は助かるんだ! どうか、狂信者の甘言に騙され、我々を見捨てないでくれぇ!」
その時、団長が金切り声で叫んだ。
なんか、憐れだな……真に迫ってるし、本当に盗賊なのか? 奴らの格好は、確かにサーカス団員だが、JADの信者に言わせると、それを隠れ蓑に悪事をかさねてるって話だし、もうどっちかどっちなんだか……取りあえず、飯だ!
いやいや、宗主との面談だ!
会ってみりゃあ、真実がわかるだろ。
こうして俺たちは、信者にいざなわれるまま、いよいよJADの教団本部へと、向かうことになった。
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