魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-

ひろすけほー

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独立編

第九話「最嘉と不確かな約束」

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 第九話「最嘉さいかと不確かな約束」

 天都原あまつはら国南部、日乃ひの領――

 この地の政治・軍事の中枢たる堂上どのうえ城に武装した一団が向かっていた。


 「どうやらマジで手中に収めやがったみたいだな、あの”喰わせ者”め」

 仰々しい重装鎧プレートメイルを装備した上背のある偉丈夫は馬上から城を見上げる。

 「相手の混乱に乗じたとは言え、僅か数名の手練れのみでの城の奪取……いや!見事としか言い様がありませんなぁ」

 隣で興奮気味な配下の言葉を受け、偉丈夫はジロリと睨みつける。

 「っ!……そ、その、ほんの数日前までの宿敵の協力を得ての策など、も、もってのほかではありますが……その……」

 熊をも射殺すような鋭い眼光に睨まれ、たじろぐ部下を眺めながらその偉丈夫は……

 熊のような体格の男は”ふん”と鼻を鳴らした。

 「そこは……まあいい。別に俺個人としては南阿なんあに恨みがあるわけで無し、してや毎回、無理難題を押しつけては利用してくる天都原あまつはらなんて盟主国にそこまで義理立てしてやるわれもない」

 「は、はぁ」

 素で顔面が凶器といえる偉丈夫の迫力に焦ったものの、彼の主君は不機嫌というわけではなかったようだ。

 「まぁな、”あの男”の企てに乗ってみるのも面白いかもしれんしな」

 この時、岩石の如きこわもての偉丈夫は自身の中で”ひとつの結論”に達しているようでもあった。

 ――上背のある偉丈夫、

 ――体格の良い熊の様な大男……

 それは小国群がひとつ、日限ひぎり領主の熊谷くまがや 住吉すみよしである。

 一度は降伏した後で無条件解放された小国郡連合軍の王のひとりである熊谷くまがや 住吉すみよしは、再び戦場であった日乃ひのに舞い戻ってきたのだ。

 そしてその男は城を見上げ、今度は笑ってこう言うのだった。

 「ふん、いだろう。あの”食わせ者”のお手並み拝見といこうか」

 ――


 「お前なぁ?だ・か・らぁ!なんでそうなるんだよ!?」

 俺は呆れた表情で聞き返していた。

 「だって!……だって、さいかはなんでも条件を飲むと言った……」

 目前の白金しろい美少女は、そんな俺に当然の事という様な態度で折り返す。

 「言ったか?いいや、似たようなことは言った様な気がするが……そんな”万能な言葉”は使ってない。俺は”学校生活に困るようなことがあれば協力する”と言っただけだ!」

 ――そう、俺は確かにそう言ったはずだ

 俺の記憶が確かなら……というより間違いない!

 それは先週の金曜日、ほんの六日ほど前の話だからだ。

 「むぅ……」

 「ふて腐れても無駄だ」


 ――久鷹くたか 雪白ゆきしろという美少女

 少しの間、彼女と一緒に行動してみて解ったのだが……

 彼女はどうも少しばかり風変わりしているというか、

 ”一般常識”というものが欠けている気がする。

 特に”戦国世界こちら”側ではそれほどでも無いが”近代国家世界あちら”側の世界でそれはより顕著に見られる感じだ。

 たとえば……

 ファミレス、コンビニ、果ては自動販売機に至るまで、誰もが馴れ親しんで久しい珍しくともなんとも無い環境に彼女はまるで初めて体験するようなうぶな反応を示していた。

 そう、有り体に言えば、白金プラチナの美少女、久鷹くたか 雪白ゆきしろは少しばかり浮き世離れしているのだ。

 「…………」

 ――南阿なんあって、そこまで田舎じゃないよなぁ?

 大体、コンビニどころか自動販売機さえ無いって田舎を通り越して未開の地だろう。

 「でもでもっ!!困ったときに助けてくれるって!それは困ったわたしのお願いすることを聞いてくれるってことだよ?」

 ――だよ??って可愛いお顔で首を傾げられても……

 少しの間、黙って考え事をしていた俺の顔を覗き込むようにして彼女は訴えて来る。

 「……」

 ――美しい白い銀河、白金プラチナ双瞳ひとみ……

 ――くっ……可愛すぎる!!

