魔眼姫戦記 -Record of JewelEyesPrincesses War-

ひろすけほー

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独立編

第十五話「真琴とあなたに残せる大切なもの」

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 第十五話「真琴まこととあなたに残せる大切なもの」

 ――――――――ヒュ――ォン!!

 「っ!」

 ――かわされたっ!?

 踏切はこの上ない!加速も……

 つまり、タイミングは完璧だったはず!

 ――でもかわされたっ!!

 私の右手に握った特殊短剣は綺麗に空を斬り!

 ブォンッ!

 敵将、阿薙あなぎ 忠隆ただたかはそのまま体勢をやや崩したままでも構わず自身の剣を振り下ろす!

 「っ!」

 私の勢いよく飛び出した身体からだは前方に流れて――

 剣撃ソレを避けるには不安定過ぎる!!

 ――だ、だったら!

 グッ……

 私は咄嗟にそのまま膝の力を脱力させ、”鈴原すずはら 真琴まこと”の会得した体術を崩壊させた。

 垂直に落下する身体からだ――

 ヒュ――――バッ!!

 高度を減らした私の頬を敵の刃がかすって通り過ぎてゆく……

 ――バランスを欠いて制御が難しいならっ!

 ――いっそ完全に崩してしまえばいいのよっ!!

 ――

 でも今度は!!

 紙一重で死を逃れた私の視界に間を置かず地面が迫る!!

 トッ!

 私は迷うこと無くそこに手を着いた。

 ブワッ!

 そして地面を掴んだてのひらを基点に、とり残されていた左足のかかとを背中越しに蹴り上げる!!

 「……」

 頭を下にして、反り上げた背面蹴りを!!

 これさえも難無く紙一重でかわす敵将!!


 ――私の爪先とかかとには刃を仕込んでいる

 打撃技を放ったときに出し入れできる暗器だ、それを……

 初撃空振りのため前のめりに、地面とほぼ並行になって崩れていた身体からだを強制的に落下させ、握った短剣ごと地面に手を着いた私は背中越しに左足を相手の顔面に向けて蹴り上げた。

 凶器付きの蹴り足が狙うのは相手のけいどうみゃくだ。

 それがこの一瞬、今さっき行われた私の動作。

 それを――


 「……」

 ヒュ――

 それを難なくいなした男は、そのまま眼下でへたり込んだような恰好になった私を再び光る切っ先で捉えようとしていた!

 「くっ!」

 ブォン!

 両手を地面に着いたまま、串刺しにされる前に、

 しゃがんだ状態から相手の足下を払う!

 ――トンッ

 「……」

 それも男は、冷静に一旦構えを解いてから半歩下がって容易にやり過ごした。

 ズザザザァァーーッ!

 その隙に!!

 まさに地面を転がるように土煙をあげてその死地から離脱する私。


 「……」

 「はぁ…はぁ…」

 私とその男は二メートル程の距離を置いて再び相対していた。

 息一つ乱れのない男と泥だらけで息も絶え絶えな私……

 実力差がそのまま表面に出た様な構図だ。


 「やはり……惜しいな」

 抜き身の剣をだらりと下げたままの男は呟く。

 「鈴原すずはら 真琴まことよ、我が主君あるじに仕えよ。殺して骸を晒すにはなかなかに惜しい」

 「……はぁ……はぁ」

 私は泥だらけの顔で自身の前面、胸の前あたりに両手の特殊短剣、前鬼ぜんき後鬼ごきを構えて、平然と声をかけてくる相手を睨み付けていた。

 「なんなら俺が口を利いてやっても良い。貴様なら器量も良いし、我が主君あるじの趣味にも添うことだろう」

 「趣味?……ふっ」

 私は可笑しくて笑ってしまった。

 ――私を……この”鈴原すずはら 真琴まこと”を欲しいと言うの?

 この危機的状況でも私は可笑しくて笑っていたのだ。

 そして勿論、私は……

 「鈴原すずはら 真琴まこと、この身は爪先から髪の毛先の一本に至るまで……いいえ、細胞と魂の一欠片ひとかけらまで余すこと無く臨海りんかい王、鈴原すずはら 最嘉さいかさまの所有物よ、そこに余人の付け入る隙など微塵もないっ!」

 そう応える!

 「確実に死ぬぞ。そして貴様の骸は見せしめとして、武人として、女として戦場に晒され、これ以上無い辱めを受けることになる。それでも……」

 「……」

 それは、残兵の戦意を削ぐため、総大将の私の無残な骸を裸にして晒すという意味だ。

 ――武将として、女としての辱め?死?

 私にとっての死ぬほどの辱めは……

 最嘉さいかさまと心を共に出来なくなること。

 「……ふふっ」

 私は本当に可笑しくて笑っていた。

 「滅びの美学か?滑稽な」

 ズチャ!

