アンダードッグ・ギルド

緑青あい

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【猫を探して約三里】

『1』

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 さてさて『吉報を待っててくれ』と、勢いよく自警団本部から、マシェリタの街へ出て来た俺とナナシだが、まいったな。正直、どこから手をつけたらいいのか、わからねぇぜ。
 それに、腹も減った。疲れて、猛烈に眠い。頭の働きが、悪くなってるな。
「ナナシ。とりあえず、どっかで休むか。持ち金は……あんまりねぇから、大したトコには泊まれねぇけど、また安宿でも取ってさ……あ、部屋は、その、一緒になるけど、絶対に大丈夫だぞ。変な真似はしねぇから……お前も、疲れただろ? 自警団本部じゃあ、休ませてもらうどころか、散々な目に遭っちまったし……まぁ、収穫も大きかったけどな」
 俺は、ギンフの言葉を思い返し、ついついニンマリしていた。
 だけどナナシも、そんな俺を見て、ニッコリと微笑んでいる。
 但し、思いっきり首を横に振られたが……そうだよな。休んでる場合じゃねぇよな。
「まずは、ファンファベリの街へ行ってみるか。なにか、情報がつかめるかもしれねぇ。あそこは、謎の飛翔体が落下したっちゅう、サンデッドの森からも、ワリと近いからな」
 俺は腕組みし、色々と考えをまとめ、最適な答えを模索した。
「おっと、その前に……猫も探さなきゃなんねぇな。どっちから、攻めるべきか……」
 猫と聞いた途端、ナナシの目が大きく見開かれた。
「猫? 猫か? ナナシ」
 俺はナナシの肩をつかみ、問いただした。お前は、無言でうなずく。
「けどなぁ……ただ、猫っていっても、特徴だって全然、わからねぇし……どうやって探したらいいものか。そもそも、猫を見つけ出したところで、テルセロの死と、どういう関係が……ん? いや、待てよ? もしかして……お前も、そう考えてたのか、ナナシ!」
 俺は、あることに気づき、ナナシの肩をつかむ手に、思わず力をこめた。
 お前は俺の目を見つめ、さっきよりも、大きくうなずいている。
 俺は興奮気味に叫んだ。
「シェナトスの涙!」
 俺としたことが……今頃、気づくなんて、まったく、抜けてやがるぜ!
「そうか……人間ばかり、頭にすりこんでたが、こいつは盲点だったぜ! テルセロは多分、ファンファベリの街で興行中、逃げた団長の猫『リタ』を追って、サンデッドの森に迷いこんだ……そこへ、【シェナトスの涙】が落下して……偶然、居合わせた連中が、破片を体に浴び、内五人が殺された。破片がいくつに分解されたかは、わからねぇが、リタも破片を浴びたにちがいねぇ……ってことは、ナナシ。やっぱり、お前の体内にも……破片が残ってるんじゃ……」
 そう言いながら、俺はあらためて、ナナシの全身を、上から下まで見た。
「そうだ!    バティックの推理通り、だから、生き延びられたんだ! 【シェナトスの涙】の加護で、犯人に殺されかけても、九死に一生を……いや、でも、お前の体には、致命的な傷が七カ所あったって……え?      あれ?」
 七カ所? そんじゃあ、シェナトスの涙の加護は、切れてるはず……なのに、なんで?     そういやぁ、保安院での談議の際、その点について、バティックも、首をかしげてたモンな。
 うぅむ……なんか頭が、こんがらがって来たぞ!
 するとナナシも、不安そうな表情で、俺を見ている。
 いけね……不安にさせちゃあ、まずいよな。ナナシのナナシたる謎は、この際、横にどけといて、とにかく今は、猫のリタを探し出すことが先決だ!
 そうと決まったら……。
「リタ、リタ……可愛い猫ちゃん、出ておいで……」
 俺は、腰をかがめ、猫背になって、路地や物陰をのぞきこんでは、不気味につぶやいた。
 アレ? ナナシが首を振っている。
 ハハ、確かにこれじゃあ、先刻までのギンフと同じ、異常者だよな(本人には、悪いから言えんけど)。それじゃあ……ん? なにか言いたげ。
 どうした、ナナシ? なにが言いたいんだ?
「え、おい! ナナシ!」
 するとナナシは、唐突に俺の手を引っ張り、歩き出した。
 おい、どこへ連れてく気だ? 俺はナナシに牽引されるまま、マシェリタの色々なレンガ地区を通過した。腹を空かしたまま、眠気にさいなまれたまま、約十二キロも歩かされた挙句、やがて……妙に見覚えのある黄色レンガ地区の、貧民窟へと連れて来られた。
 俺は驚き、目を見開いた。
「ここって、五番目の事件現場?」
 ナナシは、うなずいた。
 そして、身ぶり手ぶりで、必死になにかを伝えようとしている。
「ん? 目が乾く? ウサギの耳? ヨチヨチ歩き? 長い口ばし?」
 じゃなくて?
「目がパチパチ? クルクルパー? 内股でドタドタ? 拡声器?」
 でもない?
「あ、キラキラの目! クリクリの髪! 幼児歩き! 風船をふくらます!」
 やっぱ、微妙にちがう……ナナシは、額に手をそえ、考えこんでいる。
 そして、足元に落ちていた棒切れを拾うと、レンガの壁に、こう書き出した。
〈チェルさんの猫〉
「あぁ――っ! 今の、チェルの真似だったのか! ハハハ、言われてみりゃあ、確かに特徴をつかんでるなぁ! 大きな変光眼に、クリンとしたツインテール、内股でヨタヨタ歩く幼児性! それに、言霊使いってことか! なるほど! でも……猫って、なに?」
 ナナシはまた、額に手をそえ、考えこんでしまった。
 俺って、自分で思ってたより、ずぅ――っと、勘がにぶいんだな……なんか、ショック。
「猫……チェルの猫」
 俺は、よくよく思い返してみた。最初にここを訪れた際の、チェルの行動を……貯水塔をなぎ倒し、ボロ屋を一件ぶっ潰し、止めに入った住民をふっ飛ばし、ようやく捕まえた猫……そうだ! 猫だ! チェルが捕まえた猫!
 あの、バイ・アイで、不細工な黒猫!
「ナナシ! あの猫が、問題のリタだって、言いたいんだな? まさか、記憶が……」
 ナナシは、首を横に振った。フッと表情をかげらせる。
 そうか……記憶は、まだ戻って来ないんだな。ま、あせることはないさ、ナナシ。
「それにしても、あの猫がリタだったとして、まだこの辺にいるとは、限らねぇだろ?」
 なにか、確証でもあるのか、ナナシ?
 するとお前は、コックリとうなずき、棒切れでレンガ壁に、こう書き記した。
〈猫の行動範囲は、そんなに広くないの〉
「つまり、縄張りと決めた場所から、そう遠くには行かねぇってコトか!」
 ナナシは、また大きくうなずいた。
 へぇ……くわしいな。お前も猫、好きなのか?
 ナナシは、さっきよりも、まだ大きくうなずいた。ニッコリと笑っている。
 か、可愛い! メッチャ可愛い! また、キスしたくなっちまったじゃねぇか!
 でも……いや、いかん。今は、それどころじゃねぇぞ、ザック。
「とにかく、この貧民窟の周辺で、聞きこみしてみるか」
 俺はつい、ナナシの唇をチラチラと横目に見ながら、貧民窟の奥へ進んで行った。
 その時である。
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