 「……そ……そう……なのか?」

 ――

 ――いや!いや!いや!いやっ!!そんなワケあるかいっ!!

 整った美しい容姿、まれにさえ見ないレベルの美少女は本当にこういう時に始末が悪い。

 これは俺にとって経験談だ。


 彼女とこの密約を交わした時、それとは別にこっちでは無く向こうの世界……

 市立臨海りんかい高校の生活で困った事があるなら相談に乗るぞ?、と俺は言ったのだ。


 当面は取りあえず”久鷹 雪白こいつ”と共闘する事になるワケだから、暫くは彼女もうちの学校に通うことになるだろうと、だったらと俺はそう約束したのだ。

 ――理由?簡単だ

 こんな”常識欠如者かわりもの”を野放しにして厄介事をこうむるのはご免だし、俺の計画が完遂されるまで目の届くところに置いておくのが無難だと考えたからだ。

 ――なんだかんだ言っても南阿なんあの”純白の連なる刃ホーリーブレイド”は重要人物で超のつく危険人物だからなぁ


 「わかったよ、雪白ゆきしろ。明日、金曜日に向こうの世界に切り替わったら、学校でお前に数学を教えてやる」

 様々な葛藤の末に、俺は譲歩して、一時は彼女に譲ることにした。

 「ほんと?やった!」

 渋々とそう応えた俺の言葉に白金しろい美少女の表情がぱっと輝く!

 普段は殆ど表情を変えない人形姫の桜色の唇が柔らかく綻んで……

 「…………」

 ――うっ……やっぱ、なかなかに愛らしいな

 つい、だらしなく頬が緩む俺。

 ――まぁなぁ、く考えれば大した事では無いし、この表情を見ていたらそれ位の譲歩は良いかなぁと……

 「さいかはなんでもわたしの条件を飲むんだよね!ねっ?ふふっ!わたしの”下僕”みたいなモノだよね?ねっ!」

 「そ・こ・まではぁ!譲歩していないっ!!」

 バシッ!

 「あうっ!」

 可愛らしい笑顔で調子に乗りまくるお嬢様の白いおでこに俺は手刀チョップしていた。

 「ひ、酷い……花も恥じらう可憐な乙女の顔を……」

 「花も恥じらう可憐な乙女は下僕なんて必要としないっ!!」

 俺は毅然とした態度で涙目の美少女に言い放つ。

 「……うぅ……」

 「ふふんっ!」

 どうだ!!決意した一線級の男の顔には如何いかな美少女とてタジタジだろう!

 今度は美少女パワーで押し切られなかったと、俺は両腕を腰に当てて必要以上に誇らしげに仁王立ちしていたのだった。


 「あ、あの……最嘉さいか様?お、お取り込みのところ申し訳ありませんが、話を進めさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 「っ!?」

 聞き慣れた声に俺はハッとなる。

 不毛なやり取りを繰り広げていた俺と雪白ゆきしろの近くに一人の若い男の姿があった。

 というか、男はずっとに居たのだが……

 「最嘉さいか様?」

 それほど筋肉質では無いが締まった身体からだが服の上からもわかる、俺より少し背の高い男は黒髪を尻尾のように後ろで結わえた、スッキリした顔立ちの中々の好青年である。

 ――人物の姓名は”宗三むねみつ いち

 俺にとって、ひとつ年上の従兄であり絶対の信頼を置く腹心の部下である。

 「あぁ、悪い悪い。この”わがまま天然白色美少女”が絡んでくるんで、ついな?続けてくれ」

 いちに視線を移してそう促す俺に彼は頷き、雪白ゆきしろはむくれる。

 「日乃ひの領の領都にして中心拠点であるこの”堂上どのうえ城”及び周辺施設は全て押さえました。日乃ひの領土内を全て制圧するにはあと”覧津みつ”・”那知なち”の二城も速やかに押さえるのが肝要かと」

