アンダードッグ・ギルド

緑青あい

文字の大きさ
34 / 50
【やっぱ昨日の友は今日の敵】

『4』

しおりを挟む

「アフェリエラ。まずは礼を言うよ。けど、どうして嘘をついたんだ。いくら気配を消したって、隙をうかがったって、同室のラルゥの目をごまかすことなんて、並みの女にできるはずねぇ。つまり【六道魔術ろくどうまじゅつ】を使ったんだろ? 確か、六道のひとつに『ニローダ』って術があったよな。完全に気配を消し、身を隠す、いわば隠遁いんとんの術だ。そいつを使って、外に出たんだろ? 眠れないからって、散歩したいからって、女一人で、危険な夜の街へ」
 俺の鋭い指摘と、疑念に満ちた視線を受け、アフェリエラは一瞬、形のよい眉宇をひそめたが、すぐに心底すまないといった感じで、ふかぶかと頭を下げ、真摯に謝罪した。
「申しわけありません……でも、同室のラルゥさまや、チェルさまに、ご迷惑をかけたく」
「だから、嘘はいいんだよ、アフェリエラ」と、俺の追及は続く。
 俺だって、こんな尋問じみたことは、したくないんだけど、気になって仕方ないんだ。
 バティックに言われたことも、かなり引っかかっていたし。
 するとアフェリエラは、顔を紅潮させ、興奮した様子で、弁明しながらしゃくり上げた。
「そんな、ザックさま……私、嘘なんて一言も……眠れなかったのも本当ですし、散歩に出たのも……確かに、女一人で夜の街へ……軽率な行動とは思いますが、でも、でも……」
 大きな碧眼から、これまた大きな涙の粒が、ポロポロとこぼれては落ちる。
 ちょっと、言いすぎたかな……いや、しかし、ナナシを守るためだ! 心を鬼にしろ!
 ところが、泣きじゃくる彼女に代わって、発奮したのはギルドのメンバーだった。
「おい、ザック! そんな言い方しなくたって、いいじゃないか!」
 まぁ、確かに、言い方はキツかったかもしれんが……お前に言われたくねぇぞ、ラルゥ。
「女性を泣かせるとは、最低です! 男の風上にも置けませんね!」
 それそこ、男の風上にも置けないお前にだけは絶対、言われたくねぇな、タッシェル!
「旦那さま……チェルも、酷いと思いまち! 見そこなったでち!」
 おいおい、なんでお前まで泣くんだよ……相変わらず、涙もろいババァだな、チェルは。
「ザックよ。婦女子をいじめるとは……馬鹿とお馬鹿は紙一重だぞ」
 誰がいじめてる? なにが紙一重だ? 大体、間に『お』しか入ってねぇぞ、オッサン。
「そも、彼女が来て、身元引受人になり、保釈金を払ってくれなかったら、僕たちはまだ、あの冷たい獄中だったはずだぞ! なのに、恩を仇で返すとは、仲間として嘆かわしい!」
 ほほぅ……珍しく、シャキッと正論を吐いたが、今度もやっぱ的外れだぜ、ダルティフ。
「べつに、アフェリエラを責めてるワケじゃねぇんだ。ただ、真実が知りたいだけなのさ。俺たちが、殺人事件に巻きこまれている間、あんたが、どこで、なにをしていたのか……」
 俺は、頭のにぶい仲間たちにも話が見えやすいように、あらためてアフェリエラを詰問した。だが、彼女は同じ返答を繰り返すばかりで、しまいには話まですり替えようとする。
「ですから、散歩をしている内、道に迷ってしまい……ああ、それよりも、例のサーカス団員に化けた盗人……彼が、今度の事件の被害者らしいですね? どうしたものでしょう。これでは、宗主さまの大切な秘宝を、取り戻すことが、できなくなってしまいましたわ」
「話をそらすな。まだ、真相を聞けちゃいねぇ」
 俺は、だんだんとイラ立って来た。仲間も、殺伐とした目で見ている……俺を。
 そして、ついに!
「この冷血漢!」
「この恩知らず!」
「この薄情者!」
「このわからず屋!」
「このドスケベ!」
 五人の拳が、一斉に、俺の腹、頭、背中、胸、股間に大打撃を与え……ぐふっ!
 俺はうずくまった。
 どうでも、いいが、最後に、ドスケベって、言った奴……全員の声が、ハモッたせいで、誰が、なにを、言ったのか、聞き取れんかったが、取りあえず、苦悶が引いたら、殺す!
 そんな、苦痛に顔をゆがめる俺を、ナナシが気づかい、そっと背中をさすってくれた。
 やっぱ、こいつ……可愛いぜ。絶対に、守ってやるからな、ナナシ……だが、今はちょっと、待ってくれ……クッソ――ッ! 股間に拳をヒットさせたのは、タッシェルだな!
「あ、あの、大丈夫ですか?」と、心配そうに、俺の顔をのぞきこむアフェリエラだ。
 うぅ、優しい……やっぱ、アフェリエラが事件に関わってると、疑った俺が悪いのか?
 天罰が当たったのか? いや、これは……なにも知らん馬鹿どもの体罰だ!
「お前らぁ……よくも、仲間に対して!」
 すると、俺の恨み言をさえぎるように、ラルゥが冷ややかな口調で吐き捨てた。
「お前なんか、もう仲間じゃないよ」
 なにぃ!?
「そうですね。日頃から、あなたの態度はいけ好かなかったのですが、今度の件が決定打となりました。あなたには、《サンダーロックギルド》を、抜けてもらいましょうか」
 はぁ!?
「うむ、それがよかろ。食い扶持ぶちが減れば、その分、わしらも楽できるしのう」
 お、おい!
「残念だが、そういう結果に至ったぞ、ザック。これも身から出た錆と思い、猛省しろ」
 ちょっと待て!
「チェルは……チェルは……」