 交渉は無意味だと理解したのだろう、再び正面に剣を構える”殺気の塊”の様な危険な男。

 「臨海りんかい王に心酔する者、いや懸想けそうするか?女とは心底滑稽だ」

 「……」

 私の最嘉さいかさまに対する想いを無表情に、雑に言い捨てる男に思わずカチンとくる。

 「しかし、滑稽なれど……それもまた忠義の器か」

 そして、ジリジリと間を詰めて来る桁違いの化物。

 戦場での通り名は”鬼阿薙あなぎ

 ――

 「……」

 ピリピリと肌を刺激する死の空気に、

 私は黙ってその緊張に耐える。

 「総じれば天晴れだ、鈴原すずはら 真琴まこと。なれば我が討ち倒し猛者共に名を連ねることを許そう」

 ――――ズザッ!!

 言いたいだけを言い終えて、怒濤の如く踏み込んできた男の剣が――

 ズバァァァ!!

 私の胴体を縦一閃していた。

 「っ!」

 私はそれを身体からだの正面、角度を開いてかわす……

 ガキィン!

 いえ、かわしきれなかった!

 剣先は私の左の肩当てを弾き飛ばし、そのまま地面に――

 ――くっ!斬り込みが深い!重い!!

 肩への衝撃と圧倒的な剣圧で蹌踉よろめいた私の身体からだは反撃をする事も適わずに敵の二撃目に備えることもままならない!!

 シュ――ォン

 「なっ!?」

 私の身体からだを縦に斬り抜けた剣先は地面ギリギリで停止し、一瞬で今度は天に駈ける!

 一転して地面から私のあごに向けて跳ね上がる剣を!!

 ギィィィーーン!!

 咄嗟に両手の短剣を交差クロスさせ、辛うじて寸前で受け止める事ができ……

 ギギッ……ギッ!

 ない!?

 ――だめっ!押さえきれないっ!?

 鬼の剣はとどまらず、そのまま貪欲に血を欲する!

 「くっ!」

 ギャリィィン!!

 そして高々と振り上げられた剣!

 相手の剣の勢いを殺すことが出来ないと踏んだ私は、そのまま擦り上げられる剣の圧に逆らわないように一瞬で脱力し、そのまま後方に一回転してかわしていた。

 ――ザッ!

 着地した私は再び間を置いて鬼と対峙する。

 「はぁ……はぁ……はぁっ……」

 肩口を負傷し、二撃目は辛うじてかわせたものの、肩で上下に大きく息をする私。

 この痛み……上腕骨か肩甲骨にヒビくらいは入っているだろう。

 「……」

 対して、抜き身の剣を携えた息一つ乱れていない無傷の男。

 ――この実力差でははなから勝負は見えていた


 「一度ひとたび、本気で斬り結んだからには子女とは思わぬぞ、鈴原すずはら 真琴まこと

 「……はあ……はぁ」

 「この勝敗ののち、貴様のむくろからは全てが剥ぎ取られ、その身を、受けた傷を、敵味方衆人観衆の眼前に遠慮無く余すこと無く晒された挙げ句に、しかる後に首級は我が軍の穂先に高々と掲げられて我が王に献上される」

 「はぁ……はぁ……」

 ――凄んでいるわけでは無いだろう……

 阿薙あなぎ 忠隆ただたかは大国、天都原あまつはらの”十剣じゅっけん”が一振りにして世に名を馳せる戦場の羅刹だ。

 鬼将、阿薙あなぎ 忠隆ただたかとまで恐れられる化物には凄む必要が無いからだ。

 ――ただ……

 私の死後そのごを淡々と話しているだけ。

 ――

 「はぁ……はぁ……残念……ね、言ったはず。たとえ死に顔でも私を愛でられるのはこの世で鈴原すずはら 最嘉さいかさま”ただひとり”だと」

 「…………」

 ――そう、鈴原すずはら 最嘉さいかさま……

 今でも胸に焼き付いている、あの時の最嘉さいかさまのお姿……

 悲しみという感情を根こそぎ出し尽くし、

 虚ろな瞳で私を見る、抜け殻だったあの方を……

 ――
 ―


 「も、最嘉もりよし……」

 「まこと……か?僕は……なったんだ、これで……鈴原すずはらの一番に……」

 「もり……よし……さま?」

 ――見ていられない

 これは……こんな結末は、

 このひとは絶対に望んでいなかった、なのに……

 彼の足下には身体からだを多数、斬り刻まれて血の海に沈んだ嘉深いもうとの骸。

 鈴原すずはら 嘉深よしみが望んだ結末にして、鈴原すずはら 最嘉もりよしが決して望まなかった未来が現実ここに在る。


 「次期、臨海りんかい領主は僕だ。やった……やっ……た……はは……」

 なまじ理性的で精神力が人一倍強い少年だけに、

 こんな惨事の渦中でさえ正気を失うことができない彼は……

 「は……はは」

 ただ乾いた声で笑う。


 「そうだ!真琴まことは次期領主に仕えるんだろ?よかった……真琴まことみたいな家臣で、よろしくたのむよ……よろしく……た、たのむ……たのむよ」

 ――!?