 宗三むねみつ いちは俺が南阿なんあの”純白の連なる刃ホーリーブレイド”に投降した後、交換条件で解放された我が臨海りんかいの部隊を率いて自領に撤収した……

 という事に表向きはなっているが、実はこうして俺の手元に残っていた。

 撤収した臨海りんかい軍を率いて帰還したのはいちの影武者、替え玉だ。

 今回出兵した臨海りんかい軍のナンバーワンである俺とナンバーツーである宗三むねみつ いちが揃って行方不明というのは如何いかにも不審であるし、かといって残った俺には色々とやることがある。

 つまり、手元にいちのような優秀な部下が必要不可欠であったがゆえの替え玉作戦だったのだ。


 「最嘉さいか様、明日には世界が切り替わります。つまり……」

 俺はいちの進言に頷いた。

 ――そうだ、明日は金曜日

 世界が”近代国家世界”に切り替わる日だ。

 ”戦国世界”での情報は向こうでは”ほぼ”筒抜けになる。

 表面上は平和で不可侵な世界、情報技術環境の整った”近代国家世界”では情報交換が容易だからだ。

 ――つまり……だ

 俺が生きている事も、日乃ひの領を奪い取ったことも……

 雪白ゆきしろとの密約や事の詳細は流石に大丈夫でも、大方の”あらまし”は知れ渡ってしまうのだ。

 日乃ひの領を奪い取ったのは表向き、南阿なんあ雪白ゆきしろ達”白閃隊びゃくせんたい”というふうに公表されている。

 だが、俺が”純白の連なる刃ホーリーブレイド”に降ったこと自体は知れるだろう。

 当然、天都原あまつはらは動いてくるだろうし、南阿なんあもなんらかのアクションを起こすだろう。

 以上の当然な流れから――

 出来るだけ短期間でこっちも準備万端、対応できるようにしておかなければならない。

 その為には取りあえず日乃ひの領の完全なる制圧が不可欠だった!


 「日乃ひのの重臣や有力な豪族が治める覧津みつ城、那知なち城の二城を攻略すれば、確かに日乃ここで俺達に逆らう勢力は無くなるだろうな」

 進言に対する俺の応えにいちは頷いた。

 「そのためにも現在いまの兵力では……」

 「手は打ってある。そろそろだとは思うが」

 いちの懸念に俺が”心配ない”と答えた時だった。

 ダダダダダッ!

 慌ただしい足音と共に一人の兵士が駆け込んで来る。

 「報告!ただいま日限ひぎり領主、熊谷くまがや 住吉すみよし様とその手勢二千!ご到着なさいました!」

 ――おぉ、タイミング良いな

 俺は頷いてから、

 「これで覧津みつ城は問題ない。俺達は那知なち城の攻略に掛かるが……なにか質問は?」

 目前の宗三むねみつ いちと隣の久鷹くたか 雪白ゆきしろに改めて話しかける。

 「熊谷くまがや様に覧津みつ城の攻略を任せるのですね。では……」

 そう応えたいちはチラリと俺の横の白金しろい美少女を見る。

 「わたしはどちらでもいい……さいかがそう言うなら攻め落とすだけ」

 そして雪白ゆきしろはアッサリと事も無さげにそう言った。

 「悪いな、雪白ゆきしろ。俺たち臨海りんかい現在いま、手持ちの兵が無いから……」

 偽装のためとは言え、ほぼ全軍を臨海りんかいに撤退させてしまったために、俺に従って堂上城ここに残ったのは宗三むねみつ いちを入れても二十人にも満たない数で、軍とはとても言い難い。

 「べつに?そういう約定だから。それより明日は数学を……」

 相変わらずの無表情ではあるが……

 「……えっと……やくそく」

 彼女は多少、照れているのだろうか?

 僅かに白金プラチナの視線を俺かららせながら、久鷹くたか 雪白ゆきしろという白金しろい美少女は呟いたのだった。

 「わかってるって。だが、最初に言っておくが俺は中々にスパルタだぞ!」

 徐々に彼女に対し親近感を感じ始めた俺の冗談めかした言葉に……

 「……うん、わかった」

 少女が所持する桜色の唇がほんの少しだけ綻んでいたのだった。

 第九話「最嘉さいかと不確かな約束」END

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