アンダードッグ・ギルド

緑青あい

文字の大きさ
20 / 50
【虎穴に入れば餌を得る】

『7』

しおりを挟む

――バンッ!
「ザック、入るよ!」
「本当に、もう寝ちゃったでちか?」
「まるで緊張感のない、困った御人ですねぇ」
「まったく。どこぞの馬鹿ボンと、どっこいだのう」
「なんなんだ、ゴーネルス。僕まで叩き起こして、無理やり引っ張って来て」
 うわっ! なんだ、どうした! いきなり……ナナシまで連れて、全員でなんの用だ!
 しかも、またツッコミドコ満載!
 第一に、入ってから「入るよ!」は、ねぇだろ、ラルゥ!
 まずは、ノックして、相手の是非を確かめろ!
 第二に、他人の部屋へ押しかけて来て、はしゃぎ回るな、チェル!
 取りあえず、ベッドから降りなさい!
 第三に、その枕だ! 皆で持ち寄って、なに考え……ああ、もういいや……頭痛ぇ。
「どういうワケか、話せ! まさか、皆で枕投げしよう、なんて言わねぇだろうな!」
「きゃん! さすが! よくわかったでちね、旦那さま!」
「そうじゃないだろ、チェル。さっきの食堂の件、相談に来たんだろ?」
「食堂の件? ああ、アレか……」
 アンジャビル卿の依頼の件だと思い、俺はベッドに座ったまま、アクビを噛み殺した。
「「「「そう、アレ」」」」
 みんなも、神妙な面持ちで、俺の周りに集まり、小声でささやき始めた。
「キャビネットの中に、二人いたね」と、ラルゥ。
「カーテンの裏にも、一人いましたね」と、タッシェル。
「カウチの下にも、二人はいたみたいでちよ」と、チェル。
「飾り棚の上と暖炉の影にも、一人ずついたのう」と、オッサン。
 なんの話だ?
「なんの話だ?」
 俺とまったく同じ意見を、言葉にしたダルティフ。途端に、みんなの冷たい視線にさらされる。
「気づかなかったのかい。ヤレヤレ……どこまで呑気なんだか」
「刺客ですよ。我々の態度如何いかんでは、奇襲をかけるつもりだったのでしょうね」
「そんなことすら見抜けぬとは、〝馬鹿も休めば大馬鹿になる〟ですな、若」
「なんでちか……意味だけでなく、使い方まで、おかしくなったでちよ、従者さま」
「つけ加えれば、食堂の出入口には、大勢の人の気配がありました。信者たちでしょうね。彼らもまた、有事の際は、いつでも総攻撃を仕掛けられるように、待機していたのですよ」
「ぬわにぃ!? そんな、まさか……冗談であろう!?」
 しぇぇえっ! そうだったのか!
 危ねぇ、危ねぇ! 口に出さなくて、よかったぜ……って、よくない!
 全然、気づけなかった俺は、この馬鹿ボンと同レベルってことじゃねぇか! 
 もう、最低だ、最悪だ!
「静かにしろ。外の見張りに、聞かれたら大変だ」
 そう言って、ラルゥが唇の前に、人差し指を当てる。
「それじゃあ、お前ら……どうやって、この部屋に来るの、誤魔化したんだよ」
「「「「枕投げ、楽しみだねって」」」」
 大の大人が、声をそろえて、真顔で言うな! それでみんな、枕を持ってんのか! いずれにせよ、見張りが本当にいたとして、お前らの人間性が、疑われたことだけは確かだぞ!
「おふざけはやめにして、それで、どうする?」
「取りあえず、ピエロのチコとかいう奴を、見つけ出して、話を聞くよりほか、ねぇだろ」
 ラルゥの問いに、俺は至当な答えを返した。
「ま、無難な提案ですね。それで、どうします?」
「一旦、マシェリタのギルドに戻って、レナウスんトコの双子から、情報を仕入れようぜ」
 タッシェルの問いに、俺は妥当な答えを返した。
「なるほど、良策だな。それで、どうする?」
「情報次第では、保安院へ協力を仰ぐ。自警団に出張ってもらうのもいい。人海作戦だな」
 オッサンの問いに、俺は適当な答えを返した。
「さすが、旦那さま。それで、どうするでちか?」
「それで、それで、それでって……それでお前ら、俺の部屋に来たのか! なんでもかんでも俺頼みにしねぇで、少しは自分で考えろ! それとも、頭の使い方さえ知らんのか!」
 俺は頭にきて、日頃からの不満もまぜこみ、思いっきりぶちまけた。
 まったく……みんな、聞こえないフリしやがって! お調子者どもめ!
「それで、どうする?」
「まだ聞くか、ダルティフ!」
「いや……今夜はこのまま、ここに泊まるのか? 寝こみを襲われたりは、しないのか?」
「ご心配なく、若。いざとなったら、このシャオンステン、蛇蝎の如く、逃げ去って見せますゆえ。若はゆっくりと、JADのメンバーに囲まれながら、見送ってやってください」
「うむ、そういうことなら、心配ないな……ん?」
 おい、おい……脱兎の如くだろ、オッサン。まぁ、確かに蛇蝎の如く、嫌われてるかもしれねぇけど、取りあえず、ダルティフが気づいて怒り出す前に、早いトコ謝っとけよ。
「なんにせよ、俺はこんなくだらねぇ作戦会議、離脱させてもらうぜ……ってか、帰れ!」
「そうはいかないよ、ザック。今夜は、ダルティフが案じた通り、万一の奇襲を避けるため、全員でこの部屋に居続けるからね。あ、気にするなよ。今夜はオールで枕投げだって、大袈裟にはしゃぎながら、ここまで来たから。廊下の見張りは、まんまと信じたはずさ」
 ついでに、お前らの頭ン中が、どれだけおめでたい構造かも、バレちまっただろうな。
「……つぅか、なんで俺の部屋なんだよ! ダルティフがビビッてんなら、こいつの部屋に集まって寝てやりゃあ、いいじゃねぇか! そんで一晩中、子守唄でも歌ってやれよ!」
「誰がビビッてなんか……大体、ここへ来ようと言いたげだったのは、ナナシだぞ!」
 え? そうなのか、ナナシ?
「そうだよ。この子が、身ぶり手ぶりで、ザックの部屋へ行きたいって、伝えたのさ」
「私としては、ラルゥの部屋か、チェルの部屋が希望だったのですがね。ま、一番はやっぱり、アフェリエラの部屋でしょうか。あの侍女は、美しいだけでなく、身体つきも最高」
「うるせぇ、エロ神父! わかったよ、ナナシの希望なら仕方ねぇ。全員、泊めてやる」
 俺は、どことなく戸惑った様子のナナシを見て、ニッコリと笑った。そうか、ナナシ。
 やっぱりこの俺を、誰よりも信頼してくれてんだな。うれしいぜ。本当に、うれしいぜ。
「な、言った通りだろ? ナナシの名前さえ出せば、こいつなんか軽く転がせるんだよ」
「可愛い弟分に、いいトコ見せたいんだろうが、あっさり信じるとは……単細胞よのう」
「相手が女性なら、簡単に騙されて、利用されて、捨てられる……そんなキャラですね」
「いつも僕を〝馬鹿〟呼ばわりする無礼者のクセに、あの間抜け面……どっちが馬鹿だ」
「旦那さま……まんまと騙されちゃって、可哀そうでち。でも、なんだか腹が立つでち」
 ん? なにをヒソヒソやってんだ?
 ナナシも、なにを笑ってるんだ?
 ま、いいか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない 

堀 和三盆
恋愛
 一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。  信じられなかった。  母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。  そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。  日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...