 そうだ……お前は、そんな冷たいこと、言わないよな、チェル!
 大好きな『旦那さま』のため、頑張ってみんなを、説得して欲しいでち!
「こいつとは一生、絶交するのが、いいと思うでち!」
 よりによって、『こいつ』と来たぁ――っ! しかも、一番キツイ舌鋒ぜっぽうを……くわぁ!
「み、皆さま! どうか、私ごときのために、喧嘩別れだけは、しないでください!」
 おおっ! アフェリエラ! お前……いや、君が代わりに頑張ってくれるか!
「いいんだよ、アフェリエラ。あんた、本当に優しい人だね……それを、こいつは!」
「まったく、こいつと来た日には、こんなに心根の美しい女性を、泣かせるなんて!」
「気にせんでよいぞ! こいつのような根性悪とは、もう今日限りでおさらばじゃ!」
「こいつには今まで散々、愚弄されたからな! いい気味だ! バカ、馬鹿、ばか!」
 こいつらまで、俺を『こいつ』って言い出したぞ! 畜生っ……もう、許せん!
「わかったよ……もう、てめぇらとは、一緒にやっていけねぇな! クソッたれのお守りには、好い加減、辟易へきえきしてたんだよ! 望む通り、ここからは別の道を行くとしようぜ!」
 俺は、まさしく『売り言葉に買い言葉』で、ギルドのメンバーへ絶縁状を叩きつけた。
 アフェリエラは、オロオロするばかりだ。
「そういうことだってさ。ナナシ。ほら、おいで」
「待て! ナナシは、俺と一緒に行くんだ!」
 ラルゥ、てめぇ……俺から、ナナシまで取り上げるつもりか!
 そうはさせねぇぞ! 俺はナナシの手を取り、慌てて背にかばう。
「ギルドを抜けるってことは、もう事件とは無関係ってことですよね。だったら、ナナシの身柄は、我々が預かるというのが、当然ではないですか? さぁ、ナナシ、こちらへ」
 タッシェル、ふざけんな! お前になんか、絶対にナナシを渡すモンか!
 俺は、ナナシの手をにぎる手に、グッと力をこめた。すると、ナナシも俺の手を、にぎり返して来たんだ!
 ナナシ……俺を、選んでくれるのか? こんな俺を……う、涙が!
「ナナシたん! 早く、こっちに来るでち! じゃないと、んん――っ!」
 ヤ、ヤバい! 言霊を使う気だな、チェル! そうなったら、もう俺に、あらがう術はない! その上、前にも説明したが、舌足らずで、むずかしい呪禁を唱えるため、必ず噛んで、とんでもない結果をもたらすんだ! クソッ……どうすりゃいいんだ、ナナシ!
「「「「ナナシ!?」」」」
「んん――っ、ナナシたん!?」
 ギルドのメンバーは、驚倒している。
 なんと、武器を手に手に、一触即発だった俺たちの間へ、ナナシが割り入って、俺をかばうように、両手を広げたんだ! ああ、ナナシ!
「ナナシ……あんた、ザックのそばにいたいのかい? そんな、冷血漢のそばに……」
「ナナシ……お前さん、わしらを裏切るつもりか? そんな、薄情者の肩を持って……」
「ナナシ……あなた、私たちの信頼を踏みにじってでも、そんな、恩知らずを……」
「ナナシたん……仲間は多い方がいいのに、そんな、わからず屋だけ選ぶでちか……」
「ナナシ……そいつと一緒にいると、今後は、どんな危険な目に遭うか、わからないぞ」
 ああ、よぉくわかったぜ、ダルティフ。無論、ドスケベの件な。
――ドカッ! ゴスッ! ゲシッ! バキッ! ガツ――ンッ!
「うごげぎがっ!」
 俺は、五人分の怒りで満ちた鉄拳制裁を、ダルティフ一人に加えてから、ナナシの手を取り、仲間に背を向けた。 
 いや、もう仲間じゃなかったな……今後は、敵だ! 弱敵だ!
 ギルドのメンバーも、気絶した馬鹿侯爵を引きずり、さっさとその場をあとにする。
「ザックさん、ナナシさん……」
 アフェリエラだけが、さも不安げな眼差しで、夜明けの街へ消えていく、俺とナナシの後ろ姿を見送ってから、ラルゥに呼ばれ、慌てて奴らのあとに従ったそうだ(後日談)。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

お前が産め!

星森
ファンタジー
結婚して3ヶ月、夫ジュダルから突然の離婚宣言。 しかし妻アルネは、あっさり「はい、いいですよ」と返答。 だがその裏には、冷徹な計画があった──。 姑ロザリアの暴走、夫ジュダルの迷走、義父バルドランの混乱。 魔方陣が光り、契約精霊が応え、屋敷はいつしか常識の彼方へ。 そして誕生するオシリーナとオシリーネ。 「子供が欲しい? なら、産めばいいじゃない」 冷静沈着な契約者アルネが、家族の常識を魔法でぶち壊す! 愛も情もどこ吹く風、すべては計画通り(?)の異色魔法家族劇、ここに完結。 ⚠️本作は下品です。性的描写があります。 AIの生成した文章を使用しています。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

妻が通う邸の中に

月山 歩
恋愛
最近妻の様子がおかしい。昼間一人で出掛けているようだ。二人に子供はできなかったけれども、妻と愛し合っていると思っている。僕は妻を誰にも奪われたくない。だから僕は、妻の向かう先を調べることににした。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...