アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【昨日の友は今日も友】

『6』

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「テルセロ。もう大丈夫だぜ。上手く追い返したからな」
「ほ、本当かい、ギンフ。ああ、よかった……ありがとう」
 自警団本部の二階、ギンフが借りる部屋の片隅で、身を縮めていた大柄な男が、ホッと安堵の吐息をもらした。
 今でこそ、ピエロの扮装などしていないが、この大男こそチコだ。
 本名はテルセロという。
 ギンフの幼馴染みで、十数年前、彼と一緒にゾラから渡来した異国人だ。
 その後、ホンの些細なことで喧嘩別れし、それぞれの道を歩むようになったが、今また、縁あって廻り逢えたというわけだ。
 もっとも、猟奇殺人事件にからむ、重大な秘密をかかえているからこそ、テルセロは仲間のサーカス団員を見捨ててでも、逃げなければならなかったのだが。
「なぁ、テルセロ……そろそろ、真実を語ってくれやしねぇかい? 俺さ……さっきの旦那たちが殺人犯だとは、これっぽっちも思ってねぇワケよ。だから、あんな風に追い払うのも、気が引けて仕方なかったんだぜ? それなのに、お前ってば……おびえてばっかで」
「……すまん」
「謝るのは、もういいっての。俺はただ、真実が知りたいだけなんだって」
「……迷惑かけて、本当に申しわけない。でも、今はまだ……」
 テルセロは、大きな鼻をこすり、涙をグッと、こらえているように見えた。
 そこで、ギンフは一計を案じた。
〈そうだ。こいつは昔から、酒に弱かったっけな。それなら、気晴らしとか、なんとか言って、レナウスの酒場にでも連れ出し、酔わせた上で、秘密をゲロしてもらうとするか〉
 ギンフは、そう思い立ち、明るい表情で、テルセロに言った。
「テルセロ! そう、暗い顔してねぇで、気晴らしに酒場へくり出そうぜ! おっと、心配は要らねぇよ! 俺の馴染みの酒場だし、安全は保障するから……な? そうしよう?」
「こ、こんな時に、酒?」
「こんな時だから、酒が必要なんだよ。大丈夫、大丈夫。用心棒代わりに、自警団の仲間も数人、誘うから。なぁ、行こうぜ。ずっと引きこもってたら、心にカビが生えちまうぜ」
 自警団の面々が一緒なら、平気かな……元来、酒好きなテルセロの心が、揺らぎ始めた。
「とにかく、行くぜ!」と、テルセロの腕をつかむギンフ。
「わわっ……ギンフ!」と、無理やり立たされるテルセロ。
 かくして、ギンフの有無を言わさぬ強烈な誘引もあって、テルセロはレナウスの酒場へ向かうこととなった。
 無論、他にも屈強な自警団が五人、テルセロを守るため同伴する。
 レナウスの酒場は、その日、大いに盛り上がっていた。
 常連客の、婚約パーティーの最中だったらしい。早速、お祝いムードの、明るい店内へ、気持ちよく迎え入れられたギンフたち一行も、パーティー料理のご相伴に与かり、皆で酒盛りを始めた。
 今夜の酒は、元々テルセロを酔い潰し、本音を話させるのが狙いである。
 ギンフは、歌や踊りでにぎわう店内の片隅で、次々と酒を注文し、テルセロに呑ませた。
 当然のことながら、他の団員五人も、事情を察しているので、ギンフに合わせてくれる。
「テルセロ、ほら、もっと吞めよ」
「ふぅ……もう、無理だよ、ギンフ……ヒック」
 好きなクセに、酒に弱いテルセロは、早くも酔い始め、夢見心地である。
 ギンフは、今こそ絶好のチャンスだと思った。それとなく話題を変え、誘導尋問する。
「そんじゃあ、そろそろ核心に行くか。お前が隠してる秘密って……」
 そう問いかけようとした際、突然、テルセロが意味不明なことを言い出した。
「ああ……リタは、どこに行っちまったんだよぉ……」
「お、なんだ? 女に逃げられたのか?」
「ぶわぁか! リタは、可愛い、可愛い、団長の……」
「団長って、そんなに可愛い奴なのか?」
「あほんだらぁ! 団長の、猫だよぅ! 探しても、見つかんねぇし、あんな……グゥ」
「おい、寝るな! 猫の話なんざ、どうでもいいんだよ! 俺が聞きたいのは……」
 テーブルに突っ伏し、いびきをかき始めたテルセロ。ギンフは、そんな幼馴染の肩を揺すり、背中を叩き、無理やり起こそうとした。
 そこへ、店主のレナウスが近づいて来た。
「ギンフ、もういいだろ。潮時だの。連れ帰ってやれ」
「で、でも……レナウスのオヤジさん!」
 ギンフは、すぐに異を唱えたが、レナウスの鋭い眼光が、それ以上、言わせなかった。
 レナウスは、馬鹿騒ぎを続ける客たちに対しても、同様に退店を勧めた。
 パンパンと手を叩き、大きくはないが店中に響く声で、宴の終わりを告げた。
「夜も遅い。闇は危険を連れて来る。みなも、そろそろお開きにするよ」
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