アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【やっぱ昨日の友は今日の敵】

『3』

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「その心配はないよ、ザック」
「どうして断言できるんだ!」
「迎えに来ているからだよ、受付に」
「へ?」
「実は、先刻から待たせているのだ」
「なんだって!?」
「君たちの身元保証人になる上、保釈金も支払うそうだ」
「ア、アフェリエラが!?」
 バティックがもたらした、思いがけない光明に、俺の表情はパッと明るくなった。
 よかった、無事だったんだな、アフェリエラ……万一、彼女の身にまでなにかあったら、俺たち、アンジャビル卿に顔向けできねぇモンなぁ。あれだけ、色々と世話になったのに。
 だがバティックは、JADに対し、慎重かつ懐疑的な態度を崩さなかった。
「あくまで彼女の言い分だが、眠れないので散歩に出たら道に迷ってしまい、ようやく宿に戻って来たものの、君たちがいなくなっていたので、方々探し回っていたらしい。そうしたら例の騒ぎを知り、もしやと思い保安院へやって来たと……ま、よくできた話だねぇ」
 なんとも、皮肉めいた発言だ。俺は一旦うなずき、けれどすぐ首を横に振った。
「そうか、アフェリエラが……って、おい! そんな言い方はねぇだろ! 彼女は……」
「とにかく、今後も彼女とともに行動するつもりなら、充分に気をつけたまえ、ザック」
 バティックの眼差しは、いつになく真剣だった。
 俺の隣へと視線をやり、さらにこう告げる。
「ナナシ君のためにもね」
 ナナシは、相変わらず顔色がすぐれない……色々あったせいだな。あんな悲惨な現場を、見ちまったせいもあるだろう。もしかすると、自分の記憶とリンクし、思い出しかけてるのかも……俺は、ナナシを気づかい、彼女の細い体を、そっと支えてやった。ナナシは無理に微笑み、俺に向けて《だ、い、じょ、う、ぶ》と、唇を動かす。なんて健気な奴だ!
 そんな風に、俺が感動に浸っていると、バティックがこんな話をつけ加えた。
「それと、先刻の質問……何故、ナナシ君だけ、七カ所もの致命傷を負って、助かったか、だが……それについては、まったく見当がつかん。ウチの監察医も、傷跡を見て驚いていたよ。これだけの深傷ふかでで、よく生き延びられたものだと……運が良かったね、ナナシ君」
 って、お――い! 『運が良かったね』だけで、すますなよ、バティック!
 ナナシも、なんだか複雑な表情してるじゃねぇか!
 けど、俺はあらためて誓った!
「……心配すんな、ナナシ。今後は俺が、いや、俺たちが、絶対にお前の身を、守ってやるからな。そして、殺されたチコや他五人のためにも、必ず真犯人を捕まえてやるからな」
 俺はナナシと向き合い、彼女の両肩をつかんで力強く宣言した。俺の偽らざる真情だ。
 そんな俺の宣誓を聞き、バティックがさらに、追加情報を与えてくれた。
「ああ、それと……その、チコこと《テルセロ》のことだがね」
「なんだ?」
「傷跡はやはり七カ所……と思ったら、五カ所だった」
「なに? 七カ所じゃなく、五カ所?」
「さらに、特別サービスだ。体の部位は、どこも欠損されていなかった」
「つまり、俺たちが邪魔に入ったせいで、時間が足りず犯人は持ち去れなかったワケか! だったら、あいつの体を探れば、まだどこかにシェナトスの涙が、残ってるってコトか!」
 そうとなったら、シェナトスの涙を手に入れて、一攫千金……じゃねぇ、犯人をおびき出す餌にできるかも! なんとなくだが、解決の糸口が見えて来な、ナナシ! と、俺が一人で喜んでいたところへ、バティックが咳払いし、幾分、言いづらそうに、つけ足した。
「残念ながら、彼の体にシェナトスの涙はなかった」
「はぁ!?」
 どういうことだ!? それじゃあ、なんでチコは、殺されたんだ!?
「さぞかし、無念だろうね……人ちがいで惨殺されるなんて」
『人ちがい』と聞いて、俺はますます困惑した。
「ちょっと、待てよ! それじゃあ……まだ六人目は、どこかにいるってことか?」
「さてね……これ以上は、我々の情報網でも、まだつかめていない。あとは君たちの思うまま、働いてくれたまえ。但し、先程もいったように、JADとは距離を置いて……ね」
 なんてこった……本当に、なんてこったよ、チコ。憐れな奴……まさか、人ちがいで殺されるなんて……だけど、これで、バティックの望む通り、JADとの関係は切れたな。
 なにしろ、チコを追いかけていた当初の理由は、ポルカドット盗賊団の一員である奴を捕まえるってことで、そのあと、アンジャビル卿へ引き渡すという依頼の元、成り立っていたワケで……ん?
 でも、だとしたら、なんでアフェリエラは、俺たちのために危険を冒してまで、身元引受人に?
 高額な保釈金まで払って、俺たちを助けてくれるんだ?
「とにかく、ギルド全員の保釈準備に入ったからね。あとは頼んだよ、ザック」
「あ、ああ……すまん、バティック」
 意味深に微笑むバティック。彼に促され、俺とナナシは、ようやく執務室を出た。ついでに、他のメンバー五人も、牢役人から簡略な説明を受けたのち、ようやく牢獄を出た。
 途中の階段で、合流した俺たちは、互いの無事を確認し、喜び合うのもそこそこに、急いで受付へ降りていった。
 広い待合室の一角、青白い顔で、ベンチに腰を下ろす美少女。
「アフェリエラさん!」
「よかった! 無事だったのだな!」
「心配したんだよ! どこに行ってたんだい!」
「そうでち! 黙っていなくなっちゃ、ダメでちよ!」
「僕はてっきり、人買いにでもさらわれたんではないかと、気をもんだぞ!」
 タッシェル、オッサン、ラルゥ、チェル、ダルティフが、一斉にアフェリエラを取り囲み、一気にまくし立てる。 
 おいおい、そんな語勢で詰め寄ったら、彼女がおびえるだろ。
 案の定、アフェリエラは、身をすくませ、恐縮しきった様子で、みんなに頭を下げる。
「ああっ……皆さま! ごめんなさい、こんなことになっているなんて、私……まったく知らずに……でも、もう保釈金も払いましたし、許可も下りたので、皆さまは自由です!」
 せめてもの罪滅ぼしってトコか?  
 ま、なんにせよ、お陰で助かりましたけどね。
「すまんのう、余計な手間をかけさせて……ウチの若が身銭を切ってくれれば、もっと早く出られたんだが……なにしろ、妾腹がゆえのシブチンで、ホトホト困っておったのだ」
 オッサン、ダルティフのことばっか、言えるか。
 お前の重装備を売れば、ほぼ同額の保釈金を支払ってなお、おつりが来たと思うぞ。
「ゴーネルス! 好い加減、その嫌味は聞きあきたぞ! どうしてこの僕が、父上から預かった大切な虎の子を、こんなくだらないことに、使わねばならんのだ! ふざけるな!」
「「「ダルティフ!! お前こそ、ふざけるな!!」」」
「まったくだ。仲間の身と、自分の懐と、どっちが大切なんだか……ヤレヤレ」
 ケチな馬鹿ボンのことは、この際、脇においといて、だな。
 俺はアフェリエラに、どうしても確認しておきたいことがあった。
 そこで、俺は仲間を促し、保安院を早々に出ると、明け方間近の路地で、早速、彼女に問いただしてみた。
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