 そんな最嘉もりよしを見ていることしかできなかった私は……

 鈴原すずはら 真琴まことは……

 「はい……はい……この鈴原すずはら 真琴まことがお仕え致します」

 気が付いたとき、そう口走っていた。

 鈴原すずはらの分家に生まれてから現在いままでそれには否定的だった私……

 かといって従わない事もできない人生を、現在いままで散々に葛藤してきた自分の事情ことなんかを、この瞬間ときは一片も残さず頭から抜け落ちた状態で彼を――

 「お仕え致します、この命尽きるまで、貴方のおそばに……」

 鈴原すずはら 最嘉もりよしを力いっぱいに抱きしめていた。

 「……ま……こと?」

 必死にすがかれているような、

 「…………」

 「まこ……」

 そんな気がして……

 「すみません、苦しいですか?それとも、少し……痛いですか?」

 「いや……そうでなくて……」

 そう、痛いのは私の方だった。

 ――痛い……

 ――胸が潰れそうだ

 彼を抱きしめたまま、うつむいてしまった私を心細そうに見る最嘉もりよし……さま。

 「はいっ……はい……お仕え致します、この命尽きるまで。貴方の為に、貴方が寂しくならないように、この鈴原すずはら 真琴まことがいつもおそばにお仕え致します……だから、だから……」

 「…………だから?」

 その時、胸の中の少年では無く私が言葉に詰まっていた。

 「だ……から……もりよし……泣かないで」

 ――だって最嘉かれはずっと……

 ――ずっと泣いていたのだから

 ――
 ―


 ――あの過去ときから鈴原 真琴わたしの本当の人生は始まった

 それから最嘉さいかさまは、最嘉もりよしから最嘉さいかと名前の読みだけを改められた。

 ――それはどういう心情だったのだろう……

 ううん、私にとっては同じ。

 大切なことは”鈴原すずはら 真琴まこと”は”鈴原すずはら 最嘉さいか”という、

 かけがえのない男性ひとと生涯共にあること……

 健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、

 悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、

 ――たとえ、死の困難に直面したときも


 ザザッ!!

 決着をつけるため、距離を詰めて迫る男!!

 「…………」

 それを視界に収めながら、私は左手に密かに隠し持ったある”モノ”を握りしめていた。

 ――鈴原すずはら本家に仕える分家わたしたちが最後に取る理想の忠義……

 ――それは主君の困難てきを道連れにした自爆

 戦国世界ではかなり貴重な火薬を圧縮した鈴原すずはら分家が虎の子の神風!

 「…………」

 ”馬鹿らしい”と私が最も嫌っていた人生だけど……

 今の私は自らの意思でそれを全うしようとしている!

 ――もちろん、鈴原すずはらの家にでは無い

 ――おきてでも、為来しきたりでも、誰に強要されたのでも無い


 ブゥゥン!

 剣を振り上げて鬼が迫る!


 ――そうよ、これは私の心!!


 阿薙あなぎ 忠隆ただたか……天都原あまつはら最強の戦士!十剣じゅっけん!戦場の羅刹!

 この男は危険だ。

 きっとこの先、最嘉さいかさまに対する障害のひとつとなるだろう。

 ――だから……

 ――だから、せめてイツだけでも……


 「見事に散れっ!鈴原すずはら 真琴まこと!!」

 シュバァァァァァ!

 既に避けられぬ間近で私をほふる刃が光った。

 「……ふふ」

 同時に私は右手の”虎の子”を強く強く握りしめていた。


 ――そう、あの方の望みを叶えて差し上げることが出来るのなら!

 ――この身に刻まれる孤独なる死さえも……

 ――死さえも……


 「鈴原 真琴わたし人生こたえにしてみせるっ!」

 ――鈴原すずはら 真琴まことの人生は”最嘉さいかさま”……それでいい!

 最後の瞬間ときも私に迷いは欠片も無かった。


 「ふふ……あしたに道を聞かば、ゆうべに死すとも……可なり」

 ズゥゥッッ――――ドォォォォォォォォォォォン!!


 そしてそれは……

 「……」

 鼓膜を激しく叩く振動が、なんだか遠くで聞こえたような、そんな不思議な感覚だった。

 第十五話「真琴まこととあなたに残せる大切なもの」END
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